王と話す人
ながい
「御所望通り各諸侯の目の前で頸を取り、勝ち鬨を上げさせてもらいましたぞ」
「よく討ち取りましたわ、趙 子龍!」
袁紹が望んだ通りに頸を上げてきた趙雲、それも有力な諸侯が誇る将の前で勝ち鬨を上げてきた。
そんな趙雲に袁紹は気分良く褒める、褒美を取らせましょうなどと言いながら高笑い。
「おーっほっほっほっほっ! あのちんちくりんなクルクル小娘の悔しがる姿が目に映りますわ!」
郷刷と趙雲からすれば、悔しがるのは曹操ではなく夏侯惇で、噂話を聞く趙雲は袁紹ではなく自身や郷刷の事を警戒したりするだろうと考えた。
尤も、あのような挑発する行動を取れば警戒して当然と趙雲。
「お疲れ様です、怪我はされていないですか?」
「この珠玉のような肌に小さな掠り傷一つも見えますかな?」
「うわー、アネキは自信満々だなー」
「うーん、でも綺麗だよねー」
自信満々に言い放つ趙雲に文醜と顔良が横から突っつく。
「既に大勢は決しました、残る賊の殲滅もそれほど掛からないでしょう。 三方は隊と共に休息を取ってもらっても構いません、勿論荀イク殿たちも」
そう言って後は自分がやると郷刷。
「ですがその前に子龍殿、荀イク殿、郭嘉殿、程昱殿、申し訳ありませんが話があるので」
郷刷が客将の四人に言って、頷きが返ってくる。
「なになにー? とうとうアニキが女遊びに手を出すのか?」
「………」
趙雲たち四人が文醜を一度見た後、滑るように郷刷へと視線が移る。
各々が浮かべる表情には嫌悪感や驚きなど、文醜の言葉を信じたかのような顔。
「誤解を招くような言い方は止めてください、客将である皆さんの今後の話ですよ」
なんて事を言うのかと呆れつつ郷刷、重要な事と言って聞かせる。
「あーそっか、そういえば客将だったっけ」
腕組みで頷く文醜。
「いやー、仕事が出来る人増えて楽に……」
それを聞いて今度は郷刷の視線が文醜へと移る。
「え、いや! ちゃんとやってますって!」
「……それなら良いですが」
「最近文ちゃんはちゃんとしていますよ、やっぱりあのお仕置きが効いたんじゃ……」
以前に言った一人部屋に押し込めて一日中仕事をしてもらうと言うもの、その後に何度か副官に任せてサボったようで言った通り逃げられないよう警備付きの部屋で文醜一人引き篭もらせた。
中から悲鳴が聞こえてきていたと言う報告も受けていた、勿論警備の中に不埒な真似をする者など居ない為に一人の文醜が勝手に悲鳴を上げたのだと判断した郷刷だった。
「……まあ、それでは本初様。 後始末は私がやっておきますので、夜も更けておりますので御就寝の程を」
「たしかに、あまり夜更かしをするとお肌に悪いですからね。 安景さん、黄巾党なんぞ一人残らず片付けて置くように」
「はっ」
そう言った郷刷に、高笑いもそこそこにして自身の天幕へ戻っていく袁紹。
「さて、大勢は決したとは言え賊もまだ残っている。 諸侯が帰還するには早くても明後日以降となるでしょう、ですが予想より早く終わって帰還するかもしれません。 ですので、皆様がお会いしたい方々への引き止めの使者を出しておこうと思うのですが」
約束、と言うほどでもないが今この時、捜し求める主が居るかもしれない。
会えるなら会っておいた方が良いのだろうと、気になる人物の名を聞く郷刷。
「曹 孟徳様ね」
「同じく、孫策殿の動きにあれだけ早く反応するのは噂通りかと」
「それを言うならお兄さんの方が早かったんですが」
迷いなく言い切る荀イクに、同意を示す郭嘉。
それに茶々を入れた程昱に郭嘉も頷く。
「それはたしかに、あそこまで確信した理由がいまいち理解しかねます」
現実的に見て読み切ったと言う点では賞賛に値する行動であったが、外れていたら間違いなく一番情けないものになっていた。
「それは一度孫策殿とお話をした事がありまして、それで動くだろうと」
「……一度だけ?」
「ええ、子龍殿と共に孫策殿と周瑜殿と少々」
「一度話しただけで二人の動きを読んだと……?」
「ええ、そうですが。 それ以前に孫策殿たちには動かなければならない理由も有ったので、その情報を統合して結び付けただけです」
荀イクたちもそれらを知っていたら、孫策たちが動くだろうと予想できたと郷刷。
「まあ、それは御三方なら出来た事。 それより程昱殿も曹操様でよろしいので?」
「そうですね、ついでにお兄さんも一緒に来てくれるなら言うこと無しですよ」
「では我慢してください、子龍殿は?」
あっけらかん拒否した郷刷に、むーと呟く程昱。
「ふむ……、気になると言えば気になる方が」
「して、その方は?」
「噂の御仁、義勇隊の劉備 玄徳殿か。 関羽に張飛、参謀にも優れた人材を置くと聞きましたな。 それと……天の御遣い」
流星に乗って現れ、この乱れた世を鎮静せし天の御遣い。
その噂話の人物が劉備の元に居る、そう喧伝されかなりの速度で評価を高めつつ義勇隊。
「なるほど、たしかに気にはなりますね」
「まあそんな噂が本当かどうか確かめたい、動機としてはそんな些細なものです」
「噂通りの御仁なら瞬きでも遅い位に天下泰平の世にして欲しいものですね、それでは明朝に向かうと使者を送っておきます」
そう言い切ってこの話は仕舞いだと郷刷、客将の四人はそれぞれの反応で頷いて天幕へと戻っていく。
それを見送って三人、郷刷も自身の天幕に戻り使者を送らせようと踵を返せば、止めてくる者が一人。
「安景さん、本当に良いんですか? 無理を言ってでも引き止めたほうが良いと思うんですけど」
「だよなー、星のアネキもとんでもねぇけど、あの三人もすっげぇ頭良いっしょ?」
「それはそうですが、あの四人を袁家の客将としたのはもとより行くべき場所があるからなんですよ。 それに最近細作の数が増えてきていますし、いつまでも包容していれば漏らしたくはない重要な情報を持って向こうに行きかねませんから」
有りえる危険性を前に、袁紹に忠誠を誓わないんだから仕様が無いと二人に言う郷刷。
「二人も、休んで結構ですよ。 もう将が率いる場面は無いでしょうから、明朝までゆっくり休んでください」
「……分かりました」
「よーし、斗詩。 愛し合おうぜ!」
「ちょ、ちょっと文ちゃん!?」
と、文醜が顔良を引っ張っていく姿を見送り、郷刷は自身の天幕へ戻って手紙を認めた。
郷刷が認めた手紙を使者に託してから数刻、朝日が顔を見せ初めても黄巾党が篭っていた城から煙が途切れる事は無い。
それを一度眺めた後、四人へと視線を戻す。
「本当によろしいので?」
郷刷は趙雲、荀イク、郭嘉、程昱に餞別として金子を入れた袋を手渡そうとしたが、全員必要ないと突っぱねた。
「そんなに距離は無いでしょ、第一断られたとしても簡単に諦めないわよ」
「聞かぬ相手にこちらの言を聞かせるのが軍師の本懐ですから」
「と言うより路銀は十分に持っていますよ?」
「確かに」
「星ちゃんはお酒飲み過ぎて使い果たしてたじゃありませんか」
「ふむ、記憶に無いな」
そう談笑しながらも、不意に言葉が途切れる。
「……またどこかでお会いする事もありましょう、その時はどうぞお手柔らかに」
所属する陣営上出会うのは戦場か、捕らえられた時くらいしかないだろうと郷刷は思う。
「その時はぐうの音も言わせないぐらいに完勝してあげるわ」
「きつい位に縛り上げてあげますよー」
「し、縛る……うぐぐ。 ……玄胞殿、教授頂いた恩はいつか」
勝つと宣言をする荀イクに、程昱に擦られながらの郭嘉。
「そうなるとも限りませんが、それではご健勝を祈っております」
「お兄さんも」
「ええ」
そうして三人は馬に乗り、曹操軍が敷く陣へと向かっていく。
「それでは私も」
「ええ、またどこかで」
その言葉に対して趙雲は一つ笑い、馬を進ませた。
郷刷はその後姿が小さくなるまで見送り、自陣に戻った。
「へぇ、あなたたちが我が陣営に加わりたいと言う三人ね」
郷刷と別れ半刻もしない内に曹操に拝謁出来た軍師三人組。
曹操の右手には赤の夏侯惇、左手には青の夏侯淵が控えていた。
「はっ、我が名は荀イク 文若と申します。 このたびは曹操様の麾下へと加えて貰いたく馳せ参じました、どうか私めを軍師としてお使い下さいませ!」
膝を着き頭を垂れて荀イク、郭嘉と程昱も同じように膝を着いた。
「そこの二人は」
「はっ、郭嘉 奉孝と申します。 荀イク殿と同様軍師として、我が身も曹操様の麾下に加えて頂きたく」
「程昱 仲徳ですー、以下同文」
「何だその言い方は! 貴様! 華琳様をなめているのか!」
一瞬で着火した夏侯惇が程昱に叫ぶが、曹操がそれを制する。
「良いわ、春蘭」
「し、しかし」
「春蘭」
「う、わかりました……」
言い含められ、渋々と引き下がる夏侯惇。
「それで、袁紹の所から来た理由は?」
「袁紹が王の器でない事、軍師として磨く時が終わった事、そして今この時が曹操様のため磨いた才をお使い頂く為に馳せ参じた所存でございます」
「私があなたたちに会わないと思わなかったのかしら?」
「それは無いと判断いたしました」
「……理由を聞きましょう」
意して真顔の曹操に、荀イクが代表して答える。
「それは玄 郷刷の推薦であるからです」
「……ほう」
「昨夜の奇襲戦、曹操様の采配を上回り戦果を上げた玄 郷刷からの推薦に、曹操様の気性から考慮するに無視できないと判断いたしました」
なるほど、良く見て知っていると曹操は頷く。
「……曹操様、ぜひとも我らを麾下にお加えください。 必ずや玄 郷刷に対しての札となりましょう」
「進言するに、玄胞さんの才は曹操様の覇道を断つかもしれません。 袁紹さんが元々目の敵にしていますし」
「……あなたたちの知略がどれ程の物かは分からないけど、それほど危惧するに値する者なのかしら?」
「世に流れる玄 郷刷の風評が事実であるとしたら、曹操様は危惧せずに居られますか?」
その言葉に、曹操は考えて一言。
「良いでしょう、あなたたちを我が陣営に加えましょう」
「あ、ありがとうございます!」
「使えるかどうかは今後試すとして、あなたたちが知る玄 郷刷は一体どのような人物かしら?」
「……あの男は王道と奇抜、その両者を使いこなして攻める軍師でございます。 油断すればたちまち喉を食い破り、打ち砕く者です」
「庶人の心を把握し、それをとりなす執政官でございます」
「その上才ある者を取り立て、育成する師となりますね」
「なんだそやつは!」
「姉者、落ち着け。 昔あった事があるだろう?」
「そんな奴は知らん!」
そのやり取りを聞いて、出会った当時の姿は擬態だったかと曹操。
「分かったわ、早速で悪いけどあなたたちに仕事を与えるわ」
「はっ!」
軍師三人組を見下ろしたまま、曹操は危険な相手かと考え直す。
荀イク、郭嘉、程昱、三名の知略が本物であったなら、危惧する郷刷がどれ程の者かと。
だからといって覇道を断たせる事を認める訳にはいかない、どちらが天意を汲まれているか。
「……楽しみね」
障害無き覇道など面白くもなんとも無い、困難であればこそより一層覇道に弾みがつくと曹操は笑っていた。
そうして軍師三人組が曹操と拝謁している頃、趙雲も劉備軍陣営で気になる人物と顔をあわせていた。
「出迎え感謝する、関羽殿」
「気にするな、しかし会いたいと言った人物がお前だったとは」
劉備軍陣営を尋ねた趙雲は、関羽に出迎えられ並んで歩いていた。
「して、桃香様に一体何用だ?」
「話してみたいと思ってな、それに天の御遣い殿にも興味がある」
「……何故そう思った」
「いやな、某は主を求めて放浪していたのだ。 今袁紹殿の元に居るのは経験を積むため、今この場に集まる諸侯が何れ天下を担う者たちだと見ている」
「ほう、わかるか」
「わからいでか、今噂される天の御使い殿が劉備殿の下に居るなら気にならない筈が無い」
褒められていると感じてか、関羽の表情に笑みが乗っていた。
「我が主に足る人物なら、この場で加えて貰いたいとも思っている」
「おお、趙雲が加わってくれるのなら大歓迎だ!」
「ま、それは会って見てからの話だが」
「絶対に気に入って貰える」
確信しているかのように関羽が頷き、足を速める。
「(ふむ、随分と……。 それほどの御仁か)」
趙雲から見て関羽は凄まじく腕が立つと見抜いていた、これほどの人物ならどの諸侯も欲しがるものだと頷く。
その関羽をこれほど入れ込ませる人物は相当な傑物なのだろうと趙雲。
早足で歩く関羽に付いて歩き、他の天幕より一回り大きな天幕へと辿り着く。
「桃香様、手紙の人物をお連れしました」
「うん、入ってもらってー」
気の抜けるような優しげな声、それを聞いて関羽が趙雲を促す。
「失礼」
そう断って天幕へと入る趙雲、その天幕の中で趙雲が目に入れた人物は五人。
昨夜の奇襲戦で見た張飛、その張飛よりも僅かに背の低い少女が二人。
「あなたが私に会いたいと言う人?」
二人の少女の間に立つのは華美な服を着た少女、天幕に入る際に聞こえた声と同じもの。
趙雲は向けられたその瞳に、どこか吸い寄せられるような気を感じた。
「はい、趙雲 子龍と申します」
そう聞いてきた少女の隣、見た事が無い服を着た男。
天幕内に居る人物を一遍、その後に入ってくる関羽で七人の人物が一つの天幕に居た。
「趙雲……? 昨日の戦いで総大将を討った趙雲さん?」
「ええ」
「桃香様、名乗られたのですから……」
「あ、ごめんなさい! 私は劉備 玄徳って言います!」
「張飛 翼徳なのだ!」
「諸葛亮 孔明と言います」
「鳳統 士元です」
次々と名乗られ頭を下げる趙雲、そうして名乗っていない最後の人物を見て。
「俺は北郷 一刀、天の御使いって奴をやってる」
「ほお……、貴方が天の御使いか」
下から上まで一遍した趙雲はどこか見た事があるような気がした。
服の事ではなく、何と言うか佇まいと言うか、何かに才を持つ英傑ではなく、そこ等辺に居そうな男に見える。
「……気のせいか」
「え?」
「いや、なんでも。 この度私が伺った理由を、私は今仕えるに値する徳のある主君を探しておりまして、そのため伺わせて頂いた」
話をしてみたいと、天の御遣いも気になっていたと趙雲は話し。
それに対して劉備は嬉しそうな笑みを浮かべて、幾らでも話をしようと頷いた。
「趙雲さんは袁紹の所に居るって聞いたけど?」
「ええ、客将として袁家に。 中々良くして貰っていますな」
「へぇ、さっき仕える主君を探してるって言ってたけど、良さそうな人は居た?」
「ふむ、居ると言えば居ますな、例えば目の前に」
「へ?」
趙雲が視線を向けた先には劉備、視線を向けられて奇妙な声を上げた。
「わ、わたし?」
「ええ、劉備殿を見ているとこう、どこか惹き付けられるような気がしてなりませんな」
「やはり分かるか」
それを聞いてうんうんと関羽が頷く。
「それに天の御遣い殿にも興味が」
「俺? 興味って、天の知識とか?」
「天の知識とは興味深い、それにその服も見た事が無い」
僅かながらだが光を反射するように、見ようによっては自ら輝いているかのように見える服。
「ああ、桃香たちにも言われたな」
「ぽーりーえすてーるだったっけ?」
「ポリエステルだよ、俺が住んでた国じゃ当たり前の材質だよ」
聞いたことが無い言葉、それに天の知識。
興味がそそる事この上ないと趙雲。
そしてこの空間、どうにも心地よい気分になってくる。
「……劉備殿、今この世の中の事をどう思って居られる?」
唐突に真剣な声と表情で趙雲が問いかける。
「……こんな世の中はダメだと思っています、沢山の弱い人たちが傷付き倒れ、最後まで苦しんで亡くなって行くこんな世の中。 私たちは少しでもそんな人たちが減ってくれれば良いなと思って。 白蓮ちゃんの力を借りて、こんな世の中を正そうと義勇隊を作って戦ってるんです」
趙雲のそれに返して、真剣な声と表情で答える劉備。
「……だから趙雲さん、私たちに力を貸してくれませんか!?」
そう請われ、自分の心が揺れた事に気が付いた。
「(これが次代の天下を担う者の一人か)」
噂の曹操、実際に会った孫策とは違う感じの人物。
王の風格とでも言うのか、感じた事が無い気持ちに趙雲は頷きそうになった。
「……そうですね、答えを出す前に一つ聞きたい事が」
「なんでしょう?」
スっと趙雲は劉備から隣の男、北郷に視線を移す。
「天の知識を持った天の御遣い殿にお聞きしたい」
「……俺に分かる事なら」
試されている、そう判断したのか神妙な面持ちで北郷は姿勢を正す。
「戦が起こり多くの者が戦いの果て命を落とす、そしてその戦場を死した者たちを焼く理由、それがお分かりになられるか?」
以前、黄巾党が河北の街を襲った時に、荀イクと程昱が郷刷から聞いた話。
「……沢山の人が死んで焼く?」
「ええ」
「……うーん」
「他の方はお分かりになられますかな?」
「え? ……なんだろう」
「街の近くなら腐臭が漂ってくるかもしれませんな、それの対策でしょうか?」
「状況にも寄りますね」
「……考えられるのは愛紗さんが言ったくらいかと」
「嫌な匂いは嫌いなのだー」
各々が推察や分からないと言った言葉を返す。
その中で最後の一人、北郷が口を開いた。
「……疫病対策かな、多分そうだと思うけど」
それを聞いて、趙雲の心の臓が鷲掴みにされたように縮動する。
「放って置いたら愛紗が言う通り腐っちゃうだろ? 腐ったままにしておくと危ない病気が……」
「ッハ、ハハハ、アハハハハハハ!!」
途中まで聞いた趙雲は大声で笑い出した。
「クク、これは拙いな!」
「ちょ、趙雲さん……?」
「失礼、それではお暇させていただく」
そう言った趙雲に、一同は表情を変える。
気になる、惹かれると言った相手がいきなり帰ると言われれば驚くだろう。
「趙雲殿! 何か気に障ることでも……」
引き止めようと関羽が立ち上がり、同じく立ち上がった趙雲を見る。
「いやいや、勘違いさせた様で申し訳ない。 別に気に障るような事を言ったわけではない、ただこちらの問題」
趙雲は劉備を見て一言。
「申し訳ない、劉備殿。 今は私の力をお貸しする事は出来ないようだ」
「……どうしてですか?」
「少し気になる事がありましてな、それが解消されればすぐにでも劉備殿の下へ馳せ参じましょう、それでは失礼」
決して不快ではないと笑みを浮かべて一礼、劉備の天幕を出て歩き出す。
「玄胞 郷刷、天の知識を有するか否か」
誰も知らぬ事を知っている男、そして天の御遣いと称される男が言った重なる言葉。
北郷 一刀が本物の天の御遣いであれば愉快な事になると笑みを浮かべる趙雲。
笑みと言ってもそれは友好的なものではない、獰猛と言って良い様な表情。
見れば慄くようなそれを浮かべたまま、趙雲は袁紹の陣地へと進んでいった。
とうたく編になったら速度落とそうかな、年末もあるし