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予測して動きを見る人

「城の背面には絶壁が聳え登るのは一苦労、軍が展開できるのは前面のみで、それも集まる諸侯が全ての軍を展開できるわけではない、と」


 むしろ我が軍を展開するだけで一杯一杯になる、と郷刷。

 紙には城壁と絶壁だけを記した簡易的な見取り図、その上に石を置きながら守りやすく攻めずらい城だと示す。


「正面から攻めるとなれば大きな被害を免れない、しかも左右の側面も攻め入る隙が無い。 となれば仕掛けるのは……ここですね」


 そう言って郷刷は丸い黒石を城壁と絶壁の間、何も書き記されていない空白の城内の上に置く。


「ですが策を仕掛けるにしても城内の間取りが分からなければ、疑う余地無く失敗するでしょう」

「それでもやるとするなら火計でしょうね、兵糧庫も燃やせればいいのだけど……。 探している間に包囲殲滅される可能性も十分にあるわ」

「如何に混乱を誘うか……、敵の視線をこちらに向ける必要もありますし」


 郷刷、荀イク、郭嘉、程昱の四人はどうやって攻めるかと頭を悩ませる。


「めんどっちいなぁ、もう正面から突っ込んだら良いじゃん。 攻城兵器も持ってきてるんだし」

「猪々子さんの言う通りですわ、賊如きにわたくしの精強なる兵の相手は勤まりませんわ!」


 そんな軍師組の考えなど簡単にすっ飛ばす袁紹と文醜。


「兵は有限なのですよ、ここで正面から突っ込んでも大きな損害を負うだけです。 そんな無様な姿を晒せば曹操様に鼻で笑われますが、それでも良いなら進軍させますが?」


 正面から攻める事も出来なくは無い、攻城戦になるだろうと衝車を持ってきている。

 城壁に劣らぬ高さの櫓の上から矢を撃ち込む事が出来る、下の方に丸太を付けて城壁や城門にぶつけたりも出来る。

 そういう事も出来るが専用の撞車も持って来ているため、今回は射手を置いての対人用としている。

 それを活用すれば城門を打ち破り、城内に攻め入ることも出来る、勿論被害はそれなりに出るが。

 郷刷はそれを出来る事を隠しつつ、そんなことをしたら袁紹が嫌う曹操に笑われるぞと窘める。


「だったら、華麗に賊どもを一掃出来る策を考えなさいな!」


 軍師組の三人は、それが出来たら誰も苦労はしないと内心思う。

 その中で郷刷が口を開いた。


「ふむ……、では本初様、受ける被害を抑えつつ敵将を討ち取れる案があるのですが」

「あるのなら早く言いなさい!」

「待つのですよ」

「待つ? 待っていても時だけが過ぎてあのちんちくりんに先を越さ──」


 言い切る前に郷刷は袁紹に近づき、ひそひそと耳打ち。


「……全軍このまま待機ですわ! すぐに陣を張って休息を取りますわよ!」


 と、打って変わって袁紹はここに陣地を張ると命令を下した。


「御意、すぐに本初様の天幕を用意いたします」

「……おーっほっほっほっほ! せいぜい今の内に笑っている事ですわね!」


 高笑いを上げながら袁紹はどこかに歩き出して行った。


「……なぁアニキ、麗羽様に何言ったんだ?」

「曹操様が動くのを待って、敵将を曹操様の前で討ち取れば悔しがるでしょうと言っただけですよ」

「……そんなに上手く行くのかなぁ」

「行く訳無いでしょ、そもそも動くのが誰かも分からないのに」

「恐らく動くのは孫策殿でしょうね」

「……そう思った理由は?」


 郷刷の一言に、荀イクが問う。


「曹操様も劉備殿も、名声は是非とも欲しいでしょう。 ですがそれ以上に孫策殿が名声を欲している、それが一番の理由です」


 郷刷は荀イクを見て鷹揚に答えた。


「いの一番に攻め立てたいでしょう、ですから誰よりも先に仕掛けるはずです。 そして孫策殿は正面から行くのを好いてはおりますが、それを軍師である周瑜殿は認めない。 であるなら、双方の考えを立てる案は?」

「……最も効率的な策を用いて混乱させ、前曲の危険性を下げるわけね」

「ええ、功は欲しいが寡勢である為に正面切って行くわけには行かない。 となると、策を用する軍師の出番という事ですね」


 孫策的には正面から行きたい、だが周瑜的にはそれを認められない。

 孫策は孫呉の王でこんな戦いで死んだりされたらそれこそ目も当てられない、となれば孫策の武勇を示しつつ出来るだけ安全になるように策を施す。

 つまり何らかの策で敵を混乱させ、その隙に一気に攻め立てる。

 次々と討って進めば袁家の兵卒にも劣る黄巾党はあっという間に怖気付くだろう、総数十万以上と言ってももとは庶人や浮浪の集まり。

 黄巾党からすれば諸侯の軍勢は精兵に見えるだろう、数の利は見る間に崩れて殲滅戦に移行する可能性が高い。


「恐らくはどうにかして城に潜入して、火計などを使って黄巾党を混乱させるでしょう。 我々はそれに乗じてすぐさま攻め立てる、そう言う寸法です」


 連携しようと言う話が出ない以上、お互い他の諸侯を利用して功を上げようと狙っている。

 それが分かっている以上、利用されても文句を言える訳が無い。

 流石に丸分かりな妨害をすれば、どう言う了見だと文句を出してくるだろうが、郷刷は便乗しようと思っているだけなので妨害する気はさらさら無い。


「やるのでしたら夜襲でしょうし、日が昇っている今動く事は無いでしょうね」

「その考えが外れて誰も動かなければ?」

「その時はこちらから動くしかないでしょう、本初様を待たせすぎると本当に全軍突撃させかねませんので」


 攻城兵器を活用して城門付近の弓兵を排除、すぐに撞車で城門を突き崩して城内に雪崩れ込むのが一番被害が少ないだろうと郷刷。

 その時は他の諸侯も連動して動いてくる、もし袁紹軍が大損害を受け撤退でもしたら攻略する芽が潰れかねない。

 その可能性は大いにある、だが郷刷は必ずや誰かが動くだろうと見ている。

 数十人体制で各陣営を監視させ、動かないだろう昼に兵を休ませ動きそうな夜に兵を伏せておく。

 さて、動いてくれるかなと郷刷は、動いた時と動かない時の行動を平行して組み立てていた。








「……なーるほど、これは行けそうね」

「ああ、興覇は精鋭部隊を編成して放火活動をしてもらおう。 火の手が上がれば祭殿は雪蓮と合流して、そのまま攻め立ててもらいます」

「了解した」


 郷刷が孫呉の動きを予想している頃、主要な将を集め軍議を行う孫呉。

 正面から攻め立てるのは難しいと判断し、陸遜が持っていた黄巾党の篭る城の地図を広げ。

 それを見て侵入に適した死角を発見、火計を用いた混乱を誘う策を挙げる。

 甘寧の率いる精鋭部隊が城に侵入、兵糧庫に火を掛け混乱した隙に孫策と黄蓋で攻め立て城内に進攻、そのまま敵将へと一直線という作戦。

 悪くない案、むしろ成功する確率が高い物だと周瑜が上げた策に陸遜が同意を打つ。


「相手が調練を積んだ兵なら考える策だけどね」

「黄巾党はそう言った類の者らの集まりではないからな、興覇の能力から見てもまず成功するでしょう」

「成功させなければ興覇が疑われてしまうの」

「必ずや成功させて見せます」


 はははと笑う黄蓋に、表情を殆ど変えずに甘寧が断言する。


「興覇を疑うわけじゃないけど、絶対に成功すると言う保証も無いのにお姉様が最前線に出るのは反対です!」

「いいえ、違うわよ蓮華。 成功するしないの話じゃないの、成功させるのよ。 蓮華の言う通り絶対なんて無いわ、でも保証がないからと言って止まる事は出来ないのよ」


 城攻めの際に前に出るわけじゃないし、私が指揮するのは突入部隊だけ。

 前に出る理由だって孫呉の王は勇敢で、臆する事は無いと示す必要があるのよ。

 と孫策は妹である孫権に言い聞かせる、でもと言い縋ろうとした孫権に周瑜が言葉を挟む。


「雪蓮は直接戦いたいだけでしょう? 時と場合を考えて欲しいわね」

「考える、考えるわよ。 こわーい冥琳に怒られたくないしね」

「……はぁ、蓮華様は納得し辛いでしょうが今回は前に出る時なのです。 今この時、この場は名を得る格好の時、孫呉の王たる雪蓮が勇を示さなければ名を馳せないのです」

「と言う訳よ、だから蓮華は孫呉の王たる私の背中を見ていなさい。 勿論死ぬ気なんて無いから安心してね?」


 孫策が笑い掛けて言い、孫権は納得したのか頷く。


「それで、私が死なないと確定した所で問題は他の諸侯よね」

「間違いなく連動してくるでしょうね、城門前は押さえるとして城内に入り込んでからの速度が肝心ね」

「そこで負ける気は一切無いわよ? 問題は一番に城内に攻め入っても、後から来る奴らが邪魔してくる可能性もあるからね」

「特に曹操と袁紹か、兵の練度は両方かなりの物。 下手をすれば追い抜かれる可能性もあるわ」


 共に毅然かつ整然と進軍してくる二つの軍の全容は、同数で戦えば間違いなく梃子摺るだろうと理解させるだけの姿があった。


「両方危ないわね、突破力があるのは曹操の右腕の夏侯惇。 袁紹の方は客将だけど趙雲も居る、もしかしたらしてやられるかも」


 孫策は夏侯惇と趙雲を間近で見ている、武芸者でもある孫策は二人の力量を見抜き、ちょっと危ないかもと危惧している。

 黄巾党の討伐でも二人の名前を聞き、率いる兵は共に精兵、孫呉の兵が劣っているとは思っていないが出し抜かれるかもしれないと孫策。


「ま、ここに居る時点でそれなりに出来ると分かってたし、私たちは全力を尽くすだけね」


 そう気軽に言う孫策に、周囲の面々は強く頷く。

 天に昇る日が下りた後、熾烈な功名戦になる事は容易く予想が出来た。

 中々厳しい戦いになるわね、と孫策は日の光を右手で遮って空を見上げた。

次は熾烈

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