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武官試験で試験を出す側の人

ゆっくりだらだら短く投稿していきます。

 河北に居を構える名門、それだけで多くの者が予想して外れる事が無い家名。

 その名は『袁』、第三代皇帝の時に取り立てられて続く、天子を支える三公を四代にも渡って輩出してきた名家。

 良くも悪くもその存在自体が周囲に影響を与える、つまり……。


「……今期の仕官希望者は800名超えですか」


 袁の力に惹きつけられ、仕官しようと言う輩が大量に居ると言う事。


「いやー、アニキが政務に係わりだしてから増える一方、袁家も安泰だね!」


 文官が着用する衣服を着た男の部屋で、薄緑色の短髪の上に横長い紺色の布を巻いた少女が椅子に座り寛いでいた。


「残念ながら、今後も安泰で行きたいのなら優秀な将官を得なければならないでしょう」


 笑いながら言う少女、袁家の武将に対して溜息混じりに言う。

 それからずらりと仕官希望者の名が書かれた紙の束を、椅子に座りその前にある机の上に置く。


「では、いつも通り頼みますよ、|文醜殿」

「やだなー、文ちゃんって呼んでくださいよ」


 姓は文、名は醜、袁家に使える武官の将。

 軽口で机を挟んで座る男に向かって言い、その男は真顔で。


「では頼みますよ、文ちゃん」

「任せてくださいよ!」

「今期は武官希望が全体の7割ほどですので」


 文ちゃんと呼ばれ嬉しそうに返事をするも、次に告げられた言葉に動きを止める。


「前期と同じ割合でしたら200名ほど相手をしてもらいます。 勿論優秀な者を選抜しますから、今期は文ちゃんより強い人が何人も居るかもしれませんね」


 文醜から視線を外してさらさらりと筆を走らせ、試験を行う為の用意をし始める男。


「……そうだ! こういう時こそ斗詩──」

「顔良殿には文官の試験を受け持ってもらいます」


 前期の150人でも疲労困憊になった文醜、下手をすれば前期以上に質の良い武官希望者を相手に200人と連続して戦わなければならない。

 これが戦場であれば纏めて薙ぎ払ったりするが、試験となると実力を見るために手加減しなくてはいけない。

 しかも一人一人だから時間も掛かるし、日が照ってて暑いし、言ってしまえば楽しくないと文醜は考えていた。

 それを恐れて身代わりを差し出そうとしたが、その身代わりにはもう役割が振られていた。


「頼みますよ、文ちゃん」

「……はい」


 筆を持つ手を止めずに視線だけを向けられ、逃れられないと悟ってうな垂れる文醜。


「前期で落とした者はよほどの事が無い限り通しませんよ、文醜殿には今期で初めての方ばかりお相手して貰うでしょうから」

「……うう」


 この部屋に来るんじゃなかったと文醜、知らないのと知っているのと比べたら知らないほうがましな情報だった。


「手当ては出しますよ、それに相当腕の良い方なら戟を交わさずとも終わるでしょうし」

「……それってあたいが弱いってことですかね?」

「残念ながら、猛将である事は否定しませんが、英傑でない事は確かでしょう」


 書き終えて紙の上で動かしていた手を止め、紙を丸めて持ち男は立ち上がる。


「本物と言うのは桁外れですからね、匹夫と比べて文醜殿の武力は優れていると言って良いでしょう」

「そりゃあそんじょそこらの雑兵に負ける気は無いんですけどね」

「本物は文醜殿をもってして雑兵扱いですから、気にすることはありませんよ」

「だれっすか、その比べてる相手は!」


 文醜としてはそれなりに腕の自信がある、言った通り兵卒レベルの相手に負ける気など一切無い。

 実際何人もの相手と対峙し叩き切ってきた、そんな自分が雑兵扱いになる相手とはどんな怪物か気になる。


「呂 奉先、董 仲穎が最強の配下。 武に置いてあれほどの才覚を持つ者は今後も現れないかもしれませんね」

「あーそりゃ無理です、飛将軍とかと比べないでくださいよ」


 あっさりと負けを認めた文醜、噂に聞く話は獲物一振りで周囲に居た兵が纏めて死んだとか聞いたのを思い出す。

 噂通りなら自分じゃ相手にならないんだろうなーと、戟の一合も持たないかもしれないと考えた。

 これが誰とも知らない人物から聞いた話なら所詮噂は噂と気にしないが、目の前の男が言うのだから事実だろうと受け止める文醜。


「アニキはあの呂布と会った事があるんですか?」

「ありますよ、本初様の付き添いで宮殿へと上がった事がありますから。 その時仲穎様と奉先殿にお会いしました」

「へぇー」


 文醜は先立って歩き出した男の後ろについて歩き、部屋の外へ出て控えていた従者に認めた紙を渡して走らせた。

 それを見た後、ついて歩く。


「味方であれば頼もしいことこの上ないですが、敵として対峙すれば少なく見積もっても数千の兵が命を散らす事になるでしょう」

「数千で少なくって、本当に超強い怪物ですねぇ……」


 そう言ってブルっと文醜は震えた。

 目の前を歩く男が言うのだ、戦場で見えれば実際にそうなるであろうと文醜は頷く。


「と言っても戦場で数千の兵を屠る武の極みは、普段の姿と掛け離れていますよ」


 文醜殿はその姿を思いつかないでしょう? と男は言って、文醜はうーんと考える。

 獲物の一振りで周りの兵が纏めて命を落とし、戦場を駆ければ数千の兵を屠る。

 そんな相手の普段の姿など想像も出来ない。


「まあ、今会えない人物の事を考えていても仕方ありませんね」


 二人は話を弾ませながら歩き、試験会場となる袁家が擁する城の広場へと着く。

 そこには袁家に仕官しようとする多数の希望者と、その対応をしている将兵が忙しく動いていた。

 割合としては仕官希望者が一なら、袁家の将兵は三ほどの数、おかしな行動をしないかと目を光らせていた。


「斗詩! あたいが死んだら骨は拾ってくれー!」

「え、ええ!? 文ちゃん!?」


 そんな中到着するなり文醜が走り出し、斗詩と呼ばれた少女。

 姓は顔、名は良、袁家に使える同年代の将の一人に抱きついた。


「文醜殿、遊ぶのはそれくらいにして試験の用意をしてきてください」

「分かってますよー」


 と、ぶつくさ言いながらも文醜は広場を見下ろす階段の上から降りていく。


「顔良殿も」

「はい、今回はいつもより多いですね」

「ええ、良い傾向と言えますがどうにも人手不足が否めないですね」


 顔良の言葉に視線を細めながら男は頷き、広場に居る武官希望者を一望する。


「……なるほど、今回文醜殿はそんなに苦労しないでしょうね」

「良い人が居ないんですか?」

「見た限り、前期よりもかなり少ないですね」


 返事をしながら男は階段を降り始め、その中腹で足を止めた。


「袁家が筆頭軍師、我が名は玄 郷刷(げん きょうはく)! 此度の仕官を求め参られた者たちよ、袁家が求めるものは非凡である! ただ袁家の名声を求めてくる者など必要ない!」


 声を張り上げ、武官希望者に言い聞かせるように叫ぶ。


「これより一対一で武を競い合ってもらう。 こちらで用意させてもらった刃を潰した得物を選び、隣り合った者と戦ってもらう。 貴公らの力、存分に示して栄光を勝ち取るべし!」


 オウ! と武官希望者から声が上がる。

 声が消え静まったところであれこれ男は説明し、袁家の兵士が何十人も得物を運んでくる。

 その中から得意な武器を選び、十分に行き渡ったところで腕を武官希望者たちに向け。


「これより5勝、一対一で戦い五回勝ち抜けて初めて試験を受ける資格を得る。 この袁家でのし上がりたくば盛大に励むがいい!」


 踵を返してまた階段を上り始める、その途中で兵に指示を出して広場から離れていく。

 その男の後ろには顔良、武官試験官として文醜、文官試験官として顔良に手伝ってもらっている。


「怪我なく上がってくる者は数名でしょう。 少なくとも一人、文醜殿では手も足も出ない者が」

「文ちゃんが手も足も?」


 一目見て一角、武に置いてかなりの力を持つ者が居た。

 まともに戦えば文醜では軽く打ち負けるほどの兵。


「……こちらに留まってくれるかが問題ですね」

「……そうですね」


 二人して高笑いする袁家の頭領を思い浮かべ、実力と共に高い志を持つ者相手では引き止めることは難しいなぁと悩んだ。

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