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童話シリーズ第二弾です。

すぐに完結する予定ですのでお付き合いください。

 昔あるところにアロンという名前の狩人がいました。

 アロンは若く逞しい青年でした。純朴な麦畑を彷彿とさせる金髪に、深い海の色をした瞳。腕の筋肉は隆々と膨らんでいます。彼は容姿も美しく、力強い男で、狩人としての腕前も森一番でした。巧みに操る弓は、空高く飛ぶ鳥を確実に射抜きますし、獰猛な猟犬の使い方も抜群でした。

 しかし、アロンには決定的な欠点があったのでした。彼は徹底的に人嫌いでした。

 アロンは周りに人を寄せ付けない男でした。森の古ぼけた小屋に一人で住んでいる彼は、生まれて以来、狩りの師匠である父以外とほとんど会話らしい会話をしたことがありませんでした。月に一度程度、小屋までやってくる商人と獲物の取引をする以外に、彼は口を開きませんでした。

(都市の人間は何故あんなにも臭いのだろう。新鮮な汗や血のたぎる臭いじゃなく、腐った内蔵の臭いがする)

 アロンは商人と話をしているときにさえ、そう考えてしまいます。話の内容も彼には理解できませんでした。誰かと誰かが結婚するらしい。誰かが誰かと女の取り合いで決闘したらしい。

 そんなこと、アロンには全く関心がありませんでした。

 彼が好きなのは、夜の森を静かに照らす月であり、木々の間に凪いでいく風であり、どこか物寂しい獣たちの遠吠えでした。

 彼は森での孤独な生活を愛していたのです。


※※※


 ある日のことでした。

 アロンが弓を携えて狩りに出かけると、きれいな体毛をした鳥が一匹、彼の頭上を飛んでいきました。その体は黄金に輝き、一瞬見ただけでもその毛皮が高く売れそうだということがわかります。これはすごいものを見たぞ、と彼は内心興奮してしまいました。

「よし、追いかけよう」

 彼は慎重に追いかけました。足音を立てずに走るのも、アロンの特技でした。時にその鳥の鳴き声を真似して寄せ付け、時に大声を出して脅し、彼は巧みに黄金の鳥を追いつめていきます。そして最後には、抜群の弓の腕前でしとめてしまいました。

「やったぞ!」

 ぐったりとした金色の鳥を抱え、彼は小屋へと歩きだしました。

 しかし、そのとき不思議なことが起きました。森の中から嗄れた老婆の悲鳴が聞こえてきたのです。それは人の声とは思えぬほど禍々しく、森の中を震わせています。気のせいかお日様もかげり、雲がかかっているような気がします。

 ふと抱えていた鳥の躯を見ると、さきほどまで黄金だった体は黒々しく濁っていました。それはどこから見てもただのカラスにしか見えません。

「黄金の鳥がカラスになってしまった。何故だ?」

『私の子をよくも殺したなアロン!』

 うなり声にしか聞こえなかった声が、言葉を発しました。

 どうやらその声の主はアロンに激怒しているようでした。

 アロンは恐ろしくなって収めていた短剣を抜いて周りを見渡しましたが、そこには誰もいませんでした。

『その鳥は私の大事な錬金術研究の賜。私の子供同然だ! それをお前は殺した!』

 興奮した様子で、老婆の声が怒鳴りました。

 アロンは困惑して聞きました。

「お前は何者だ!」

『私はこの森に昔から住んでいる魔女のエカテリーナ。人に蔑まれ、逃げるようにこの森にやってきた。ここは安全だったのに、お前は私の領域を侵した。許さないぞアロン。お前を殺してやる!』

 しゅるしゅる、と音がしてアロンは振り向きましたが、遅すぎました。

「毒蛇か!」

 彼の足首に、一匹のふとましい体の毒蛇が巻き付き、かみつきました。

 瞬間、彼の体に痛みが走りました。

 全身の神経を針でつつかれているような、耐え難い痛みです。

『だがただでは死なせないぞ。お前の最も苦しむ方法で殺す。その毒蛇の毒はな、お前が一人でいるときにしか効果を発しない。誰か別の人間といる間には毒は静まったままだ。孤独を愛するお前には一番苦痛に違いない。薬も効かないぞ。人間の力はこの”孤毒の魔法”には及ばぬのだ』

「頼む、助けてくれ! 鳥の件は謝る!」

 アロンは毒の苦痛に耐えかねて、必死に叫びました。

『戯れ言など聞かぬわ。動物と違い、人間は裏切る生き物だ。反省の言葉など信用せぬ。せいぜい苦しめ!』

 声の気配が薄らいでいくのを感じ、アロンは力を振り絞って話しかけます。

「わ、わかった。助けないでいい。なら、どうやったら魔法が解けるのか教えてくれ! それだけでいいんだ!」

 エカテリーナは一瞬考え込んだようですが、溜息ついて応じます。

『いいだろう。どうせお前のような人間には解けぬ魔法だ。教えたところでどうしようもあるまい。

 いいか、魔法を解くにはな、「一生一緒にいたいと思う相手」を見つけることだ。一時的に共に過ごすだけならば、毒が静まっているのも一時的なもの。ならば、お前のその命が尽きるまで共に生きる相手を見つければ、自然と毒は消える』

「そんな無茶な・・・・・・」 

 アロンは気を失いそうなくらいの痛みに必死に耐え、立ち上がりましたが、もう声の気配はありません。

「どうしよう。このままじゃ・・・・・・」

 くらくらする頭を抱えながら、アロンは歩き出します。その歩調もおぼつきません。

 さてさて。

 アロンはこの先どうなってしまうのでしょうか。


続く…

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