ハーミット・リスタート【入学編】4ページ目 二人の少年
盗人を捕らえた二人の少年。
それぞれ様相は異なるもののレオナは彼らに感謝を伝えた。
しかし、騒ぎを知った聖騎士団がその場に駆けつけ。
レオナは状況を伝えなければならなくなる。
荷物を奪われ一時は困惑していたレオナだったが。
銀髪の少年とヤマタイ衣装の少年のおかげで。
無事に事なきを得た。
「ありがとうございます。なんてお礼を言ったらいいか」
「そんな何度もいいですよ。それよりこの男を聖騎士団まで連れて行かなくては」
「オレもついていこうか」
「いえ、自分一人で結構。旅の方の手を煩わせるわけにいきません」
「いいや。この春からオレもこの街の住人だぜ」
銀髪の少年はヤマタイから来たであろう黒髪の少年に。
毅然とした態度で好意を断ったが。
黒髪の少年はそれでも銀髪の彼に食い下がった。
「オレはレイシ。この春からカップアンドコイン魔導学院に通うんだ」
「ほう」
レイシと名乗った少年に銀髪の少年は。
含み笑いをして。
泥棒の男の腕を更に強く握った。
「ぐあっ」
「っと、いけない」
痛みで盗みを働いた男はもう立ち上がる体力も気力もなくなり。
その場でぐったりと気を失った。
「なんだ、なんだ」
「ケンカかしら」
二人の少年を取り囲む野次馬は次第に多くなり。
遂に騒ぎを聞いた駅駐在所の聖騎士団の一人が。
現場まで駆けつけてきた。
「なにが起きたか教えてもらおうか」
「この男が彼女の荷物を奪ったので取り返したまでです」
聖騎士団相手に物怖じせず銀髪の少年は状況を相手へと伝えた。
レオナも自分を助けれくれた少年のためにと経緯を証言する。
「この人のいう通りです。こっちの黒髪の人と一緒に荷物を取り返しに行ったんです」
「ほう、その格好ヤマタイの者のようだが、名は」
「レイシ。スズナリ・レイシ」
「よし。銀髪の。お前は」
「ラスタ・ムーンシェード」
「ムーンシェード。聖騎士団の開発局のーー」
「父さんは関係ない」
駆け寄ってきた聖騎士団の言葉を。
少々強い語気で遮った。
取り締まりの権限を持つ騎士団ですら。
思わずたじろぐ状況にレオナも戸惑い。
場の空気が停滞している中で。
飄々とダグは喋り出した。
「すいません。騎士団の方。この泥棒を連れていってくれますか」
「あっ、ああ。そうだね」
「一人で大丈夫ですか。僕も手伝いますよ」
「はは、これくらい大丈夫さ。きみこそ気遣いありがとうね」
聖騎士団の男は泥棒の男を肩に担ぐと。
騎士団の駐在所までもどっていった。
それに伴い野次馬もどんどん減っていき。
残ったのは、レオナ、ダグ、レイシ、ラスタの四人。
「自分はもう行くので。ひとまず、よい旅を」
「あっ、はい。ありがとうございます」
レオナの事情を知らないラスタは。
彼女の感謝の言葉を受け止めるとそのまま立ち去っていった。
「大丈夫かい、レオナ。あと、ごめんね僕がついていながら」
「気にしないでダグ。私もつい浮かれちゃっていたし」
「おのぼりさんかい。オレもそうだから恥ずかしがんなくていいぜ」
「あはは」
「自己紹介がまだだったな。オレはレイシ・スズナリ。あんた達は」
「私はレオナ・ストレングス」
「僕はダグ・ダークハウンド。レオナと一緒にカップアンドコイン魔導学院の寮まで向かっていった途中さ」
「なんだって。オレと同じじゃねえか」
そういうとレイシは落ちていたレオナのトランクを拾って。
代わりに持ってあげた。
「あの、それ私の荷物」
「気にすんな。目的地も同じだし、あんたらと一緒に行ってもいいかい」
「いいよお」
「ダグはいいって。レオナちゃんは?」
「私もいいけど。荷物は持つよ私のだし。それにあなた何か背負っているみたいだし」
「遠慮すんな。それにオレの背中のもんは気にすんな」
「うーん。まあいいか」
悪い人じゃなさそうだし、このままじゃ埒も開かなさそうだし。
自分の私物が入ったトランクをあって間もないレイシに預けるのに。
抵抗はあるものの。
親切心に水を差すのも失礼と思い。
レオナはその場の流れもありレイシの言葉に甘えた。
「うし、ダグだっけ。寮の道知ってそうだし、案内頼めるか」
「いいよ。なんか楽しくなったな」
「なんだかなあ」
楽しそうに先を進むダグとレイシの背中を見つめながら。
レオナは不安じみた疲労感から。
ため息がこぼれてしまった。
ここまでお読みくださりありがとうございます。
大変暑くなっていますが読者の皆様はどうお過ごしでしょうか。
エアコンの効いた部屋から出たくないほどです。
さて、それでは次回更新は8/13の17:00です。
健康にはお気を付けください。