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揺るがなくなる人


「あれか!」


 右手には金剛爆斧、左手は馬の手綱を握って董卓・袁紹軍の右翼を突き進む。

 逃げるように慌てて道を開ける張遼隊兵士、馬上の華雄は張遼の居場所に当たりをつけた。

 そもそもわからぬはずがない、張遼は将であり武人だ。

 恐れず死が蔓延る戦場に出て、数千数万の兵を率いる度胸もある。

 ならばこそ、今張遼が居る場所を把握した。


 『最前線』


 それしか有り得ない、後方でつまらない指示を出すような軍師とは違う。

 故に馬を限界まで、それこそ泡を吹くまで走らせた。

 馬が大きく揺れ、脚を絡ませて激しく転倒するも華雄はすでに飛び降り着地と同時に駆け出していた。


「邪魔だ!」


 先の一騎打ちで孫策が言った『猪』そのままに、邪魔な張遼隊兵士を弾き飛ばしながら前進する。

 何事かと振り返る兵士たちは、険しい表情の華雄に慄いて避けるか、華雄の顔を知らぬ勇気ある兵士は止めようとして邪魔だと跳ね飛ばされた。

 それを幾度か繰り返して、不可侵のように開けた最前線で踊る二つの影。


「………」


 紛うこと無き一騎打ち、己の持てる全ての武をさらけ出して一瞬一瞬に全力を込める。

 それを見る華雄は、遠慮なく足を進めて邪魔にならない距離で止まる。


「ふん」


 二人は獰猛な笑みを貼り付けて、戦いを全身全霊で楽しんでいる。

 それが気に食わないが、邪魔するほど落ちぶれては居ない。

 華雄の進退を考えれば、乱入して張遼とともに夏侯惇を討つべきではあるがしたくはなかった。

 武人であるならば一騎打ちに割り込むなど恥辱の極み、己の武に誇りを持つならなおさら。

 得物の金剛爆斧を一度地面に打ち付けて、周囲を見渡す。


 開けた空間の中央では張遼と夏侯惇が一騎打ちを楽しみ、少し外れた所で文醜と夏侯淵が睨み合っている。

 華雄からして見れば文醜と夏侯淵の方は一騎打ちとは言えず、まるでじゃれ合っているようなお遊び。

 態々割って入るほどではない、ならばと華雄はその場で獲物を持ったまま佇む。


「張遼! さっさと終わらせろ!」


 華雄個人として、夏侯惇には武人として興味がある。

 しかし今大事なのは夏侯惇などより孫策、さっさと張遼が討って終わらせればいい。

 もし張遼が討たれれば、その時に自分が夏侯惇と一騎打ちをやればいい。


「チィ……! ってなんで華雄がおるんや!」


 一際鋭い一撃を互いに見舞い、ぶつかり合った反動で距離が開いた所で張遼が華雄を見た。


「そんなことはどうでもいい! さっさと終わらせろ! 出来んのなら私がやるぞ!」


 金剛爆斧の石突きを更に強く地面に押し当て、張遼を急かす。

 当然それを聞いたのは張遼だけではない、一騎打ちの相手である夏侯惇が華雄を見て鼻で笑う。


「アッハッハッハッハ! 雑魚が何しに現れたかと思えば!」


 それは野性的な勘か、あるいは本能か。

 夏侯惇は華雄を一遍見たあと、自分には敵わない有象無象の輩だと判断した。

 明らかに張遼より劣る、それなりと判断して、まさしく正鵠を射る。

 夏侯惇の言葉で言えば戦っても面白くない、数合で切り捨てることができる存在だった。


「貴様、よほど後悔したいようだな!」


 見下されれば頭に来るのが華雄、金剛爆斧を構えて夏侯惇へと向ける。


「悪いが張遼、一騎打ちの続きは誰か知らんこいつを叩っ切ってからだ!」


 売り言葉に買い言葉、乗り気と言うより路端の小石を蹴り飛ばす程度にしか思っていない夏侯惇が七星餓狼の切っ先を華雄へと向ける。

 一触即発、いや、すでに爆発している二人を見て張遼は頭を掻いた。


「……あー、すまん」


 唐突に置いていかれて気勢が削がれ、高ぶっていた気持ちが萎み頭が冷えた。

 これが尋常ならば一騎打ちに割って入るとは何事や、と華雄に怒りをぶつけたかもしれないが。

 『これは一騎打ち』ではない、もっと大事なことを差し置いて己の楽しみを優先した事への、言うべき相手に聞こえない謝罪の言葉。


「悪いがそれは出来ひんな」


 そう言って飛龍偃月刀を夏侯惇に向ける張遼。


「なにっ!?」


 まさか武人であるならばあり得ないと言って良い、誇りまで投げ打って複数で討ちに来るその姿勢に驚きを浮かべ、次いで怒りを向ける夏侯惇。


「張遼! 貴様ほどの使い手が──」

「夏侯惇!!」


 激しい怒りを浮かべる夏侯惇を制するほどの大声を放つ張遼。


「……あんたとの戦いは物凄く楽しい、ずっと打ち合っていたいくらいや。 でもそうして居られん事情があるんや」


 戦いの前の軍議の言葉、『強い相手との一騎打ちになると夢中になる』と、まさに言った通りの展開になってしまった。

 それに留意しろと言われて、実際夏侯惇に追われればあっさりと頭から消え去った。

 もしこれが敗北の起点となってしまったら、その後の後悔は計り知れないだろう。


「あんたにもあるんやないか? 己の全てを投げ打ってでも守りたいもんが」


 諭すように言う張遼に、夏侯惇はすぐさま愛しの主を思い浮かべてしまった。

 そうなれば唸るしかなかった、武人の誇りを捨て外道に走らねば曹操が死んでしまうとしたら外道に走りかねない。


「好きなだけ罵ってええで、それで守れるんやったら安いもんや。 ……華雄、やることはわかっとるな」

「……気に入らん」

「好き嫌い言うんやない、言われたんからこっちに来たんやろ」


 左翼で孫策軍と戦っているはずの華雄が単身右翼に来たなら、左翼は華雄が居らずとも何とかなる。

 これが勝手に来たのならば玄胞が黙っているはずはないし、あれだけ孫策に拘っていた華雄が左翼を放り出して右翼に来るはずもないと張遼は見た。

 孫策軍が壊滅したり、孫策が討たれたと言う報告もない。

 つまりは左翼は問題がなく、右翼を崩すために玄胞は華雄を送り込んできたと判断。

 二対一と言う状況も武人を誇りにする華雄なら絶対にしないだろう、しかし嫌そうな表情を浮かべつつも戦斧を降ろさない華雄は戦う気が有るということ。


「悪いな、惇ちゃん」


 夏侯惇に追いかけられる前以上に、武人の誇り等を心の底に押し込めて夏侯惇を見る張遼。

 そうしてここに武人は消え、ただ敵を討つ矛が残った。


「ここで終わってもらうで、連合軍と一緒にな」

少しだけ! あと少しだけで反董卓連合編終わるから!


あ、もし夏侯惇が外道に走るなら曹操は120%激怒します

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