13.戦士の門出
「部屋の真ん中の椅子に座って待っていてくれ」
平太が黒柳に通されたのは、寂しい部屋だった。真ん中に歯医者で使うような診察椅子が殆ど寝た状態で一つあり、天井の丸い電灯から淡い光が降ってきていた。
平太は言われた通りに椅子へ寝転び、天井を仰いだ。注ぐ光は眩しくなく、心地良くて眠たくなった。
「準備するからちょっと待っててね」
そう言いながら黒柳は移動台の乗ったTVとケーブルが沢山付いたヘルメット、タブレット(画面の大きなスマートフォンの様な物)を持って来る。
「なんですか? それ?」
平太が寝転んだまま黒柳に問うと、口の端を持ち上げ笑った。
「これはゲームキャラクター作成用の道具だよ」
「そんなに大きいんですか?」
「ああ。本来、ゲームで設定する分には小さくて良いんだが、今回は過去で散策出来るようにしなきゃいけないからね。
君の脳からデータを取り出して、君と同じ思考を持つNPCを作らなきゃならないからこんなに仰々しいんだよ」
「よくわからないです」
「はは。なんとなくで良いさ。さあ、始めよう。コレを被って」
平太は言われた通りにヘルメット状の物を被る。それの裏側はシャープペンの持ち手に付いている衝撃吸収材のようなゲルが満たされており、被るとひんやりした。
「データを取る為に何個か質問するよ。良いね?」
「うす」
黒柳はタブレットの電源を付けると、ポケットから別の眼鏡を取り出し、目を細めて読み始めた。
「君の名前は?」
「夕凪平太ですよ。知ってるでしょ」
黒柳は目を合わせてニヤリと笑う。冗談だよという意味だろうか? そして質問は続けられた。
「年齢は?」
「16歳」
「趣味は?」
「特に無いです」
黒柳は笑顔を崩す。平太は少しイライラした。
「無いのかい?」
「文句が?」
平太は思わず、強く言いすぎてしまう。
黒柳は唸ってからタブレットに目を移した。
「無いよ」
「君の一番の友達の特徴は?」
「そんなこと聞いてどうするんですか?」
「良いから」
「背が小さくて、頭が悪くて、いつも俺の話をニコニコ笑って聞いてくれる奴ですよ」
「そうか。こんな状況なら、友達のことがさぞかし心配だろうな」
「いえ、心配はしていません。何時の間にか消えてしまいましたから」
「そ、そうかい」
「他の質問は?」
「あ、ああ。それから」
5〜10個程質問をしただろうか? 黒柳が「以上だ」と言って質問タイムを終える。平太は頭に被ったヘルメットを取り、黒柳に渡した。
「あれ? ゲームキャラクターは作らないんですか?」
「質問した結果、君に最適な装備を付けてあるよ。これをご覧」
差し出されたタブレットには全体的に灰色で軽装なゲームキャラクターが映っていた。 茶色くて動物の牙が付いたバイキング帽子、斜めに掛けた赤と黒のベルト、アンバランスな程長い灰色の長いマフラーを纏った平太がそこには居た。
両手には赤い棒と赤い盾を持っており、中々カッコ良かった。だけど、棒でどうやって戦うんだよ。平太は疑念を口に出す。
「武器は棒と盾ですか? もっと攻撃的なのは無いんですか?」
「ああ。それも考えたけど、例のパスワードを覚えてくれているようだし、特に武器も不要かな? って思ったんだ」
そこまで信用してもらえているのか。
平太は、ほんの少し嬉しかった。誰にも何も期待されない毎日を過ごしていると、些細な事でも嬉しく受け止めてしまう。
安く出来ているなと自分を笑った。
「そうですか。わかりました」
「そうだ。ちょっと待っててくれないか? ついでに操作方法を書いた説明書を渡しおくよ」
「あ、はい。わかりました」
黒柳は説明書を探しに奥の部屋へ入っていく。平太は付いて行きはせず椅子の上で待つことにした。しばらく、そうしていると段々眠くなって来る。
今日は本当に色々あったから仕方がない。
微睡みの中を揺蕩うように眠る。それ平太は軽い夢を見た。昔の友達が必死に平太に伝えようと口を動かすのだが、何を言っているのか聞こえない。平太が言葉を聞き取ろうと、必死に耳を澄ませた時だった
バン。扉が閉じる大きな音で平太は飛び起きた。見ると目の前の扉が半開きになっている。
「誰だ!?」
黒柳が大きな声を出す。
平太は寝ぼけた目をこすり、自分が入ってきた扉を見た。閉めた筈の扉は、手招きをするようにギシギシと音を立てながら動いていた。
「ね、寝ていたら扉が勝手に開いたみたいです」
平太が怯えながら振り向くと、黒柳は顔を真っ青にしていた。
「今から部屋を案内するからそこに入ってろ!!」
「いきなりなんなんですか? 飯だってまだ食べてないし」
「良いから!!」
黒柳に手を引かれ、案内された狭い部屋に押し込まれる。
「中に電気ケトルとカップラーメンが有るから食ってろ!! 誰が来ても開けちゃダメだぞ!!」
黒柳は捨て台詞を吐くように大声をあげてから扉を閉めて鍵を掛けた。
「え?......お箸はどうすれば良いんですか?」
平太の声は誰に聞かれる訳でもなく部屋で反響して消えた。




