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文官試験も終わって話す人

ちょっとに長くなった

「こちらも、予想通りか」

「ほんと、アニキの目は何でも見てますね」

「ほう?」

「これだけしか能がないので」

「またまたー!」


 謙遜する玄胞の背中をバンバンと背中を叩く文醜に、その衝撃に咳き込みながらの玄胞の後ろ、文醜の左隣を歩く趙雲。


「アニキがどばどばーっと賄賂塗れの官をぶった切ったのがこれだけって、ドンだけ謙遜してるんすかー!」


 わははー、と遠慮無く玄胞の背中を何度も叩く。


「そのお陰でこんな状態になっているんですがね、失敗しましたよ」

「あーそうですね、やる事一杯増えてたまんないですよ」

「文醜殿がやるべき必要最低限の仕事しか回していないんですがね」


 玄胞が足を止め振り返り、視線を向けられた文醜は半笑いで言う。


「ま、またまたー、あんな量できるわけ……」

「文醜殿の副官が言っていた通り、やはり押し付けているようですね」

「げっ」


 巧みでもない話術にあっさりと引っ掛かる文醜、そして玄胞は一つ溜息。


「あれくらいはちゃんとしてください、貴方の副官以下の足取りが疎かになっているのが見えないんですか?」

「あ、あははは……」

「これ以上はぐらかすのであれば文醜殿の副官以下全員に休養を与え、文醜殿には監禁してでも一人仕事をしてもらう事になりますが?」

「やります! やらさせていただきますぅ!」

「自分の事ばかりを考えるのは止めてくださいね」

「御意っ!」


 ばばっと玄胞に敬礼する文醜。

 その一連のやり取りを見て趙雲は楽しそうに笑う。


「くく……面白いやり取りをするものですな」

「自分の不始末で皆さんに迷惑を掛けています」

「そうですよー、アニキももっと頑張ってくださいよ!」

「文醜殿にしてもらいたい仕事も私がしているのですがね」

「さすがアニキ! そこにしびれる! あこがれるゥ!」

「出来ない訳ではないのですから、もう少し頑張って欲しいものです」

「それで、どこへ向かっているので?」


 ここで足を止めていても仕方がないと、趙雲が尋ねる。


「文官の合格者発表会場へと。 趙雲殿には申し訳ないのですが、後ほど文官の合格者と交えてお話がありますので、別室でしばしお待ちを」

「承知した」

「それでは文醜殿、趙雲殿を天の客室へお連れしてください」

「あー、あの無駄に広い部屋ですね。 わかりましたー」


 そう言って文醜は歩き出し、趙雲に向かってこっちこっちと手招き。

 その手招きされる趙雲は玄胞に一度頭を下げ、文醜の後を追って奥に消えていく。

 玄胞も頭を下げた後、踵を返して会場へ向かう。

 五分ほど通路を歩き、会場付近で集まる一団を見つけた。


「用意は?」


 近寄りながら話しかけたのは、採点を任せていた文官の一団。

 その中に顔良も居て、声を掛けてきた玄胞の顔を見た。


「安景さん、準備出来てます」


 順位、姓名、採点した得点が書かれた長い紙。

 それの左端を見て頷く、予想通りの状況になったと玄胞は頷く。


「こちらが各問題の上位者です」


 渡された紙を玄胞は受け取り、文官の一団に向かって言う。


「でしたら張り出してください」


 文官たちが成績が書かれた長い紙を床に触れないよう持ち、会場の戸を開いて中に運び込んでいく。

 玄胞はその最後尾として会場に入り、壁に貼り付けられる長い紙を横目に受験者たちを見据え。


「それでは皆様方、これより成績順位を張り出します。 当袁家が採用する文官は総合成績上位三名、そして総合成績上位三名を除く各種類の問題の正解率上位三名のみ、計十五名となります。 それ以下の方は申し訳ありませんが、今回は登用を見送らせていただきます」


 多くは玄胞の言葉に耳を傾けつつも、意識は貼り付けられる成績順位に向けられ。

 ごく一部の者は玄胞へと視線を向けている、その者らは荀イク、戯志才、程立など。

 自信があるのだろう、玄胞とてそれだけの才や知を持ち得ていると見抜いている。

 試験の内容も文官と言っても幅広い種類の問題を含め、その中には用兵術。

 いわゆる軍師としての能力を見る物もある、ただ頭が良いだけではやっていけない世界だからだ。


「今張り出しているのは総合成績の順位です、これより各問題の上位三名を発表しますので静粛にお願いします」


 そうして各問題の上位三名を、玄胞は手元の紙を見て発表する。

 そこに喜びと悲しみ、絶望に覆われた者たちに分かれ、様々な声が上がる。


「……それでは、各問題の成績上位三名はあちらに集まってください。 総合成績上位三名は私のところへお願いします」


 と玄胞が文官たちを指し示して言い、呼ばれた三人は受験者の一団から抜け出してきた。


「荀イク殿、戯志才殿、程立殿、この度は当袁家に仕官を求めていただき真に感謝いたします。 これからについての詳しいお話は別室で行いますので、どうぞこちらへ」


 主席の成績を獲得した、荀イクは玄胞を睨むように見詰め。

 次席の成績を獲得した、眼鏡を掛けた戯志才は玄胞を計るように見て。


「お兄さんお兄さん、今から風は程昱と改名するのですよー」


 三席の成績を獲得した程立改め程昱と、膝近くまである長い髪の、背の小さな少女が玄胞に向けて言い止めた。


「それはどう言う機会で?」


 唐突過ぎる程立の言葉に玄胞は聞き返す。


「……ぐー」

「寝るな!」

「……寝てませんよ?」


 と戯志才が言って起こし、程昱は戯志才に言い返して玄胞を見た。


「風はよく夢を見るのです、泰山に登って太陽を両手で掲げる夢を」

「……なるほど、程昱殿は支えるべき主を探しているのですね?」

「よくおわかりでー」

「私も良く夢を見ます、遍く大地を照らす太陽の下、地に埋まる小さな芽を大樹に育てる夢を」

「おおっ!」

「夢は侮れないものです、己の行くべき道を指し照らす時もあるのですからね。 程昱殿はなるほど、その指し照らす道を歩んでいると」


 うんうんと二人して頷く、それに呆れて戯志才が言う。


「……玄胞様、話とやらがあるのではないですか?」

「確かに、歓談が過ぎましたな。 それではこちらへ」


 そうして四人は天の客室、大層な名前付きの部屋に向かい到着する。

 両開きの大きな扉を目の前に、兵が片方ずつ、両手で押して開いた。

 開かれた扉の奥、部屋の内装は豪華の一言、一つ一つに大金が掛かっていそうな物がいくつも置いてあった。


「お待たせして申し訳ありません、趙雲殿」

「いやいや、ここまでされたら暇を持て余すなど有り得ませんな」


 そんな豪華な椅子に座り、袁家の女官を侍らせて趙雲が軽く酒を飲み。

 空皿も置いてあり、酒のつまみとして所望したメンマを食べていた


「それでは御三方も、どうぞ中へ」


 玄胞は一歩引いて、手で中に入るよう示す。

 三人は違う歩幅で中に入り、それぞれ違う椅子に座る。

 玄胞も座ったのを確認して、四人の顔が見える位置にある椅子に座る。


「さて、まず私から言わせてもらいたい事が一つあります」

「どのような事ですかな?」


 酒のせいで軽く頬が赤く染まった趙雲が、姿勢を正して興味津津で聞く。


「恐らくは皆様方が望む事は、この袁家で叶えられないと思われて結構です」

「それはどういう意味ですかなー?」

「程昱殿は先ほど仰られましたね、支えるべき主を探していると」

「たしかに言いましたねー」

「当袁家の頭領、袁 本初様に王の才覚は有りません。 隔てなく言えば凡才のお方です」


 そう言った玄胞に、四人はそれぞれの反応で驚く。

 袁家の当主である袁 本初の腹心と言われる男が、主を凡才と言い切った。

 聞く人によれば大問題、謀反心有りと決め付けられてもおかしくはない。

 だと言うのに玄胞は何気なく話し続ける。


「私としては貴女方のような才覚ある方たちに袁家を支えてもらいたいと思っているのですが、貴女方にとっては仕えるに値しない主と、本初様をご覧になればそう判断していただけるでしょう」

「……良い話を聞かないと思えば、真の話であったか」

「では何故、そう思われている玄胞様は未だ仕えているのですか?」


 世間では能臣と噂される玄胞、噂通りならば強く玄胞を求めている者も居るだろうと四人は考える。


「色々有りまして、我が心身全ては本初様に捧げております。 勿論嫌々ではありませんよ、私が仕えたいと思っているからこそなのですが」


 そう言って玄胞は軽く笑った。


「まあ、私のように理解して仕えるような奇特な人間は全くと言って良いほど居ないでしょうし、貴女方はそんな奇特な方々では無いでしょう」


 四人にはそれぞれ考えがある。

 自身が最も活躍できる主の下へ、天が定め自身が支えるべき主の下へ。

 そう言った求める主を探しているとも言える。


「割り切ってもらっても結構です、正直に申し上げれば貴女方は金品や地位で繋ぎ止められる方々ではないと私は思っています。 ですので、扱いとしては一時的な客将となっていただきます、勿論客将ではなく袁家の将が良いと仰るなら最大限便宜を図らさせていただきますが」


 短い時間ではあるが、玄胞は四人と接してより詳しく性格や思いを図り読み取る。

 褒め煽てても乗ってこない者たちだと、玄胞は理解した。


「一つ、客将になって頂く際にお願いしたいことが」

「……なんでしょうか」

「客将になって僅か数日で出奔、と言うのは止めていただきたいのです。 せめて数ヶ月は袁家で客将をやっていただきたいのです」

「なるほど」

「荀イク殿はどうですかな? 当袁家は宮廷への繋がりもあります、勿論利用して荀イク殿個人として繋がりを作ってもらっても結構です」


 そう玄胞から魅力的な提案、今袁家に客将とは言え仕え、繋がりを作っておき、使えるべき主が見つかった際、その繋がりを利用して主を立たせる事も出来ると考えた荀イク。


「趙雲殿はどのような思いを抱いておられますかな? その武を遺憾なく発揮させてしてくれる主を探しているのですかな? でしたら仕えるべき主は大きくなるでしょう、その際軍を率いる立場になられると思われますので、この機会に万の軍を率いてみてはどうでしょうか?」


 趙雲も考える、このご時世でいつ争いが起きるか分からない。

 袁家ではないどこかで主を見つけ、支えていくことになった際、武将として軍を率いる事になる。

 玄胞はここでその練習をしていってはどうかと勧めている、中々魅力的な案だと趙雲。


「戯志才殿はどうですかな? おそらくは仕えたいと言う主をもう見つけていると思われますが、軍師として経験を積んで向かえばその方も貴女を重宝すると思いますが」


 戯志才は少々驚いた、確かに見聞を広めている最中であり。

 既に心酔して、仕えたい主が居る事を見抜いている玄胞に。

 それを知ってなお利用して良いと言う玄胞に、なるほど随分と奇特な人間だと思い直す。


「程昱殿はもう分かっておられますが、袁家には仕えるべき主が居ない事。 その主の探索を休める代価はしっかりと払わさせていただきます、私個人の品ですが珍しい蔵書もありますので知識を深めるには悪くないと思いますが」


 良く見ていると程昱。

 自身もそうだが他の三人が考えている事を的確に見抜き、それを餌にして一時の間袁家に留まらせようとする姿勢。

 玄胞のことも興味はある、内政への執務だけではなく用兵術にも精通していると噂で聞いた程昱。


「すぐに答えを出していただかなくても結構です、考えるだけの時間を過ごす部屋も用意させていただきます。 何卒、袁家の客将としての御一考をお願いいたします」


 そうして思案する四人に男、玄胞は頭を下げた。


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