誕生祭の影
ノルヴィス王国が最も華やぐ日――
それが、国王ノルヴィス・ルノス陛下の誕生祭。
王都全体が煌めく光に包まれ、通りには花と音楽、民の笑顔が溢れていた。
けれど、その明るさの裏で、確かに暗い影が蠢いている。
ノア殿下の見立てでは、
「ザンジス宰相は、必ずこの誕生祭に現れる」
――それが確信に近い言葉だった。
私は本来、“ノアの婚約者カリーナ”として同席するはずだった。
けれど、気にかかることが一つあった。
それは数日前、ラスタと二人で話していたときのこと。
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「ラーチェ伯爵の罪が暴かれ、一家全員、処刑されることになりました。」
淡々と告げるラスタ。彼の声はいつもと変わらず冷静だ。
「……その罪を暴いたのはノア殿下だという噂が王宮に流れていて。」
「!? で、でも! 女装していたノア殿下のことは、誰も知らないはずですよね!?」
「それが不可思議なのです。」
ラスタの眉がわずかに動く。
「何者かが、殿下の動きを監視していた可能性が高い。」
(まさか……ザンジス宰相? それとも、ルイ派の残党……?)
「とにかく、これでルイ派の人間を敵に回した。」
「ルイ派の人間は容赦なくノア殿下に刃を向けるでしょう。
まず狙われるとすれば――ルノス国王の誕生祭です。」
私は息をのんだ。
その言葉の意味を理解するのに、少し時間がかかった。
「ノア殿下は一通りの剣術は学ばれていますが、
……護衛は多い方がいい。
だからこそ、貴方には“カリーナ”ではなく、“カリス”として、殿下を守っていただきたいのです。」
「は、はい。って――え!? 私が“カリス”だと知っているのですか!?」
ラスタはごく自然に頷いた。
「ええ。出会った時から知っていました。」
「!?」
(え、えぇぇ!? じゃあ、あの時の壁ドンとか、してたのもバレてたの!?)
「殿下にも、誰にも言わないと約束しています。
……殿下の力になってくれる人を、陥れるつもりもありません。ご安心を。」
「な、なるほど……」
(なるほどって何!? 私の心臓が持たないんですけど!?)
***
カリーナ――いや、今は“カリス”として、再び男装の準備を整える。
白シャツに燕尾の黒いジャケット、腰には剣。
鏡の前に立つと、かつての「男装令嬢」ではなく、
“ノア殿下の影”として生きる決意をした戦士がそこにいた。
(本当は、殿下が言ってくれた「君のドレス姿が見たい」って言葉、嬉しかった。
けど……今はそれどころじゃない。)
ノア殿下に何かあったら、それこそ国の一大事だ。
彼を守るためなら、私は――もうどんな姿でも構わない。




