婚約破棄イベント開幕!〜原作改変、はじめます!〜
朝日がカーテンの隙間から差し込む頃、
メアリーはいつになく上機嫌で私――いや、“カリーナ”の髪を結い上げていた。
(カリーナ様は、ご自分の魅力を知らなさすぎますの。
ああ、やっぱりこの薄水色の髪は、夜明けの光より美しい……)
「なんだか嬉しそうね、メアリー。」
「当たり前です、お嬢様!やっぱり女性の姿の方が何十倍も魅力的ですわ!!」
「ふふ、ありがとう。」
(……私だって、本当は男装をやめたい。
でも死刑フラグをへし折るまでは、カリスとして生きなきゃいけないの。
今日が――その第一歩。)
「あの日の私なら、泣いてすがっただろう。
でも今の私は、涙の一滴も見せない。」
カリスの服を脱ぎ、鏡の前で群青のドレスを纏う。
久しぶりに見る“女の自分”に、少しだけ戸惑った。
(……終わらせよう。この茶番を。)
ルイ殿下とマーガレット嬢の婚姻式。
会場の中央、白百合の花が飾られた舞台に、
私は“ラービス・カリーナ”として姿を現した。
ざわ……ざわ……
「病で倒れていたはずでは?」
「奇跡の回復……か?」
ざわつく貴族たちを背に、私は静かに微笑む。
(もう、誰にも怯えない。
私の人生は、私のものだから。)
ーーそして、会場の隅。
ひとり赤い瞳でこちらを見つめる青年がいた。
ノア殿下。
その瞳には驚きではなく、どこか安堵の光が宿っていた。
(……やっぱり、カリスくんじゃなくてカリーナ嬢だったか。
やっと見つけた、僕の初恋の人。)
***
一方その頃、当のルイ殿下はというと、
完璧な王子スマイルを浮かべてマーガレット嬢の腰に手を添えていた。
「やっと姿を見せたな、カリーナよ。
病に臥せって妃教育もまともに受けていない女が、
俺の婚約者とは笑わせる。」
(ノア殿下と同じ顔なのに、
ここまで腹立つのなんで!?)
「ルイ殿下の言う通りでございますわ」
「……ほう?」
その瞬間、殿下の口元が“勝利を確信した顔”になる。
(あーその顔、原作で散々見た!きたきた、名台詞タイム!)
「ラービス・カリーナ!
今日をもってお前との婚約を破棄させてもらう!
お前のような可愛げのない女が俺の婚約者など虫唾が走る。
それに比べてマーガレットは、その名の通り花のように可憐で――」
(はい出ましたー!!原作通り!!完コピできるレベル!!)
私は胸を張り、完璧な淑女スマイルで答える。
「ルイ殿下。婚約破棄の件、承りました。」
「……な、なんだと!?」
「ですから、婚約破棄を受け入れますと申しているのですわ。」
「お、お前は……俺を愛していただろう!?」
(いや、愛してません。はい。)
「ですが、殿下は愛する方を見つけられたのでしょう?
でしたら、病弱な私よりもマーガレット嬢こそ、
次期王妃に相応しいのではなくて?」
ざわ……ざわ……ざわ……
狼狽えるルイ殿下。
(ふふ、原作にない“予想外のカリーナ”で混乱してるわね!)
「他にご用がないなら、これで失礼致しますわ。
陛下のご招待ですもの、病弱な体に鞭打って参ったのです。……(咳払い)」
「ま、待て!……お前には弟がいたな? カリスとか言ったか?」
(!? 来た!カリスバレフラグ!!
まさかこのタイミングで!?)
「カリスは剣術の練習をしすぎて風邪を引いておりますの。
屋敷でひとり寝込んでおりますので、
可愛い弟が心配ですわ〜〜〜!」
華麗なターンでドレスを翻し、私は会場を後にした。
(ふぅ……なんとか生き延びた!
婚約破棄も完了!死刑フラグ一個粉砕!
あとはマーガレット嬢いじめルートを避ければ完璧!!)
鼻歌まじりに廊下を歩いていると、
月光のように美しい声が私を呼び止めた。
「ねぇ、兄上との婚約も破棄になったことだし」
振り向けば、そこにはノア殿下。
あの紅い瞳が、まっすぐに私を射抜く。
「僕の婚約者にならないかい? ラービス・カリーナ嬢?」
(……え、え、え、ええええええええええ!?!?!?!?!?)




