群青の王子、社交界デビューする!
あれから数年――。
私は、一人きりの本邸でせっせと“生存訓練”に励んでいた。
剣術?毎朝の日課。
武術?実戦で転がりまくって修行中。
学問?夜な夜なろう小説の勉強癖を活かして詰め込み済み!
あとは……そう、男子の仕草と喋り方!
鏡の前で、私は低めの声を練習する。
「……おい、そこの君。お茶、こぼしてるぞ?」
(※独り言)
「……ふっ、俺に勝てると思ってるのか?」
(※対話相手:鏡)
「……カリーナ、俺が守る」
(※練習の方向性、間違ってない?)
完璧。
少なくとも私の中では完璧。
屋敷のメイドや執事は、髪をバッサリ切った私を見て最初は大騒ぎだった。
「お嬢様!? 髪を!? ま、まさか心を病まれたのでは!?」
――病んでない。至って正常。
ちょっと死刑回避に本気出してるだけです。
心配しないで、私は元気です(精神はだいたいギリギリ)。
そんな私が、唯一心を落ち着けられる場所がある。
屋敷から少し離れた丘の上。
そこに、母上の墓があるのだ。
花束をそっと供える。
「……本当のお母さんじゃないけど、きっと素敵な人だったのよね」
「カリーナ、あなたの代わりに私が、お母さんの墓参りをするわ」
誰もいない風の中で、私はそっと微笑む。
“ラービス・カリーナ”としての私も、
“ラービス・カリス”としての私も、
どちらもこの人の子どもなんだから。
……なんて、ちょっとセンチメンタルなこと言ってたけど。
3年後。
成長というものは本当に恐ろしい。
あの頃はまだ中性的だった体が……
今では完全に、「お、おい、そこ成長しなくていいよ!?」状態である。
「くっ……なんで女体化が止まらないの……!?」
どれだけ鍛えても、どれだけ低音で喋っても、
胸が!現実を主張してくる!!
これは由々しき事態だ。
ここで油断すれば、“男装悪役令嬢”の正体が露見し、
「性別を偽った罪」とか言われて処刑される未来が待っている。
いやいやいや!!ふざけないで!?
それ、詰みエンドどころの話じゃないんだけど!?
「……ふっ、ならば――巻くしかないわね」
私は決意を込めて、サラシを手に取った。
ぐるぐるぐるぐる!!
「よし、これで完璧!苦しいけど、生きるためよ!!」
サラシがきつすぎて息が止まりかけたが、
これも生存のための試練である(※個人の感想です)。
鏡を見ると、そこには少年のような凛々しい顔立ちのカリスが映っていた。
……わぁ、我ながらイケメン。
思わず惚れそう(自分に)。
そう、私はもう“カリーナ”じゃない。
これから生きるのは、“カリス”としての人生。
そうして、私は決意を新たにする。
明日はいよいよ――
初の社交界デビュー!!!
ひえぇ、今から緊張してきた。
だって、上流階級の社交界よ!?
原作のカリーナはこの場に出席せず、屋敷でひとり泣いていたけど、今回は違う。
悪役令嬢、堂々参戦。性別:男。目的:生存。
頼むから、誰にもバレませんように……!!!




