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回想
俺が帰路についたのは、しばらくしてからのことだ。来た時と同じようにうつむいて、寒さに震えながらぎこちなく足を動かし、来た時の倍の時間をかけて、俺は自分の家に辿りついた。おそらく逃れるすべはない。せめて、今のうちにできるかぎりのことをしよう。あの噂を、噂のままにしておくわけにはいかないのだから。
――これが、俺の身に起こったことのすべてだ。どこまでが真実で、どこからが幻想なのか、何が事件に関係していて、何が関係ないのか。それは俺にもわからない。あの刑事は全てが幻だと言った。俺も、始めは思い違いだと考えようとした。だが、果たして幻聴とはあれほど生々しく聞こえるものなのだろうか。夕べ俺が見たのは、本当にただの夢だったのか。
今の俺には、とてもそうは思えない。根を張り、葉を茂らせ、ひそかに息づく軽傘の夜には、人の灯りのとどかないモリの奥に眠っていたのと同じ闇が蠢いている。公園の茂みの中に、通りを挟んだ屋根の上に、こうして俺の向かっている机の片隅に……そうした無数の闇のどこかで、いまもあいつの凍てつくまなざしが俺を窺っているのだ』




