背番号7のエピソード2
入社早々ついているなあ。その視線の先にはひときわ目立つ女性の姿があった…。
思えば第一希望の会社からは内定がもらえなかった。仕方なく入った第二希望のこの会社だったのだけれど、彼女を目にした途端、俄然やる気が出てきた。ひと月の研修を終えて配属されたのは営業本部。その同じ部署に彼女も配属された。もっとも彼女は事務課で席も違う島なのだけれど。しかし、せっかくなので、ここはさっそく挨拶をしておこうか。
「俺、三浦俊。よろしく」
「知っているわ。入社式で自己紹介していたわよね」
彼女はそっけなく答えた。そのそっけなさが余計に僕の闘争本能を刺激した。
「君、武田さんって言ったっけ? 今年入った女の子の中じゃ、ダントツで可愛いよね」
「…」
彼女は表情一つ変えず、僕の言葉をまるで無視するかのようにパソコンに向かったまま。まあ、いい。そのうち飯にでも誘おう。話はそれからだ。と、その時はそう思っていたのだけれど、彼女は全くその機会さえ与えてくれなかった。毎日定時には帰っていく。
「武田さん、いつも帰るのが早いね。もしかして、デートとか?」
席を立った彼女に声をかけると、一瞬立ち止まり僕の方を向いた。
「早くはないわ。終業のチャイムが鳴ったでしょう? あなたには聞こえなかったの?」
そう言うと彼女は足早に立ち去った。
「まいったな。まったく脈がなさそうだ。こりゃあ、他の子に切り替えた方がいいかな」
今年入った女子社員の中には彼女ほどではないにしろ、美人の部類に入る子も多い。入社の条件が顔だというわけではないのだろうけれど、まさにそんな感じのラインナップだ。それはともかく、まずは仕事だな。
入社して半年が経った。これまでは先輩に付いて顧客を回ることが多かったのだけれど、古くから取引のある顧客の一つを任されることになり、一席設けることになった。先方は担当の部長ともう一人。女性だ。こちらは僕と先輩の二人。最初に引継ぎを済ませると、あとは適当に話を合わせながらなんとか無事にやり終えた。店を出てタクシーを拾った。タクシーには部長だけが乗り込んだ。部長を見送ると「じゃあな」そう言って先輩も駅の方へ歩き出した。残った彼女の為にもう1台タクシーを止めようと思ったのだけれど、彼女の口から思いもよらぬ一言が飛び出した。
「気を使って飲んだ気がしていないのではないですか? これから一緒に飲みなおしませんか?」
「えっ…」
返事も聞かずに彼女は僕の腕をつかんで歩き出した。
「ねえ、どこかいい雰囲気のお店を知っているかしら?」
少し背の低い彼女が見上げるように僕を見つめた。やばい! 可愛い!
僕は学生のころからの行きつけのバーに彼女を連れて行った。カウンター席に並んで腰かける。
「ふーん、若いのにこういう店を知っているなんて、かなり遊んでいるのね」
「そんなことはないですよ。佐々木さんは何を飲みますか」
「私、まだ飲めないのよ。だってまだ19歳ですもの」
「えっ!」
そう言えばさっきもウーロン茶しか飲んでいなかったな…。それにしても、とても19歳とは思えない。てっきり僕より年上だと思っていた。
「でも、今日は保護者が居るから飲んじゃおうかな」
そう言った彼女の笑顔には19歳の無邪気さが見え隠れしているようだった。
「保護者って…。じゃあ、一杯だけ」
僕は彼女のためにモスコミュールを注文した。ウォッカの量を少なめにしてもらって。僕はバドワイザーを缶で。お互いのグラスと缶を合わせて乾杯。すると彼女がちらっと壁の掛け時計を目にして僕に向かってウインクした。
「今、二十歳になりました!」
「えっ!」
「ほら、おめでとうを言ってよ」
「あ、誕生日おめでとうございます…」
「これで誰にはばかることなく飲めるわ」
なんだか調子が狂う。だけど、なんだか心地いい。こりゃ、悪酔いしそうだな。まあいいか。どうせ明日は休みだし。
翌朝。ソファから起き上がると、体中に痛みが。僕のベッドには彼女が寝ている。
二十歳になったとはいえ、初めて酒を飲んだ彼女は結局酔いつぶれてしまい、僕の家に連れ帰る羽目になった。気持ちよさそうに寝ている彼女の寝顔をのぞいてみる。そこには二十歳になったばかりのあどけない少女の顔があった。




