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姉の教え其の二、デレデレするな!(4)

 鮮やかなオレンジ色に染まる校舎。

西日が射す教室では、生徒達がいそいそと帰り支度を始め、教室の外グラウンドでは、



「北凰、ファイッオーファイッオー!」



と、威勢の良い掛け声と共に、野球部の走り込みが行われていた。


時刻は午後五時。 


薄暗くなりつつある空に、カラスが一羽飛び立った。 その様子を校門の近くから眺める少年が一人。 司郎だ。 直道、胡桃も側にいた。



「ねえ、本当に大丈夫?」



胡桃が心配そうに司郎の顔を覗き込む。



「う、うん。 もう大丈夫だよ」


「心配なら胡桃が家まで送ってやればいいじゃん。 逆送り狼、みたいな?」



ニヤニヤと意地悪な笑みを浮かべて直道が言った瞬間、


──ブンッ


一陣の旋風。 独楽のように胡桃の体が回転したかと思えば、いつの間にか胡桃の右背足が、直道のこめかみ部分に突きつけられていた。


上段後ろ回し蹴り。 中国拳法で言う旋体脚だ。



「誰が狼って……?」



目の据わった胡桃が直道を一睨み。



「さ、さすが拳法部! は、はは」



そう言って直道は冷やせを拭いながら苦笑い。



「元よ、元拳法部。 たっく、あんたはいっつも一言多い……ん?」


「ど、どうしたの胡桃ちゃん?」


「あ、いや、あの子。 何かこっち見てるから」


「あの子?」



胡桃は言いながら校門の方を指差した。 司郎達もつられて直ぐに振り返る。


同時に、校門にあった人影が夕日に照らされ揺らめいた。



「あ、こっち来たぞ」



直道が西日に目を細めながら、校門からこちらに近づいてくる人物を見ながら言った。


近づいてきた人物は司郎達の側まで来ると、立ち止まり後ろ手にしながら、軽く会釈してきた。



「今日は」



少女の声。 が、その声に一早く司郎が反応する。



「えっ、あ……!」


「あ、朝霧 美桜!?」



思わず口を紡ぐ司郎だったが、代わりに直道が驚愕の声を上げた。

その声に周りにいた帰宅途中の生徒達も騒ぎだす。



「あ、朝霧 美桜ってあの!?」



胡桃も面食らったのか、目を見開いて口元を手で押さえている。



それもそのはず。 美桜もこの北凰学園の生徒ではあるが、登校したのは入学初日だけ。 しかも入学式を済ませた美桜は、その後教室に姿を現す事無く、仕事を理由に早退してしまったのだ。


よって学園に姿を現したのはこれが二度目。 出会える確立は奇跡に近い。

そんな美桜が今、生徒達の目と鼻の先にいるのだ。 これが驚かずにいられようか。


が、その中でただ一人司郎だけが、見事に顔を真っ赤にして狼狽している。



「ふうん、君が司郎君か」



美桜はあたふたとしている司郎を値踏みするようにジロジロと見回した。 それに対し、胡桃の口元が不快気に引き結ぶ。 



「あ、あの、何なんですか?」



胡桃は咎める様な目で美桜を睨み、硬い声で言った。

相手はあの朝霧 美桜。 が、同じ女である以上、ここで引き下がるわけにはいかないのだろう。



「ん? ちょっとね。 ふうん」


「えっ? な、何を?」



対抗意識を燃やす胡桃だが、美桜はまったく気にしていない様子。 と言うよりほぼ眼中にないといったところか。 しかもそれどころか、司郎の目の前に行くと、鼻と鼻がくっつきそうなくらい、自分の顔を近づけ、司郎の頬に両手を添えて、何かを確かめるようにフニフニと弄び始めた。


これには流石の司郎もデレてしまう。 それを見て胡桃が猿のような呻き声。


だが、司郎のすぐ側に、更に殺気めいた呻き声を上げる人物が一人。



「貴様、私の司郎に何をしている……?」


「ん? 何よ貴女……?」


「ね、姉さん!?」



そう、朝方北凰学園の全校生徒達を、混乱の渦へ投げっぱなしジャーマンを決めた、我らが生徒会長にして司郎の姉、宮元 澪その人だ。


澪に気が付き素っ頓狂な声を上げる司郎だったがもう遅い。 弁明しようと身振り手振りを見せた瞬間、



──ゴチンッ



「きゅぅぅぅぅ」



落雷のような鉄拳制裁が司郎の後頭部を直撃。

司郎はぐったりとし、足をクネクネさせながら沈んでいった。


あまりの出来事に胡桃と直道は、子犬の様に怯えながら、ただただ見守るのみ。 



「姉の教えその二、デレデレするな!! ふん」



そう言い捨てるように言い放つと、澪は目を回しぐったりする司郎を、片手で意図も簡単に肩に担ぎ上げ、颯爽とその場を去ろうとした。



「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」



美桜だ。 完全に置いてきぼり状態の美桜だったが、振り絞るような声であの澪を呼び止めた。 周りにいる野次馬生徒達の顔に戦慄が走る。


機嫌の悪い澪を呼び止める。 それがどれだけ自殺行為に等しい事なのかを、北凰学園の生徒達のほとんどが知っている事だ。 手負いの熊? 虎? その形容詞のどれもが霞んで見えるほど。



「まだ何かようか?」



殺意の篭った声。 普通の人間ならこの時点で失神ものかもしれない。


が、美桜はそれでも引かない。 司郎に大事な用があるのだ。

自分の人生を変えてしまうかもしれない程の用が。



「あ、貴女一体何者なの? さっきその子が姉さんって言ってたけど、まさか……?」



「いかにも。 司郎が究極にして最大最強に愛して止まない姉の、宮元 澪だ。 貴様は?」



言ってることはバカっぽいが、その目は本気も本気だ。 見つめるだけで人が殺せるなら、今の澪なら確実に、大量殺人鬼になってるところ。



(お、同じみお……? ていうか何なのこの女!)



美桜は自分と同じ名前の澪に驚きつつも、澪の傍若無人っぷりに腹を据えかねたのか、憤怒の形相で澪を睨みつける。



「朝霧 美桜よ……!」



美桜は叩きつけるように言い返した。


だが、澪は関心ないと言った感じで体をぷいと反転させ、再び歩き出す。


歯軋りしながらその後姿を見つめる美桜。


その様子を見守る、すっかり怯えきった学園生徒達。


後の北凰学園の歴史に、衝撃のファーストコンタクトとして、語り継がれるであろう一幕が、沈み行く夕日と共に、幕を閉じた瞬間だった。

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