約束の一日
季節は穏やかに巡り、カリーナが王宮でメイドとして働き始めてから、半年が過ぎようとしていた。
全ての元凶だった、ザンジス宰相は、マーガレット嬢が捕獲されたことにより、居場所が明らかになり、投獄された。
ザンジス家は、財産没収となり、隣国で、魔物と人間が共存するオスベリア王国に捕虜として国外追放になったと、ラスタから聞いた。金の亡者で命よりお金だと豪語するザンジス宰相にとっては、死よりも財産を没収されたことの方がダメージが強いと陛下の考えらしい。
(陛下は本当にすごい人だ。)
ルイ殿下は、王位剥奪の罰を与えられそうになったが、ノア殿下とルーナ王女が陛下に頼み込み、王位剥奪は免れたそうだ。
王妃様が泣きながらルイ殿下を説得したとかで、少しずつ改心してるそうだ。
そして、3年間の離宮での謹慎処分になったそうだ。
その謹慎中に帝王学を学び直し、立派な王子になると言っていたので安心した。
そして、ノアは公務に追われながらも、どんなに疲れていてもカリーナの笑顔を見れば心が安らいだ。
そしてカリーナもまた、忙しい日々の中でノアの温もりを思い出すことで、どんな困難も乗り越えていた。
夜更けの書斎。
積み上がった書類の上に、ノアはペンを握ったまま眠っていた。
カリーナは静かに足音を忍ばせ、彼の傍に近づく。
「……ふふ。お疲れ様です、ノア殿下」
彼の肩にそっとブランケットをかけ、その横顔を愛おしそうに見つめる。
立ち去ろうとした瞬間――指先が、不意に温もりに包まれた。
「……カリーナ。そばにいて」
ノアが、ゆっくりと瞼を開ける。
その紅の瞳が、柔らかく微笑んでいた。
「殿下、起こしてしまいましたか?」
「ううん。大丈夫。それより――」
ノアは眠気を追い払い、真っ直ぐに彼女を見つめた。
「明日、王都に行こう。君のための婚姻の儀のドレスを作りに」
「え……?」
驚くカリーナに、ノアは穏やかな笑みを浮かべる。
「父上から許しをいただいたんだ。
君と僕の婚姻の儀を、正式に執り行うことを」
カリーナの唇が震えた。
そして、瞳から涙が零れ落ちる。
「本当に……? 私はこれからも、殿下のおそばにいられるのですか?」
ノアはその涙を指で拭い、頬を優しく撫でた。
「当たり前だ。君以外、何もいらない。
だから――明日はデートに行こう。君がいちばん輝けるドレスを一緒に作りたい」
「……ふふ。ありがとうございます」
微笑むカリーナの瞳が、喜びの涙で濡れている。
ノアは嬉しそうに頷きながら続けた。
「君の休暇申請は、僕が出しておいたよ。
そして……最近、僕が寝ずに働いていたのは――君との明日のため」
「えっ……もしかして、それで忙しかったのですか?」
「うん。だって、君を独り占めできる日を作りたかったからね。僕は君がいれば、どんな困難だって乗り越えられる」
ノアはカリーナを抱き寄せ、そっと膝の上に乗せる。
そのまま、額や頬、髪へとキスの雨を落とした。
「カリーナ……君がいるだけで、世界が温かくなるんだ」




