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増えてきた人

 家臣団と趙雲に仕事を振り与えてから二刻ほど経って、新たに報告の手紙が来た。

 北方の雄、公孫賛が兵を率いて南に出立したとの連絡。

 現時点で予測できるのは二つ、他の諸侯が先んじて冀州を抑えた後洛陽の董卓を討つ。

 そして董卓と袁紹とが同盟を組んでいる事、それを知らずに直接洛陽に向かう。

 そのどちらか、厄介だ、判断する情報はやはり足りない。


「……全く」


 手紙を握りつぶす郷刷、椅子に座って机に向き合ったまま呟く。

 決めかねる懸案、出来るだけ早く対処を決めてしまえば今の問題は無くなる。

 しかしその結果が未来の成否を決める事になりかねない、故に矛盾する。

 早く決めたいが不安が残り決められない、堂々巡りに陥って進まない。

 そう思う理由も理解している、単純に『趙雲 子龍』と言う存在が稀有だからだ。


 言い換えれば手放すには惜し過ぎる逸材、是が非でも留めて置きたい存在。

 特に今の状況ならなおさら、武勇に優れ、高い統率力、それでいて熱くなりすぎない冷静な性格。

 見識もあり、軍師同士の話にも付いて行けるだけの知識。

 純粋に惜しいと、そう思ったのだ。

 このような問題事、多くの者ならさっさと切り捨てる、少数の者なら飲み込んで見せようと置いておく。


 そして郷刷が選んだのは後者、例え趙雲が間者だったとしても御して利用する。

 この程度やってみせる、逆に言えばこの程度出来なくてはこの先やっていけない。

 単純な話、想定内の十分対処出来る程度の問題に過ぎない。

 だがそれを超えた想定外に陥った場合は、文字通り郷刷の能力が足りなかっただけの話。

 その結果郷刷は死のうと構わないが、問題は郷刷を殺した力がそのまま袁紹に向かないかと言う事。


 となれば死ぬ事など出来ない、全ての障害を乗り越えるために調略し尽くして守る。

 

「……待ち、だな」


 賭けではない、想定された行動の先に仕掛ける罠に落ちるか、あるいはその仕掛けた罠が徒労に終わるか。

 結果は二つしかない、そこに第三の、罠を潜り抜けて謀り抜けるなどの不測の事態は用意されていない。

 つまり主導するのは全て郷刷、そうでなければいけない。

 その為に策を弄してきたのだ、決して劣勢に陥ってはならないと一つ深呼吸。


「厄介な時代だ」


 郷刷にとって唯一にして絶対の価値を持つものを守る事が出来ない可能性を孕む、好ましくない時代。


「……終わらせるしかないだろうな」


 そうして自室で深く椅子の背もたれに体を預ける郷刷は、ひざの上に置いた手のひらを見た。

 





 それから自室で事務仕事に励む郷刷、時間が経てど問題が舞い込んでは来ない。

 既に問題が起きているのでこれ以上舞い込んで来ても迷惑の他にならない。

 一番拙い予想が外れていれば、数日中にはまた情報を記した手紙が舞い込んで来るだろう。

 趙雲に付けている護衛と言う名の監視からも怪しい動きをしていると言った報告も入ってきてはいない。

 おそらくは趙雲も見られている事に気が付いているだろう、だからこそ監視の意味がある。


 自身の正体が露見する事を恐れるなら無闇に動かず目を引く行動を取らないだろう。

 見られていると分かって護衛を振り切るような真似をすれば、間諜である可能性は上がる。

 もしそうでなくても大事な仕事であると言い含めているのに、放り出して出歩くような真似をするようならば信頼が置けない人物として何かを任せる事は今後無くなる。

 どちらの行動を取っても趙雲が不利益を被る物にしかならない、故に郷刷はこれ以上動かない。

 そこに今現在の袁家の事情や郷刷の感情があろうとも、御せるのならまったく問題はない。


 そんな理由で郷刷はただ事務仕事を淡々と、月が地平線の向こうに沈む二刻(四時間)前まで仕事に励んだ。


 明けて翌日、日が昇って一刻も経たず郷刷は寝台から起き出して机に向き直る。

 そして事務、書類仕事に励む。

 郷刷が過ごす一日の過程は朝早く起きて、まず軽く前日の残っている書類仕事をこなし、給仕が持ってくる朝食を十五分ほどで自室で取り、そしてそこから食事だけの休憩を挟みつつ寝るまで仕事に励むと言うもの。

 他にやることが無い時はこの過程で一日を過ごし、調練の参加などでは多少ずれ込むだけでやはりあまり変わらない。

 しいて違う点を上げれば休みを取って仕事の効率が上がったくらいか。


 そんな一日を二日、三日と続けていれば。


「玄胞様、手紙が届きました」


 休日明けて四日目の夕刻、戸の向こうから掛かるのは声。

 郷刷は立ち上がり、声を掛けてきた人物の対応。


「……確かに」

「それでは失礼をいたします」


 手紙を届けに来た者は袁家が擁する間諜の一人、郷刷に頭を下げた後小走りで廊下の奥へ消えていく。

 郷刷は戸を閉め、椅子に座り封を開けて手紙を取り出し読む。

 書かれた内容は『韓馥が南の出立』と簡素に書かれてある。


「決まったか?」


 州牧の一人である韓馥が治めるのは黄河の南、北上するのなら黄河を渡らねばならない。

 今南に進む理由は一つしかなく、恐らくは河北の州牧らが南進したのは冀州の袁紹を討つためではないと考える。

 時間的にはそれほど残ってはいないだろう、恐らくはより南、西の諸侯らは既に動き出していて、董卓を討つために洛陽周辺で合流するように動いている筈。

 その動きに連動しなければならない、他の諸侯が全て動き終わった後に動けば確実に戦闘が起こった後になってしまう。

 それは避けたい、向こうに大義名分があろうとも、こちらにも大義名分がある、互いに引けぬ理由があろうとも妥協出来る和解を進めなければならない。


 そこまで考えて郷刷は立ち上がり、自室を出て袁紹の自室へと向かう道中に従者に指示を出す。


「これより出立する、全ての文武官を玉座の間に集まるように通達を」

「はっ!」


 駆け出す従者、それを見送って最近数が多くなってきた袁紹の自室への道を歩く郷刷であった。

らくようにのりこめー^^

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