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参じて考える人

 決めた見通しを纏め、軍議にて提出する。

 各街への兵の増員や、防衛力の強化の為防壁が無い街は発展具合を考え建造する案などを提出。

 袁紹は特に反対する理由も無く、郷刷が上げた案を全て認めて命ずる。

 国境警備隊にも早馬の配備など、少しでも早く知らせることが出来るよう手配する。

 それが功を奏したのだろう、黄巾党の一団が国境を越えて入り込んでくれば即出陣して蹴散らす。


 治安が悪いとされる方面には特に念入りに、西や東から入り込んでくる一団が多かった。

 だが街には黄巾党が来ると言う情報を得て、万全で待ち受ける袁紹軍。

 数が同じでも質が圧倒的に上の袁紹軍に蹴散らされるのだ、黄巾党が街を襲える道理が無かった。

 目立った被害と言えば戦う事になる兵士や装備だが、治療や整備を明確にして補わせているので不満は上がっていない。

 逆にあれば言えと厳命し、環境の向上に役立つ事になっている。


 そんな黄巾党に常勝する袁紹軍、風評としては鰻登り。

 衣食住を確保できる街に住んでいれば、兵士が賊を叩きのめす。

 安心して住めると評判、それが黄巾党を呼び寄せる餌となっていた。

 ある意味有名税と言う奴だった、賊は遠慮したいが善良な庶人なら歓迎すると言う具合もあり。

 袁紹の領内には常に人が流れ込んでいた。


 人が集まり賊が集まり、発展し続けるも天は乱れたまま。

 黄巾党が大陸全土で暴れ周り、時に数が下回る黄巾党に敗退する官軍。

 業を煮やした漢王朝の大将軍である何進から黄巾党討伐を命じられ、諸侯が軍を挙げて黄巾党を討ち取っていく。

 この時名を大きく上げ始める勢力がいくつか、冷徹かつ一方的に黄巾党を駆逐していく許昌の曹操。

 袁術の客将で、少数の軍勢で大数を軽やかに討ち取っていく孫策、そしてもとより名声のあった袁紹。


 世に憚る英傑たちが産声を大陸全土に響かせ、黄巾の乱は次第に規模を縮めていく。

 そんな中で、黄巾党主力部隊が冀州に存在していると聞き付けた諸侯は、黄巾党本隊を討ち取らんと集結する。


「おーっほっほっほっほ! わたくしの領地を荒らし回った黄巾党など、この名門名家の袁家頭領、袁 本初が率いる本隊が雄々しく、勇ましく、華麗に殲滅ですわ!」


 いつもと変わらず袁紹が高笑いをしながら、数にして六万もの大軍勢を引き連れて進軍していた。

 黄巾党本隊が冀州のとある砦に集まっていると郷刷は耳に入れ、賊など許さんと言う立場を取る袁家は遠征してでも打ち倒しておいた方が良いだろうと郷刷が進言。

 もとより人の領地で不貞を働く輩を許さないと袁紹は、その進言を受け入れ軍を動かす。

 郷刷が耳に入れた情報では、黄巾党本隊はその数十万以上とかなりの大軍勢。

 同等の兵数を確保できるにしても、領地の守りを丸々無くす訳にも行かない。


 そこで有力な他の諸侯にさり気なく情報を流し、集まってきた所で擬似連合軍を成して攻めようと言う考えの郷刷。

 だが郷刷が流す前から掴んでいたのか名声を欲する者らは貪欲に嗅ぎ付け、袁紹軍より一足早くその砦へとたどり着いていた。


「……ふむ、曹に孫、公孫に劉の旗ですか。 前者二人は流石、公孫賛様も中々。 それに劉の旗、今噂の義勇軍の方ですか」

「確か公孫賛さんの客将をしている劉備さんだったかと、良い将を引き連れ名を上げ始めていますねー」


 郷刷の呟きに程昱が補足する。


「なるほど……、そろそろ皆さんは袁家から離れる時期かもしれませんね」


 それなりに早く軍を動かしたと言うのに、袁紹軍よりも早く駆けつけたと言う事は良い戦略眼を持ち、功名心を持つ者たちと見て良いだろうと郷刷。

 この戦域に居る軍勢は袁紹を除く、曹操、孫策、公孫賛、劉備。

 恐らくはこの四名が名を馳せ台頭してくるだろう存在で、趙雲、荀イク、郭嘉、程昱の四人が仕えるべき主が居るかもしれないという事。

 趙雲は日々の黄巾党討伐で万を越える軍勢を何度か率いて戦い、荀イク、郭嘉、程昱の三人には戦術・戦略を記した書物や袁家の軍師候補と共に討論会を開いて知を磨いていた。

 それほど長い期間では無いので一目で分かるほどの成長ではないが、間違いなく少し前までの自分より優れていると言えた。


「この戦いが終わればそのまま出向いても構いませんよ、餞別として華が無いですが金をお持ちください」


 渡せるのはせいぜい金くらい、出向く前にさっさと撤退して行ったのならさらに色を足して路銀として渡すのだがと郷刷。


「その心遣い感謝いたします、整然とした万の軍を率いたのは非常に為となりました」

「いえいえ、他に何か欲しいものがあったら送らさせて頂きますが」


 あれやこれやと進軍しつつ別れる準備も整えていく、あれが欲しいこれが欲しいと遠慮なく言う姿に郷刷は笑いを零す。

 そうして諸侯の軍旗と黄巾党本隊が篭る砦がはっきりと見えてきた。


「それでは袁家の客将としてやっていただける最後の仕事になります、とりあえず他の諸侯と暗黙の連携を取る事にしましょう」

「ここは明らかに名声を欲している方々が集まっていますので、間違いなく誰かが抜け駆けをして敵大将を狙うでしょう」

「狙うは大将の首、おそらくはそれだけでしょうね」

「でもそう簡単にはいかないのです、片手間で攻め落とせる数ではないのですからねー」

「篭っていなければ十分に相手取れますな、連携するという条件付ではありますが」


 名を上げたい者たちにとって、大陸全土で巻き起こる黄巾の乱はまさに美味しい餌。

 黄巾党本陣を討ったと喧伝出来れば一気に名を上げる事が出来る、だが黄巾党本陣の数は十万を超える大軍勢。

 名声を得たいが敵が多すぎる、だったら他の諸侯を利用し、隙を見て敵大将を討ち取ると。

 そういう考えを他の諸侯も持っているだろう、どの軍も連携を取ろうと言う者は現れない。

 郷刷が属する袁紹軍、というよりも袁紹はそんな考えは無く、名声が欲しいが嫌いな相手と連携など取りたくは無いという考えが有ったので何も言わないという事情があった。


「……さて、間違いなくこちらを利用してこようとするでしょう。 どう言う手を取るか楽しみです」


 袁紹軍を囮にするか? あるいはこっそりと抜け駆けするか。

 早々乗ってやる気は無いと、郷刷は軽く笑みを浮かべて諸侯の軍と砦を眺めていた。

つぎはばとる、と思いきや・・・

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