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今日から学校と仕事、始まります。①莞

最速投手の高校時代

作者: 孤独

その男。後に人類の最速に辿り着く投手となる。


井梁いりょう れん


全国の中学生の中で誰よりも速い球を投げられる中学生。その球速はMAX145キロという、破格なものだった。



『よく我が高校を選んでくれた!君が来てくれたことに感謝する!』


高校一年時から全国に名が広まっていた。誰より速い球を投げるというだけで皆、怖気づく。

そんな高校1年生時代の井梁は怪物という称号を振り翳し、全国で活躍したかと思えば。



『背番号、11。井梁!』


実は一度も高校時代の3年間では全国で活躍することはなかった。それどころか、エースナンバーを背負うことがなかった、後の最速投手。

確かにずば抜けた直球に対する才能に対し、


『球が速いだけ!』

『ノーコン!』

『体力がない!』

『変化球が投げられない!』



信じがたいことに井梁は投手としての才能はそれほど高くなかった。彼は直球だけの天才だった。そして、高校まで直球だけを磨いていた。

高校時代の恩師は井梁と出会い、非常に悩んだそうだ。



『これほど才能がない投手を初めて見た。素人みたいな奴だった』


中学時代は全国まで進んだことのある井梁であるが、ほぼ井梁のワンマンチーム。井梁がストレートで抑え、なんとか1点をもぎ取って最終回までいく。

超高校級のストレートに、中学生達は手も足もでないが高校生達は違っていた。

まず井梁のストレートにビビらなかった。



『じっくり見極めができる球だ』

『力押ししかねぇ。いくらでも打てる手段はある』


丁度良いバッピ扱い。死球もやらかすから危険なところもあったが、全国クラスの逸材がこうして雲隠れしてしまう。一時の挫折がある。

サウスポーという浪漫装備を兼ね備え、高校1年の冬には150キロを計測するなど。力は確実についている。

しかし、今はマシンで150キロ以上の球を打てる時代。ストレートに対応する水準が打者達にはあったのだ。この現実を打破したい井梁であり、彼はガムシャラに体を苛め抜いた。体格もより大きくなり、高校生の体を超えていた。それでも高校時代、抜きん出ることはなかった。

ストレートだけで突破できるほど、全国は甘くない。現実は甘くない。



『まー、その………なんていうかね』



恩師は井梁をエースとして見たかった。しかし、高校ではない。


『井梁は必ずプロに行く。私は高校で活躍する井梁より、プロで耀く井梁を見たかった。技術的なことを教えられるほど、高校3年間を井梁に注げないし井梁も身に着けられない。体をしっかり作らせて、これから先の戦いで力を出して欲しい。そう思って3年間を過ごさせた』


恩師は井梁をプロまで見送ってからクビを切られた。それでも満足した顔だったと、振り返っている。

自分が未来のエースに携われたこと。



『私の指導より一番練習した井梁が3年間ずーっとベンチで我慢してくれたことが素晴らしい。途中で辞めたらきっと重たい罪だった』



”160キロ”の無名。プロに入っても未だにストレートだけの男。

そして、井梁はプロのマウンドに立つ。誰よりも速く投げる投手。相手打線が沈黙するほどの剛速球を投げ続けるセットアッパー。



「……ふむ」

「どうしたんですか?阪東さん」

「いや、井梁がさっき高校時代の恩師が見に来ていると言っていてな。志願の登板というわけだ」

「なるほど。それじゃあ気合が入りまくりなわけですね」



高校からの入団。その多くは素材として見ている。井梁ほど、ストレートに特化した素材はなかっただろう。入団直後、プロでやられるだけの技術を教え、身につけさせるまで5年の時間がかかったそうだ。実戦経験の不足が目立ったという。


「軽く育成放棄していた恩師だな。恩師としてどうだろうか?」

「野球をする頭は悪かったですから。基本的な技術に5年もかかったなんて、普通じゃ考えられませんよ」

「プロ入りできていなかったら悲惨だったぞ」



恩師にはそれぞれあるだろう。ロクでもなかった恩師かもしれない。

しかし、プロまでその器を鍛え上げ、大事に育てたといえば確かなものだろう。井梁はそう信じており、高校時代を超えられた球を今でも投げられる理由に恩師を挙げる。



「ストライク!バッターアウト!!」


井梁のストレートはプロの壁をとうに突破していた。


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