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各々で考える人

 賊、黄巾党は殲滅された。

 何大将軍からの討伐命令を遂行し、黄巾党を悉く殲滅し尽くす。


「待遇は変わらず、客将で構いませんぞ」


 郷刷は後始末、未だ砦で抵抗する黄巾党を密集隊形の兵でじわじわと押し潰していく。


「この後はなるほど、諸侯が自軍を整え今後に備えるでしょうな」


 武器を振るう者には武器で、膝を着いて赦しを請う者には慈悲を。


「して、安景殿はどう言った手管を取るのでしょうな」


 真面目に働くと誓うなら袁紹の領地で仕事を充てがおう、だがこちらの好意を無に帰すような行為を働けば即極刑を下すと。


「ほほう、非戦闘員は領地で仕事を与え、戦える者は調練を施した後に組み込む。 なるほど、慈悲を見せ付けつつ自軍の増強と」

「……劉備殿が気に入らなかったのですか?」

「いいや、確かに気になり惹かれもしましたな。 ですがどうにも無視できない気になる事がありましてな」

「気になる事?」

「ええ」

「……そうですか、それはこちらでしか解決できない事でしょうか?」

「然り」


 柔らかな笑みを向ける趙雲は、郷刷の天幕で酒を飲む。

 郷刷が見送ってから一刻も経たずに趙雲は戻ってきた、その際。


『戻りましたぞ』


 その一言で軽やかに、重さを全く感じさせずに挨拶をしてきた。

 郷刷としては劉備に仕えると思っていた、袁紹と劉備を比べて、普通であればどちらがより仕えたいと思うかは瞭然だと考えたからだ。

 全てではないがその考えが間違っていたと言わんばかりに、趙雲は戻ってきた。


「ところで安景殿」

「何でしょうか」

「天の御遣いと言う者、どう思われますかな」

「胡散臭いですね」

「ほう?」

「脚色されているかも知れませんが、私は流星に乗って現れ、この乱れた世を鎮静せし天の御遣い。 と聞きました」

「私もさほど変わりませんな」


 腕組みをして趙雲が一つ頷く。

 その趙雲を見ながら郷刷は右手の人差し指を天幕の天井へと向ける、その指の先を趙雲は一度見て視線を戻す。


「流星とは天から流れ落ちてくるもの、それに乗ってきたと言う事はつまりこの大陸の者ではない。 その意味はもとよりこの大陸で生きる者では、この乱れた世を収められないと言っている様なもの」


 この大陸全土で一生懸命生きる者たちを侮辱しているとしか思えないと郷刷は言う。


「まあ尖った考えではある事は認めますが」

「確かに尖っておりますな」

「世の中を良くしようと尽力している者たちの前にいきなり現れ、呆気なく天の乱れを収められたりしたら、今まで自分がやってきた事は一体なんだったのだろうかと思わざるを得ないでしょうね」


 争いを望まない庶人たちからすれば救世主ですな、それこそ今以上に豊かな生活になるのなら私も歓迎しますが、と郷刷が言う。


「つまり天の御遣いについては肯定的と見て良いので?」

「今言った通りになるのなら、と言うことですね。 そうでないなら邪魔になるだけでしょう、一時的、長期的とどちらかは分かりませんが」

「ふむ、邪魔になると思う理由は?」

「人を惹き付けて大勢力になるのであれば、他の勢力とかち合う事になるでしょう。 別にそれは良い、問題はそこで止まったりされるのが邪魔なんですよ」


 一息に他の勢力を飲み込み、天下を統一できるならそれほど長い戦乱とはならないだろう。

 その後の情勢、治安の維持とか国庫の安定化などが前提となるが。

 それが出来ず一大勢力のまま、他の勢力を削り合う場合になった時。

 庶人からすれば戦時の高い税率など真っ平御免であろうし、それが長期間続くなら間違いなく苦しくなる。


「確かに」

「一時的はそのままですね、世の中を多少騒がせてそのまま消えるだけですので長期的なものよりかはましですが」


 郷刷にとって求めるのは圧倒的な実力を示し、抵抗する気概がなくなる様な素晴らしい人物と言うもの。

 そうでなければ邪魔の一言で切り捨てる、天の御遣いなんぞ世を乱すだけの害悪。

 だったら最初からそんな者居ない方がましと言う持論だった。


「子龍殿は天の御遣いとやらを見てきたのでしょう? 私が言うような素晴らしい人物でしたか?」


 郷刷は分かってて聞いた、言う通りだれもが賞賛するような者なら趙雲はここに居ないだろうと理解してて聞いた。


「……ふ」


 郷刷が聞いて返って来たのは一度だけの笑い声。


「子龍殿?」

「いや、申し訳ない。 ……一見したところ、見るべきところはなかった。 武に優れているようではなかったし、そこらに居そうな凡夫にも見えた」

「たいした人物ではないと」

「いや、外見だけでは判断できまい。 なにせ、天の知識とやらを披露して貰ったのですから」

「天の知識、気になりますね」

「うむ、私も気になりますな。 ですから聞いてみたのですよ」


 口端を大きく吊り上げるように、趙雲は郷刷を見て笑う。


「戦時にて出た死者を放って置けば何が起こるのかと」


 してやった、そう言った感じで趙雲が笑う。

 それを見て郷刷。


「何と返って来たのですか?」


 趙雲が望んでいた反応を郷刷は見せない、むしろ興味があると言ったように聞き返してきた。


「……ふむ」

「……? 子龍殿?」

「いや、安景殿が言ったものと同じものが帰ってきた」

「……聞き間違えでは?」

「確かにこの耳で聞いた、疫病が生まれると」

「……そうですか」


 一転して、気落ちしたように郷刷は呟いた。


「おや? 喜ぶかと思ったのですが」

「天の知識、確かに興味深くはありますが……私としてはどうも」

「天の御遣いが本物であったなら、安景殿の考えは正しかったと証明されるようなものですぞ?」

「確かに、苦しむ者が減るでしょうね」

「ならばなぜ?」

「それは……」


 口を開き言いかけた言葉を、郷刷は飲み込んだ。


「……申し訳ありませんが、私個人の事ですから、他の方に話すような事ではないので」

「支障があるので?」


 何時もであればそうですか、の一言で終わらせる趙雲だったが。

 不躾ではあると理解した上で、興味を押さえられずに二の口で尋ねる。


「あります、ですから聞かないでいただけると助かります」


 何時もとは違う乾いた笑みとでも言うべき表情で郷刷は言った。


「……随分と失礼を」

「いえ、気にしないでもらいたい。 どうもしおらしい子龍殿となるとなんだか可笑しな感じに」

「ふむ、安景殿がどのような目で私を見ていたか、一度じっくり聞かなければなりませんな?」


 ずいっと趙雲が身を乗り出し、不敵な笑みを浮かべて郷刷を見れば。


「玄胞様、頂いた御指示が全て完了したので新たな御指示を」

「……それは後ほどお願いします、先に片付けねばならない事があるので」


 趙雲から少し離れた背後にある、天幕の出入り口から声が掛かった。

 郷刷はそれに答えて立ち上がり一言。


「申し訳ありませんが子龍殿の天幕は既に片付けさせてしまっているので」

「でしたら猪々子か斗詩の天幕にやっかいになるとしましょう」


 それを聞いて郷刷はもう一本酒を頼ませ。


「後二日もすれば河北へと戻るでしょう、それまでごゆるりと」


 そう言って郷刷は頭を下げ、自身の天幕から出て行った。


「……ふむ、何かあるようだが探るべきか」


 聞きにくい状況を作られうまくかわされたが、郷刷が天の知識、果ては劉備の元に居た天の御遣いとは別の、あるいは本物の天の御遣いではないかと趙雲。

 革新的とも言える袁紹の領内に起こした風は、金があっても思いつくかどうかはほとほと疑問な事。

 えてして天才とはどこかずれているものだが、自称天の知識を有する天の御遣いと同じ言葉を吐けるか否か。

 天才と括り付けるより、天の知識を有していると言った方がまだ納得できる。


「……しばらくは付いてみるか」


 もう一人の天の御遣い、と言うのも愉快な事。

 それが事実か否かと趙雲は非常に気になっていた。




 そう趙雲に考えられている郷刷は、兵を伴って歩きながら一言呟く。


「……近いのか」

「は?」

「なんでもありません、気にしなくていいですよ」

「はぁ」


 趙雲が話した天の御遣いに、大きな不安感を持った郷刷だった。

次からとうたく編か!

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