悟りの群青の王子
煌びやかな舞踏会の真ん中で、
まるで絵画のように光り輝く二人がいた。
ルイ殿下とマーガレット嬢。
純白のドレスと漆黒の燕尾服。
まさに“運命のカップル”と呼ぶにふさわしい美しさ。
……ただし、事情を知ってる人間にとっては地獄の絵面でもある。
(はい出ました、原作の「不倫見せつけイベント」ね!!)
(イケボ+イケメン+チャラさMAXの三拍子揃った男・ルイ殿下!!)
しかもその男、今――
人目もはばからず、マーガレット嬢の頬にキスしてる。
(おいおいおいおい!?!?!?)
(ちょ、やる気満々か!!ここ、王宮だぞ!?公共の場だぞ!?)
(ていうかアンタ、まだ婚約者がいるだろうがーーーッ!!)
一瞬、会場全体がどよめいた。
「まぁ……なんてロマンチックなの…!」という声が上がるが、
私にはただの地獄絵図にしか見えない。
(顔面は100点、性格は赤点。これぞ残念王子の典型ね。)
(しかも婚約者=カリーナは今、病で床に伏してる設定。)
(あぁ……原作のカリーナ……あんた、推し変される気分、どうだった?)
心の中でそっと手を合わせた。
R.I.P. カリーナ。合掌。
そんな中、隣のノア殿下がこちらをチラリと見た。
その横顔が美しすぎて、ちょっと現実が歪む。
「……もしかして怒ってる?」
「え?」
「君の姉上の婚約者である兄上が……あんなことをしているのを見て、ね。」
その言葉に私は思わず苦笑した。
「怒っているというより、呆れてますね……。
姉上が病に臥せっているというのに、婚約者の殿下は青春を謳歌中。
人生とは……なかなか難儀なものです。」
ノア殿下はその言葉に、ふっと笑った。
その笑顔は、なんというか――
慈悲深い神様に「よく耐えてるね」って言われた気分になるやつ。
「悟りの境地だね、カリスくん。」
「拙者、もう菩薩に片足突っ込んでます。」
「……ぷっ、ふふふっ」
(うわ、今笑った!!天使スマイルきた!!)
(この世に“微笑まれ死”ってあるなら、今その瞬間だわ!)
笑いをおさめたノア殿下は、ふと真剣な目を向けてくる。
「……これは弟としての忠告だけど、
お姉さんには“婚約破棄”を勧めたほうがいい。
兄上は……マーガレット嬢に完全に心を奪われてる。
おそらく時間の問題だよ。」
私は静かに頷いた。
(でしょうね……。)
(原作通りなら、この数日後にルイ殿下がカリーナに婚約破棄を言い渡す。)
(そして、カリーナは断罪イベントに突入……。)
……けど。
今ここにいる私は、もう“原作のカリーナ”じゃない。
カリーナは死んだ。今ここにいるのは――
「ラービス・カリス。運命を塗り替える、影の王子様だ。」
心の中で小さく呟くと、
ノア殿下が何かを感じ取ったのか、
柔らかく微笑んだ。
「君、面白いね。普通なら怒り狂うところなのに。」
「怒ってもスイーツは甘くなりませんから。」
「……それ、名言だね。」
(※ノア殿下、笑いながらケーキを一口。
なお、その仕草があまりに絵になりすぎて周囲の女子が倒れそうになっている。)
(この人、ほんと罪な人だわ……!!)




