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押し寄せる人


 連合軍の諸侯が董卓軍に味方した袁紹軍の対策を考えている頃、汜水関の中で郷刷は戦とはまた違った問題に対処していた。


「どう言う事だ!!」


 机が割れんばかりに握った右の拳を打ちつけ、机を挟んで向こう側にいる男に怒鳴り声を上げた。

 汜水関の一室には郷刷と賈駆、張遼と華雄の四人、それと伝令役の兵が数人。


「何がですか?」

「なぜ私が虎牢関に篭らねばならんのだ!!」


 殺気すら篭った視線を郷刷に向ける華雄、事は連合軍に対する方針や各将の役割を華雄が聞いてから。

 呂布と華雄は虎牢関の守りに、張遼は袁紹軍の趙雲と一緒に汜水関に配置した。

 それを快く思わなかった華雄が虎牢関から汜水関へと押し寄せ、郷刷へと詰め寄ったのが今。


「篭城に打って出る事を得意とする将は必要ありませんのでこういう配置にしたのですが」

「貴様! 貴様はあの時言ったな! 戦場を用意すると!」

「ええ、確かに言いましたが、華雄殿はよく考えているのですか?」

「考える? 何をだ!」


 言いたい事がわからない、華雄は睨みを利かせたまま怒鳴る。


「華雄殿も知っておられるでしょう、貴女が屈辱を受けた孫家の者。 孫堅様はもうこの世に居られない」

「それ位知っている!」

「屈辱を晴らす相手は居ない、ならばその娘に晴らさせる。 だからこそ考えてもらいたい、『華雄殿に屈辱を与えた孫堅様と、その娘である孫策殿が等価であるのか』を」

「……何?」

「つまり、今の孫家、孫策殿が華雄殿の屈辱を晴らすに値する存在か」


 華雄が孫家、正確に言えば孫堅なのだが、目の敵にするのは屈辱を受けたためだ。

 その受けた屈辱の原因は華雄自身にはなく、功に焦った同僚が暴走して部隊が乱れ、華雄はそれに巻き込まれて生まれた隙を孫堅に突かれた。

 混乱を沈静化させる能力が無かったと言われればそれまでだが、隙を突いた孫堅 文台は武人としての能力、部隊を率いる将の能力を持つ猛者。

 華雄の部隊が混乱しなかったとしても勝てた保障などどこにも無かった、そんな状況であればまた違う感情を持てたかもしれない。


「貴様っ!!」


 とうとう机を叩き割って華雄が郷刷に掴み掛かる。


「華雄!」


 張遼がすぐさま華雄の腕を掴み、離させようとするが。


「貴女が真に屈辱を晴らすべき相手は居ないのですよ、果たしてそれで本当に華雄殿の屈辱を晴らせるのか考えてください」


 それを制して言ったのは郷刷。

 郷刷の胸倉を掴んでいるとは言え身長差は頭半分以上ある、勿論それを無視して郷刷の足を浮かせる力を華雄は持っている。


「だからどうした!!」


 グンっと一気に郷刷の体、足が床から離れる。


「確かに孫堅は死んでしまった! だからと言って孫堅の娘が弱いはずが無かろう! 貴様は分かっていると思ったが私の勘違いだったようだな!」


 放り投げるように手を離し、倒れた郷刷の見下ろす華雄。


「華雄! やりすぎや!」

「うるさい! 張遼、貴様は黙っていろ!!」

「なんやてっ!」


 一気に一触即発の空気になる中。


「止めなさい! 二人とも!」


 一喝した賈駆が二人の間に割って入る。


「ゴホッ、……勘違いとは」


 咳をしながら郷刷が立ち上がり、真っ直ぐと華雄を見据える。


「私とて死んだ者から屈辱を晴らせるなどと思っては居ない! まさか貴様は私がただ屈辱を晴らしたいが為に孫策に食って掛かっていると思っていたのか!!」


 確かにそれもある、己の誇りを地に着けさせた孫家の旗を切り刻み、その血を大地へとばら撒くと。

 だがそれは孫堅の死によって一度は消えた、だがそれを蘇らせたのは孫策の存在。


「はっ、孫策が歯牙に掛けない者であったなら疾うに諦めておるわ!」


 強いからこそ華雄は孫家に対して轟々と炎を燃え上がらせる。

 それは己の誇り、武において甲乙を付けるものであり、それを行うに値する力が有ると華雄は聞いていた。

 つまりは華雄が受けた屈辱を晴らす機会と、武を競い合える相手との戦い。


「……そうでしたか、でしたらこうしましょう」


 郷刷はそれを聞いて服に付いた埃を払う。


「連合軍がこの関を打ち抜いたなら、平原にて正面からぶつかる事にします。 それと……」


 一度言葉を区切り、郷刷は華雄に向かって頭を下げた。


「私は華雄殿を見誤っていたようです、申し訳ありません」

「ふん、分かればいい! それと──」

「ええ、華雄殿も汜水関を守ってもらいます。 ですが、私の許可無く出ることは無きよう、破るのであればなんと言おうと後方に下がってもらいますから」

「始めからそうしていれば良い!」


 そう言って華雄は踵を返して部屋を出て行く。


「机の代えと片づけを」

「はっ」


 ばたばたと兵が動き、華雄に割られた机を片付けていく。


「……なんや、華雄もちょっとは考えとるんやなぁ」


 猪突猛進、そう言って差し支えなかった華雄の考えに張遼が唸る。


「それでも屈辱を晴らす為の方が大きいでしょうが」


 武人として武を競う、本懐かも知れないが割合的には八対二ほどで屈辱を晴らす方に傾いていると見る郷刷。


「……いやはや、この程度の事故ならば歓迎するのですが」


 ふふふと笑う郷刷に、怪訝な視線を向ける賈駆と張遼。


「もしかして頭でも打った?」

「いえ、尻餅を付いただけですよ」


 顎に手を当てて行き成りの事に思いがけない行幸を見出した郷刷。


「少し考え直さねばなりませんね……」


 華雄に関してのこと、もしかすればと予想だにしなかったこの事態で考慮に入れる必要が高まってきたと考える郷刷であった。

次は戦いかその前哨戦

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