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姫の趣味と、国の闇と

ルーナ王女に腕を引かれながら、私は廊下をずるずると引きずられていた。

まるで罪人。しかも罪状は“顔が良すぎる罪”。


(いや待って、どんな理不尽!?)


一方のルーナ王女は、まるで推しのライブに向かうオタクのようにご機嫌。

キラキラ笑顔で言う。


「貴方、本当に綺麗な顔をしているわね!!」

「は、はぁ……(どうリアクションすればいいのこれ)」


「薄水色の髪に、夜空を詰め込んだような群青の瞳。

……ふふ、貴方、すごく女装させがいがあるわ!!」


(“女装させがいがある”って新しい誉め言葉!?)


「そ、それは……ノア殿下の女装も、ルーナ王女が?」


「そうよ!あの子の女装、すごく綺麗でしょ?」

「はい……絶世の美女でした。」


「でしょ~? 昔はね、よく私が女装させて茶会や舞踏会に出してたの。

あの子、私の後ろを『姉上、姉上!』ってついて回って、ほんっとうに可愛かったのよ~。」


懐かしそうに笑うルーナ王女のルビー色の瞳が、少し揺れた。

「今じゃ立派な第二王子になっちゃって……なんだか寂しいのよね。」


少し切なげに微笑んだその次の瞬間――


「さぁ!このドレスを着てくださいなっ♡」


目の前に広げられたのは、黄色い向日葵が胸元に咲く、華やかなドレス。

レースの裾がふわりと広がり、見るだけで高級なのがわかる。


「こ、こんな上等なの着れません……!」

「気にしないで!趣味ですから!遠慮なんて無用ですわ!」


(趣味ってスケールじゃないです王女様!!)


――こうして、ルーナ王女プロデュース

『男装令嬢の女装(!?)ショータイム』が幕を開けた。


数分後。


鏡の前に立たされた私は、まるで知らない誰かの姿をしていた。

向日葵のように明るいドレス。髪も軽く巻かれて、頬には薄紅。


「……えっ、誰これ……?」


「君だよ。」


振り向くと、ノア殿下。

真顔で、微笑もせずに一言。


「似合ってる。」


「…………(尊死)」


全身から湯気が出る勢いで泡を吹く私。

ルーナ王女は「大成功!」と拍手しているし、殿下は満足げだし、もう誰か私を処してくれぇぇぇ!!


――そこへ、空気を読まずにラスタ登場。


「……失礼します。」


女装した私を一瞥。何も言わず、ノア殿下に報告を始めた。


「子供たちは全員、無事に親元へ帰しました。

どの家も行方不明届が出されていたため、警察経由で確認済みです。」


「……そうか。流石だね、ラスタ。」


「光栄です。

国王陛下にはラーチェ伯爵の証拠をすでに提出しました。

あの男の罪が裁かれるのも時間の問題でしょう。」


(ラスタ、有能。超絶有能。)


ノア殿下は一瞬、表情を引き締める。

「でも……ラーチェ伯爵は、始まりにすぎない。この国の闇は、もっと深い。」


その言葉に、胸がぎゅっと締めつけられた。

昨日見た、あの地下室の子どもたちの泣き顔が頭をよぎる。


私はぐっと拳を握りしめて叫んだ。


「殿下……地道でも、一つずつ変えていきましょう!

僕、協力します! 殿下の手となり足となるので、僕を好きに使ってください!」


(子どもたちだけじゃない。

この国には、苦しんでる人がまだたくさんいる。

あの笑顔を取り戻せるなら、私の命なんて惜しくない。)


ノア殿下は静かに目を細めた。

そして、少しだけ優しい声で言う。


「……君がいてくれると、心強いね。ありがとう、カリス…。」


そう言って微笑む殿下のルビーの瞳が、光を宿していた。

それは――希望の色だった。

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