ハーミット・リスタート【入学編】9ページ目 伝説を刻む少年
これは今春より。
カップアンドコイン学園に入学する。
とある少年の話である。
少年は十六年前にメロディアス首都圏の街。
リリックラシクの貧しい家庭に生まれた。
少年の父は魔導車の工場勤務員であり。
母親はショッピングセンターのパート勤務で収入を得ていた。
少年には兄弟はおらず。
一人っ子の家庭であり。
日曜の休日で父親と過ごす時間はかけがえのないものであり。
同時に少年にとって父は憧れの的だった。
『いいか、優等生でいるよりもみんなの記憶に残る方が人生楽しいぞ』
『アンタ、変なこと吹き込んでじゃないよ』
父の発言に対し。
漫才のように言葉を足す母。
少年はそんな両親の下ですくすくと成長し。
六歳になり、オープンスクールに入学した。
「もう、学校にもいけるようになったし、何か魔法を覚えたいよ。父ちゃん」
少年は父親にねだった。
貧しさゆえに誕生日プレゼントもケーキもない。
そんな家庭だからこそ。
少年は、知識を、魔法を。
入学祝いに父親へとねだった。
オープンスクールでは。
算術や文章読解の国語や社会学。
大雑把な歴史に道徳など。
一般教養を教えるが。
魔法を科目として子供達には教えることはない。
これはオープンスクールの制度が始まった百年前から。
定められており。
理由としては魔力を持つ者と持たぬ者を差別しないための措置である。
そのため、少年はオープンスクールに通っても。
魔法が学べないことに不満を覚えていた。
だからこそ、プレゼント代わりに。
父に魔法の習得をねだったのだ。
「父ちゃん、オレに魔法を教えてよ」
入学してから数ヶ月が経ったある日。
大事な一人息子の切実な願いに。
彼の父は自分のデカい赤いアフロに。
手を突っ込みながら。
ひとしきり考えた後に返答した。
「いいだろう。接着魔法を教えてやる」
「えええ、炎とか氷とか雷撃とかカッコいいのがいいよ」
「バカ者」
少年は思い切り父から殴られた。
あまりの理不尽さに少年はキレた。
「なにするんだよ。父ちゃん。いきなり殴るなんて」
「接着魔法は応用が効く便利なものだぞ。それこそ母さんとのプロポーズの時の握手で……」
「恥ずかしいこと言うんじゃないわよ」
少年の父は。
憧れは母親から渾身の一撃を喰らい。
壁に叩きつけられるまでに吹っ飛ばされた。
「接着魔法ならアタシが教えてあげるわ」
「……あの、さ。そこはお、れが、おし、えさせ、て」
「変なこと言うんじゃないわよ」
「……はい」
父の威厳が片手で握り潰されるプリンの如く崩れ去る様子に。
少年は父に魔法の習得をねだったことを少し後悔した。
その後、接着魔法を父から学び。
十歳の頃に。
課題の提出率の悪さで。
反省の一環として。
読書感想文を書く際に。
学校の図書室で読んだ偉人伝。
『ウルフランドの護り手。ガーランド・ヘヴィシェルター』
これがきっかけで鋼化魔法を学ぶのだが。
また、それは別の話。
そうして、少年は。
「魔導学院や大学で魔法を学びてえよ」
「アンタの金で行きな」
「父さんも同感だ」
こうして少年はアルバイトで金を稼ぎ。
同時に入試のための勉強もし。
奨学金制度のあるカップアンドコイン魔導学院の。
MAG課の存在を知り。
見事試験を突破した彼は。
この春より魔導学院への入学を果たすのだった。
なお、面接の際に成長した少年が発した言葉。
「自分はここで伝説を残すつもりです」
この一言はハイプリステス理事長を除き。
面接官一同をしばしポカンとさせた。
なお、理事長は面接が終わるまで爆笑していた。
「さて、ここが在学中のオレの家ってわけか」
荷物を携え、少年は。
イーガ・ジェットフォワードは。
これから自身の身を置く寮へと。
足を踏み入れるのであった。
ここまでお読みくださりありがとうございます。
読者の皆様は残暑をいかがお過ごしでしょうか。
恥ずかしながら。
私は遅れてやってきた夏バテに手こずっています。
さて、次回の更新は9/17の17:00です。
体調には皆様もお気をつけください。
ちなみに次回もイーガに関するものです。




