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言い合う人

 男に向けて意を決して言った、袁紹に力を貸して欲しいと賈駆は言った。

 それを聞いた途端、男の表情が激しく歪んだ。

 何度か話した際に真顔か笑みを浮かべるだけの男が、苦痛を我慢するかのような激しい表情を浮かべた。

 そうして賈駆は思う、やっぱり直接袁紹へと話を持って行った事は正解だったと。


「……本初様、私は反対でございます」


 だが今の状況は一変して不利へと変わった、この男ならばこちらの考えを読んでくると。

 今も賈駆の一言でおおよその予想が付いていると見て良い、でなければ最初の一言目で拒否の言葉が出る筈がない。

 だからこそ袁紹へと直接話を持って行かざるを得なかった、賈駆にしてこうなると予想できたからであった。


「……話を聞かないで反対しないで欲しいわ」

「では賈駆殿の考えを言い当てましょうか? 最初からそれを理由に協力を要請してきたのでしょう?」


 やはり読んでいると、賈駆の表情も歪む。


「確かに名門と名高い袁家の力を借りられれば、貴女方は少なからず余裕が持てるでしょう。 ですがその為に本初様を犠牲にしようなどと、私は決して認めません」

「ッ……」


 見抜かれていた、皇帝を袁紹に擦り付けようとした思惑を。

 ぐうの音もでない、だけどやっぱり力が今の袁家にはあると賈駆は確信する。

 財力と名声と、それを扱う頭脳が袁家にはある。

 やっぱり切れ者だと言う風評は伊達ではなかった、力を貸してもらえれば助かる道が出来るかもしれないと、賈駆は標的を変えた。


「犠牲? 一体何の話ですの?」

「簡単な話です、賈駆殿は本──」

「違うわっ!」


 椅子が倒れるほどの勢いで立ち上がる、確かにその意図はあったがもう捨てざるを得ない。

 軍師にとって見抜かれた策ほど不要な物はなく、次善の策を用して押さえ込もうと動く。


「ボクたちは本当に袁紹さんに力を貸して欲しいのよ!」

「どうだか……。 始めに本初様へと直接伺うのは有効な策だと認めましょう、成功していれば間違いなく引き入れていたでしょうから」


 引くに引けなくなる状態へと一気に持ち込んでいたでしょう? と郷刷は賈駆に言う。

 袁家の最高権力者である袁紹がそうすると決めれば、一家臣の郷刷は意見を述べるこそすれ拒否権は持っていない。

 強行的にやられればどうしようもないと言うのが郷刷の立ち位置、だからこそそうなりやすいように賈駆は初めから袁紹のみにこの話を持ちかけた。


「真に力を貸して欲しければ信義を見せるのが筋、これは賈駆殿の主である董卓様も交えてすべき話。 正直に申しますと、この話は本当に董卓様はこの話を知っておられるのか、甚だ疑問に感じざるを得ません」


 そう言う郷刷には疑問の色は見えなかった、董卓はこの話を知らないと確信して言ったのが賈駆には分かった。

 ここは転機、袁紹が厚い信頼を置く郷刷を論破すれば董卓を守る盾が増やせると、そう考えて賈駆は反論する。


「月……、董卓様は体が弱いのよ。 行軍の長旅で疲れているし、体調も崩しかけてるわ。 体調を整え後日伺っても数日中には袁紹さんは領地に戻るんでしょ? 董卓様は帝の傍に居なければいけないし、袁紹さんを呼びつけるのも信義を見せられない」


 出来るだけ言葉に思いを乗せて、こちらの意思を汲み取って貰えるように話す。


「ボクの見立てでは今一番力の大きく、信用の置ける人物は袁紹さんしか居ない。 袁紹さんが力を貸してくれるなら、他の諸侯も尻込みして牽制できると思ってる」

「そして董卓様を討伐しようとする諸侯に対して当てるつもりでしょう? もし負ければ本初様に罪を擦り付けて貴女方は逃げ出すと、こちらにとって不利益が大きすぎますね」


 負けて領地へ戻っても、董卓が生きて居ようが居まいが諸侯の目は袁紹に向く。

 流れる風評の董卓と同じような存在と見られ、悪逆の徒として諸侯が組んで襲い掛かってくる。

 そうなれば完全に詰みと言って良い、そのような結果になるのであれば私は喜んで董卓様を見捨てましょう、と郷刷。

 言い切る郷刷に、賈駆は言葉に詰まる。


「……うわー、そんなにやばかったのか、この話」

「やばいと言う物じゃないですよ、顔良殿も、文醜殿も、私も、そして本初様も死ぬまで追いかけられるような物です」


 うへーと嫌そうな表情を浮かべて文醜が呟く。


「本初様、賈駆殿が提案してきたお話はそうなる可能性があるものです。 そうならないために勝てば良い、何て単純な話でもありません」


 私としては決して受けるべき話ではないと、そう具申させていただきます。

 袁紹に向き直る郷刷は、そう言って頭を下げる。


「……つまり、董卓さんはわたくしに罪を擦り付けると言う事でよろしいんですの?」

「その通りでございます」


 やっと要点を掴んだ袁紹の言葉に、賈駆は落胆した。

 これでは袁紹の力を借りられないと、このままでは董卓軍だけで戦わねばならない事に。


「たしかに、罪を擦り付けようとするのとどこぞの田舎太守が陛下に選ばれたのは不愉快極まりないですわ。 ですけど、どうしてそこで董卓さんが悪いと言う話になるんですの?」


 その落胆に落ち込む賈駆の耳に、どうも可笑しな言葉が聞こえて顔を上げる。


「……いえ、董卓様が悪いと言う話ではなく」

「でしたらそちらの賈駆さんが悪いのかしら?」

「……本初様を謀ろうとしたと言う意味では悪いと言えますが」

「あーそうだよなー、あのちっこかった董卓が何かしたわけじゃないんだよな」

「あらあら、つまり陛下に選ばれなかった者たちが嫉妬しているだけでしょう? わたくしはそんな小さな器じゃありませんわよ」


 あれ、なにこれ? と賈駆は変な雰囲気を感じた。

 場の雰囲気が一転したと言って良い、賈駆はこの話は断られると確信していたと言うのに何かおかしい。


「確かにその通りなのですが、この話を受ければ相手にしきれないほど敵が増えると言う意味でして……」


 賈駆は正論を吐いて袁紹に分からせようとする郷刷を見る。

 必死と言うほどではないが、僅かばかりに表情が曇っているように見えた。


「陛下を蔑ろにする不遜な輩の十や二十、この袁 本初の敵ではありませんわ!」

「いえ、そういう意味ではなくてですね……」


 賈駆として理由は分からないが、何故か不利な状況が有利な物へと変化していたように感じられた。

 これは承諾させる機会ではないか、絶好の好機と賈駆は捉えて口を開こうとして。


「麗羽様! 董卓さんは悪くは無いんですけど、董卓さんに味方すると沢山の人が襲ってくるんですよ! 一杯強い人も居ますし、私たちだけじゃどうにもなりませんよ!」

「強い人? 例えばどなたかしら?」

「え……」


 顔良がちらりと郷刷の顔を見て、郷刷は僅かに顔を横に振る。

 そのやり取りは見せてはいけない致命的な隙。

 捉えて逃がさないと、賈駆は横から口を挟んだ


「今有力なのは陳留の曹操ね、袁しょ──」

「本初様、何卒袁家の存続を願い考えていただきたい」

「麗羽様! ほら! 今危ない人ってそう、じゃない黄巾党本隊を討伐した時の孫策さんとか一杯居ますよ!」


 一転して必死にごまかそうとしたが。


「曹操?」


 しっかり聞こえていた袁紹、その口端が大きくつりあがっていく。


「なぁるほど、あのちんちくりんのクルクル小娘が陛下に仇なすと、でしたらやはりこの私が陛下を守って差し上げねばなりませんわね!」


 僅かに耳に入れた風評は本当だった、言質を取ったと勝利を確信する賈駆。


「えー、止めましょうよ麗羽様。 相手は曹操だけじゃないっしょ? 曹操だけなら賛成しますけど、孫策とか公孫賛も相手にしなきゃいけないんじゃ無理ですよ」

「そうですよ! 周りを囲まれたらどうしようもありませんよ、麗羽様!」


 至極真っ当な反論の文醜、それに賛同する顔良。


「……本初様、本当にこの話を受けられるので?」

「勿論ですわ! この名門名家の袁 本初が陛下をお救いしなければいけないこれは天啓!」


 自信たっぷりに言い放って立ち上がる袁紹に、やっぱり間違えたかも、と不安になる賈駆。


「でしたら、本初様にはお覚悟を決めて貰わねばなりません」

「覚悟? 一体何を覚悟しなくてはなりませんの?」

「はい、本初様が持つ命以外の全てを捨てて生きていく御覚悟を」


 勝てばその心配もないが、負ければ先ほど言ったように死ぬまで追い掛け回されない。

 それから逃れるには死ぬか、死んだと見せかけるか。

 自身に最も有利な未来へ進もうと誰もが動く、それが複雑に絡み合って不安定な未来へとなる。

 郷刷からすれば負けるつもりはない、だが必勝はありえず負ければ逃げなければならない。


「今の生活も、衣服も、食事も、そして名前さえ捨てて逃げ回る生活になるかもしれないので」

「それは負けたら、でしょう? この私と安景さんの力があれば負け知らずですわ!」


 その一言で高笑いを始める袁紹。

 それを他所に、文醜と顔良は郷刷へと疑問を掛ける。


「アニキ、まじでやばいんだろ? だったら止めさせた方が良くないか?」

「そうですよ、どうにもならない事になるんでしたら……」

「勿論そうならないために策は用しますよ、戦う事になっても絶対に勝てると言う訳ではありませんが、絶対に負けると言う訳でもありません。 ただそうなった場合負ける確率の方が高いと言うだけです、ですから止めて欲しいのですがもう押さえられないでしょう」


 そう言った郷刷の表情には諦め、それを見た後隣で高笑いを上げる袁紹を見る二人。


「使えるものは使うようにするだけです、それで勝敗の逆転を図るのです」


 郷刷はその二人から視線を移し、賈駆を見る。


「賈駆殿も、負けた際董卓様が命以外を捨てて生きていくようご納得させていただきたい」

「……勿論よ、でなければこんな事提案しないわ」

「宜しい、では他にも条件を付けさせていただきたい」


 それを聞いた賈駆は眉間に皺を寄せた。


「恐らくは宙に浮く何進軍などを併合して董卓軍は肥大化するでしょう、その際董卓軍を含む全ての指揮権をこちらに譲っていただきたい」

「なっ!? そんな事出来るわけないじゃない!」

「してもらいます、どうせ負けて捕らわれた際こちらに全て擦り付ける気は変わらないのでしょう? でしたら全軍の指揮権を譲ってもらいます、簡単に言えば対価ですよ」


 そう言われて筋書きが出来ると賈駆は考える、全軍の指揮を袁紹が握っていると、つまり兵力を背景に董卓を脅し傀儡としていると言い訳が立つ。


「……でもあんたが上手く運用できるとは限らないでしょ、勝てる物も勝てなくなったらどうするのよ」


 所詮風評は風評、特に軍師としての能力など賈駆は確かめては居ない。

 それなのに全軍の指揮を預けるなど、常人なら決して認めない。


「では互いの実力を測るついでに、演習でもして軍の精力も競わせましょうか」

「……良いじゃない。 袁家の支柱の実力、見せてもらうわ」

「ええ、叩き潰して差し上げますよ」


 郷刷と賈駆、お互いに敗北と言う文字があってはならない同士。

 共に支える主の為に、妥協と言う行動は決して取る事はなかった。

この話であったルートは三つ

連合に入って董卓を討つ話

今回の董卓に組する話

残りはどっちも取らず傍観し、董卓VS連合軍の決着が付いたら即他所の領地に進軍と言うもの


一番目はよくあるし、三番目は話がめんどっちい、二番目も良くありますがちょっとずらしていきます

あと皇帝は幼女

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