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姉の教え其の一、男は女を守るべし!(2)

御坂市神楽坂区。


高層ビルが立ち並ぶこの町の中心部、JR御坂駅。 そんな通勤ラッシュ時の駅前広場で今、異様な人だかりができていた。


人だかりの中心には、レジャー用のパイプ椅子に足を組んで座り、優雅に雑誌を読む、一目で目を奪われる程の美少女が一人。


周辺を通り過ぎてゆく人々すら、つい足を止め様子を伺ってしまうくらいだ。

人集りも増える一方である。


周囲の人々が見守る中、その少女のポニーテールが不意に風になびいた。

ふわり、と揺れる前髪。 そのすぐ下からは、メノウのような瞳と切れ長の美しい双眸が、愛くるしくキョロキョロと雑誌の文字を追っている。


ほんのりと桃色に染まる形のいい唇で、隣にいるサンバイザーを掛けた年上の女性と何か喋っているようだが、辺りの騒音に紛れ、周囲の人々にそれを聞き取る事はできない。


横にいた女性が、何も言わず少女の寄れた襟元をそっと正す。

胸元の大きく開いたピンクのブラウスに、キャリアウーマンを思わせるようなブラックスーツ。 美貌と相まってとにかく目立つ事このうえない。


不意に、人混みの前で立ち止まったサラリーマン風の男が声を上げた。



「 何かの撮影?」



男がそう言ったのも至極当然。 少女の周りにはそれを思わせるような撮影機材がズラリと並び、それらしい格好をしたスタッフ達が、何やら熱心に打ち合わせをしている。


男の声に反応したのか、次々と野次馬の中から別の声が上がる。



「おい……あれ、」


「お、おう。 ガチ朝霧 美桜だ……すげ」


「肌綺麗、顔小さい!」


「スタイルいいな、あれマジで高校生か?」



思い思いに騒ぎ出す野次馬一同。 その口々に揃って出てくる名前こそ、今やグラビアアイドル界で知らない者はいないと言われる程のアイドル、朝霧 美桜。


有名な某ファッション雑誌で表紙を飾る、今や押しも押されぬ有名トップアイドルだ。

最近ではテレビメディアの露出も多く、その知名度はかなりのもの。


そんなアイドルが朝早く、通勤通学でごった返すこの駅前広場で撮影を行っているのだ。 こんな機会滅多にお目にかかれるものではない。


が、当の本人は周りには目もくれず。 まるでそんな野次馬なんぞ存在しないとばかりの態度だ。


ふと、雑誌に目を通していた美桜から笑みがこぼれた。

年はまだ若く 16才、その笑みには妙に艶がある。


その仕草を見守っていた周りの男達から、一斉に身悶えるような声が漏れた。



「うおぉ、あの笑顔もたまんないな……」


「何かスタッフと喋ってるみたいだけど何話してるんだろ……ああ、俺も話してえ」



思い思いに妄想に耽る野次馬一同。 そんな一同の視線の先では以下のやり取りが、



「え? 美桜、何か言った」



荷作りをしていた美桜のマネージャーが作業の手を止め、美桜の方へと振り向く。



「だ、か、ら。 この前買った株よ株。 やっぱり上がってた! ここ最近の円安でかなりやばげだったけど、やっぱり相変わらずこの関連の株は強いよ。 うんうん!」



と、明るく可愛いらしい声で俗っぽい事をあっけらかんと語る美桜。



「さっきから何読んでるの…… 週刊トレードマネーって、美桜、あなたまたそんなもの読んでたの!? はぁ、まったくあなたって子は……ギャラリーも集まってきたんだし、たまにはファンサービスの一つでもしてあげなさいよ」



ガックリと肩を落としたマネージャーにそう言われ、美桜は頬を膨らませやや不満顔。

だが事情を知らないギャラリーからしてみれば、そんな顔もまたおいしい表情なのだろう。


美桜が表情をコロコロと変える度に、周りのギャラリーも一々反応している。



「マネージャー堅すぎぃ。 ていうか撮影終わったばっかで超だるいし。  ファンサービスとかマジやってらんないって」



そう言って片手をヒラヒラさせながら軽く溜め息をつき、美桜は不満気味に言った。 



「それにどうせ皆見てるのは私の外見だけなんだから。 だったらたまにこの程度振りまいとけばいいのよ。 こんな風にね」



そう言うと美桜は周りをキョロキョロと見渡すと、先ほどから熱烈な眼差しを向ける男子生徒に向かって突然、大きな瞳をぱちくり。

とびっきりのウインクをして見せた。



「+#<‘@!!」



もはや何を言っているのか分からない断末魔を上げ、その場に卒倒する男子生徒。



「うおぉ! 美桜ちゃんのウインクを返しやがれ! 俺によこせこの野郎!!」



横にいた作業服の男が、倒れた男子生徒の襟首を乱暴に掴み揺さぶり起こしている。



「ね?」



そう言って美桜は舌先をチラリと出して、悪戯めいた笑みをマネージャーに向けている。


これでまだ十代、末恐ろしいとはこの事である。



「あなたね……」



マネージャーは目頭を指で押さえながら、小さく首を横に振った。


もはや呆れてなにも言えない様子だ。



「さあて、次は何買おっかなあ、」



美緒は大して悪びれた様子もなく、再び雑誌に目を通し始めた。


そんな不毛なやり取りが終わりかけた時だった。


突然、美桜達がいる場所の近くで小さなざわめきが起きた。 が、次第にそれは波のように押し寄せ、大きなざわめきへと変貌した。

撮影班達もそれに気が付き騒ぎ始める。


単にファンが騒いでいるといった色めいたものではない。 もっと騒然とした何かだ。


次の瞬間、明らかに悲鳴ともとれる女性の声が辺りに響いた。



人だかりが異様な雰囲気に包まれ始める。 皆が皆、その原因となるものを探そうと必死に辺りをキョロキョロと見回す。


異変に気が付いた美桜も雑誌を投げ捨て椅子から立ち上がり、すぐにマネージャーの元へ。



「な、何? マネージャーさん、何かあったの?」



落ち着かない様子で美桜が言うと、マネージャーも自体が飲み込めていないせいか、やや混乱した様子だ。



「分からないわ…… あなたはここにいて、いい? ディレクター? ディレクター!?」



マネージャーは美桜を落ち着かせるように肩を抱くと、ディレクターを探しにその場から離れて行く。


だが、それがまずかった。



「きゃあぁっ!!」


「うわぁぁ!」



悲鳴が更に美桜のすぐ後ろで鳴り響いたのだ。 一人ではない、大勢の劈くような悲鳴。


そして次の瞬間、美桜自身もまた悲鳴を上げる事となった。 迫り来る殺意の異変を目の当たりにして……

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