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推しが尊い⭐︎

パーティー終了後ーー

全てを終えて、我がラービス邸に帰還した私は、

ふっかふかのベッドにダイブして魂を天に返していた。


「……やっぱりノア殿下、美しすぎたわ〜〜〜!!!」


天井に向かって叫ぶ。

(いや、ほんと無理。存在が罪。尊い。)


傾国の美男子って言われるだけのことはある。

あの金の髪、透き通るような白い肌、そしてあの優しい声……。


「“君が微笑むだけで世界が輝く気がする”とか囁かれたら、

 鼻血どころか出血多量で即☆成仏よ!!」


枕に顔をうずめてじたばた転がる。

やばい、思い出すだけで動悸と血圧が跳ね上がる。


「しかも私の推しだったからね!?原作読者としては優勝案件ですわ!!」


……って、落ち着け私。

今の私は男装貴公子・カリスなんだ。

ノア殿下から見たら“イケメン友達”であって、恋愛対象ではない。


「ふふ……カリーナだったら、きっとあんなふうに笑ってくれなかっただろうな」


天井を見上げて小さく笑う。

(カリーナはノア殿下に嫌われてる設定だから……)


「カリスだから普通に話せたんだよね。

 ……でも、あんなに綺麗な人に“カリス”として好かれても、

 なんか、ちょっとズルしてる気分……」


そう呟いて、枕を抱きしめる。


……いや、ほんとに。

マーガレット嬢、あの顔で「君は僕の女神だ」って囁かれてたのよ!?

切実に羨ましいわ!!


(私だって推しに囁かれたい!!

 いや、むしろ語彙力が崩壊するほど推されたい!!)


そんなことを考えながら、

ベッドの上でゴロゴロ転がっていたら、

侍女のメアリーが部屋をノックしてきた。


「お嬢様?……いえ、今は“坊ちゃま”でしたね。

 寝言で“ノア様尊い〜〜”って叫んでらっしゃいましたけど、大丈夫ですか?」


……。


「大丈夫じゃないわ!!!」



***

「お嬢様。……いえ、今は“坊ちゃま”でしょうか」

侍女のメアリーが控えめにドアを開け、

銀の封筒を差し出した。


その封筒には、見覚えのある紋章――

ノルヴィス王国の王家の紋が刻まれていた。


「王宮からの、直々の招待状でございます」


……その瞬間、背筋が凍った。


(で、出たわね……地獄への招待状。)


この封筒、原作を知る者にとっては、

“婚約破棄イベントの合図”に他ならない。


つまりこれは――


ルイ殿下が悪役令嬢カリーナを公開断罪する回。


(き、きた……ッ!

 いやまだ心の準備できてないんですけど!?)


この招待状は本来、

「ルイ殿下とカリーナの婚姻式を祝う舞踏会」への招待状。

……だが、実際には婚約破棄宣言の公開処刑イベントだ。


原作のカリーナは、

“愛されてる”と信じて水色リボンの純白ドレスを身にまとい、

幸せそうに王宮へ向かう。


だけど、その隣に立っていたのは――

女神のような微笑を浮かべたマーガレット・アリーチェ。


そしてルイ殿下はその口を開く。


「ラービス・カリーナ!

今日をもってお前との婚約を破棄させてもらう!

お前のような可愛げのない女が俺の婚約者など虫唾が走る。

それに比べてマーガレットは、その名の通り花のように可憐で――」


……あぁ、聞こえてきたわ。

脳内リピートでもう鼓膜が破れそう。


(ほんと、声だけイケボなのが腹立つのよね!)


でも今回は違う。

私は“原作カリーナ”じゃない。


私は、“カリスとして生き延びたカリーナ”!


ならば――この婚約破棄、

堂々と受けて立とうじゃないの!!


(ルイ殿下の婚約者じゃなくなれば、

 少なくとも“死刑フラグ”は一旦リセットされるはず!!)


決意を固め、私はクローゼットを開けた。


中には封印したはずのドレスたちが、

煌めきを放ちながら眠っている。


「……まさか、こんなに早く出番が来るとはね」


純白ドレス? 却下。

ピンク? ヒロインカラー。却下。

紫? 意味深カラー。却下!

黒と赤? 悪役令嬢丸出し。絶対アウト!


「くぅ〜、どれも着たら破滅フラグまっしぐら!!」


頭を抱えたその時――

クローゼットの奥に、ひっそりと光る“群青”が目に留まった。


そっと手に取ると、

星空のように金箔が散りばめられたドレス。

裾には夜の流れ星のような刺繍がきらめき、

胸元ではブルーダイヤが静かに輝いていた。


「……綺麗。」


思わず息を呑む。

まるで月夜をそのまま閉じ込めたようなそのドレスに、

心が奪われた。


「これだわ。」


群青のドレスをそっと抱きしめて、

私は小さく笑った。


「このドレスで、運命の婚約破棄イベントに――参戦よ!」

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