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凌ぎあって勝つ人

「大通りは多すぎるわね。 孫策隊、路地を突っ切って夏侯惇隊を押し込める! 突発戦には気をつけろ!」


 長めの両刃剣・南海覇王を振り切り黄巾党が蠢く大通りを避けて、路地を突き進む孫策隊。


「どけどけどけぇい! この夏侯 元譲の邪魔をするでない!」


 幅広の刀・七星餓狼で黄巾党を叩き切り、真っ直ぐと大通りを押し通る夏侯惇隊。


「くぅ、やはり出遅れるか! 鈴々、追いつくぞ!」

「合点なのだ!」


 青龍偃月刀と丈八蛇矛を振り回し、黄巾党を打ち倒しながら夏侯惇隊の後を追う関羽・張飛隊。


「やはりこうでなくては」


 その三組の隊を見下ろしつつ、直線距離にて最も敵牙門旗に近い趙雲が呟く。


「階段を下って城内へと降りるぞ、くれぐれも賊如きにやられるな!」


 趙雲は槍を振り回して、階段を上ってくる黄巾党を軽やかに叩き落す。

 五段六段と跳ねるように階段を下り、その下にも居た黄巾党に穂先を向ける。

 慌てて得物を趙雲へと向ける黄巾党だが。


「今お前たちを相手をしている暇は無いのでな」


 疾風が吹き抜けるかのように、趙雲の槍が一閃。

 『神槍』の通り名に恥じぬ高速の突き、生半可な者では視認すら出来ぬそれと共にばたばたと倒れ伏す。


「付いて来い!」


 足を速め階段を降り、駆け出す趙雲へと追従する趙雲隊。

 衝車隊の援護を受け城壁の上を伝い、城門から右に九十度、敵牙門旗の右側面から突くよう趙雲隊は移動する。

 正面とする城門付近には数えるのが馬鹿らしい位に黄巾党が蠢き、その直線状大通りには城門付近以上に黄巾党が溢れかえっている。

 それを無理やり突っ切ってくる夏侯惇隊に、それを追いかける関羽・張飛隊、その大通り一つ隣の路地を駆け抜ける孫策隊。

 その三隊を一度眺め、敵大将の右側面から突ける趙雲隊が回り込んで移動した地点には非戦闘員が多く見られた。


「さて、追いつけるかな?」


 大通り付近を進む三隊に、ではなくその三隊が趙雲隊に追いつけるかと言う事。

 城門が開く前に城壁へと侵入、城壁の上を走ってそれなりに移動した後に城門が開いた。

 比較的蹴散らす黄巾党の数と、移動距離の差が優劣を示していた。

 勿論それにあぐらを掻く趙雲ではない、迅速なる行軍にて次々と立ちはだかる黄巾党を打ち倒して敵牙門旗へと進む。




 その趙雲隊の行軍を知らずに猪突猛進の夏侯惇隊、先頭の夏侯惇は七星餓狼を振り回して次々と黄巾党を討ちながら進む。


「どけと言っておるのが分からんのか!」


 叩き切るというより跳ね飛ばしていると言って良い様子で突き進む夏侯惇隊。


「夏侯将軍! 後ろから関と張の旗が迫ってきております!」

「なに!?」


 ドドドドドと土煙を上げそうな勢いで夏侯惇隊を追い上げる関羽・張飛隊。

 敵を倒して進む夏侯惇隊に比べ、その敵が居なくなった後を追いかける関羽・張飛隊に追い付けぬ道理は無かった。


「感謝するぞ、夏侯 元譲! 我らの為に道を切り開いてくれた事にはな!」

「何を……! チィッ!」


 関羽・張飛隊の先頭を駆ける関羽が、夏侯惇隊の左後方から割り込んでぐいぐいと押し込み、ついには並び刃を振るう。


「ハァァァァアッ!」


 振るわれる青龍偃月刀が黄巾党を纏めてなぎ払った。


「流石は関 雲長! だが私も負けてはいないぞ! でりゃぁぁぁあ!!」


 そうして夏侯惇も七星餓狼を翻して黄巾党を討つ。


「鈴々も負けてないのだ!」


 ダメ押しと言わんばかりに張飛も先頭に並び、長大な丈八蛇矛を振り抜く。

 この三者を止めれる者は黄巾党に居ない、次々と跳ね飛ばされ倒れていく黄巾党の一団。

 恐れ逃げ出そうにも溢れんばかりに人が蠢く大通り、何人かが近くの路地へと逃げ込んだ先に。


「邪魔よ!」


 南海覇王でなぎ払われる、孫策隊が路地から姿を現し、夏侯惇隊、関羽・張飛隊の前方へと躍り出た。


「なにぃ!?」

「あれは、孫策!?」

「は、はやいのだ!」


 三者は驚き、現れた赤に後塵に拝する。


「敵大将旗が見えた! 大賢良師の頸、この孫 伯符が貰い受ける!」


 夏侯惇、関羽、張飛の三者に劣らぬ武勇にて黄巾党をなぎ払い、敵牙門旗へと突進する。

 見る間に旗へと近付いていく孫策と、後に付いて追い上げようとする三者。


「くぅ! 何と言う速さ!」


 それを前にして関羽が唸る、自身が率いる孫策隊すら置いて行く速度で駆けて孫策が躍り出る。


「邪魔邪魔邪魔ぁ! 雑魚は引っ込んでいなさい!!」


 南海覇王を振るいながらでも衰える事が無い速度で駆ける孫策、もはや止める者は居らぬと武勇を披露。

 敵牙門旗まで残り二十間も無い距離、僅かながら装備を整えた一団を見据えて親衛隊かと孫策。

 ならば壁の向こうと、敵大将の大賢良師が居るだろうと南海覇王が翻る。


「大賢良師! その……!?」

「おや? 随分と遅かったですな、孫策殿」


 孫策が大賢良師の親衛隊を切り払い、足を止めた先に見たものは。

 牙門旗と共に倒れ伏す頸の落ちた大将らしき男と、龍牙を手に持つ趙雲と金色の鎧を着た男たちが本陣らしき広場を占拠しかかっていた光景だった。


「趙 子龍……! 間に合わなかった!?」


 その事実を前に苦しい表情を浮かべる孫策に対して、僅かに口端を上げて見る趙雲。


「ご明察。 黄巾党が大将、大賢良師はこの趙 子龍が討ち取った!」


 槍を掲げ、高らかに趙雲は宣言する。

 それを機に趙雲隊が勝ち鬨を上げて、誰が功を得たのか示していた。


「あーっ! もう倒しちゃってるのだ!!」


 僅かに孫策から遅れて広場に躍り出た三人もその光景を目に映す。


「なんだと!?」

「間に合わなかったか!」


 孫策と同じく、悔しそうな表情を浮かべてその光景を見る。


「ふむ、惜しいと言えば惜しかった。 私が居なければ孫策殿が間違いなく頸を取っていたでしょうな」


 どうにも嬉しそうに趙雲が笑う。


「……勝ち誇る気?」

「そう見えますかな? まあこうなったのも……、孫策殿にはお分かりでないかな?」

「……ちっ、私の責任って訳ね」


 動きを見透かされた、曹操にもそうだが袁紹、否、玄胞に動くと見破られたのが痛烈だった。

 袁紹軍が曹操軍と同じ時に動いていたら、敵大将の頸を取っていたのは孫策だった。

 それほど僅かな差、城壁を越えるのではなく、城門から乗り込んでいたらやはり孫策が大将を討っていた。

 その僅かな差を生み出したのは玄 郷刷、やはり会うべきではなかったと孫策。

 趙雲隊の一人が転がっていた首を回収し、趙雲の号令を待つ趙雲隊。


「さて、目標は達したので報告に戻ろう」

「はっ」


 一振り、槍に付いた血を振り払って歩き出す趙雲。


「それでは、またどこかで合間見えましょう」

「待て!」


 整列する趙雲隊の先頭にて歩く趙雲、孫策とすれ違い凱旋とばかりに大通りへと足を勧めた所に留める声。


「貴様の姓名は何と言う!」


 向けた七星餓狼の切っ先、滴り落ちる血を振るい払って夏侯惇。


「姓は趙、名は雲、字は子龍。 袁紹殿が客将をやっている」

「趙雲 子龍! 覚えたぞ!」

「これはこれは、夏侯 元譲殿に名を覚えて貰うのも悪くはない」

「抜かせ! 次に会った時は必ず勝つぞ!」

「期待しておきましょう」


 ふふ、と笑って夏侯惇の脇を通り過ぎ。


「張飛 翼徳なのだ! お姉ちゃん!」

「関羽 雲長だ」

「ほう、聞いておりますぞ。 今名を上げている義勇隊の二将ですな、また近いうちに会う事になりましょう。 では」


 軽く会釈をして二人とすれ違う趙雲、足を進める大通りには三隊の兵が居たが、誰が勝者なのかと決められたように端に寄り道を開ける。

 その中を歩く趙雲は傍目に見て小さく呟く。


「……これは悪くない」


 口端を吊り上げて趙雲は笑った。

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