ハーミット・リスタート【入学編】29ページ目 要の魔導書
ブライトグラス書店の秘密書庫にレオナは招かれた。
とある一冊の魔導書を受け取る資格があるか。
試すために。
ブライトグラス書店の秘密書庫。
そこに招かれたレオナは。
ハイプリステス、ビーンズに見守られながら。
店長のマークと顔を合わせていた。
「この魔導書の説明に移る前にハイプリステス、お前さん言いたいことあるだろ。」
マークはかざしていた“要”の魔導書。
『アルバステータス』を大切に両手で掴み。
椅子に座るレオナの目前まで近寄った。
そのタイミングでハイプリステスは。
マークの隣に並び。
ニコニコとレオナに笑顔を向けた。
「この魔導書を使えば学園生活は楽になるわよ」
「それは……どんな物なのですか」
「これはね、その時その場で必要に応じて情報を提供する魔導書、故に“要”の魔導書よ」
「ハイプリステス、やはり魔導書の説明を先にした方がいいかもしれん」
笑顔のハイプリステスとは対照的に。
ムスっとした堅い表情のマークは。
魔導書を両手に持ったまま。
その一冊に秘められた能力をレオナへと語り出した。
「この魔導書は空白であり、そこに情報を記録させることで力を発揮する」
「まるでMAG端末ですね」
「当然だ。ヘルシィ・ハーミットはこの魔導書をヒントにMAG端末を完成させた」
「それじゃあ、その魔導書の前の持ち主はヘルシィさんなんですか」
「まあな。といっても、奴は何も情報を記録させずにうちに預けたがな」
「うーん、それはそれでヘルシィさんらしいけど、どこで手に入れたんですかね」
「奴の父親がある日魔導局時代のツテで手に入れて、その後父親から譲ってもらったらしい」
「ますます誰が作ったのか気になりますね」
「話が脱線しているが、この本の能力について教えてもいいかね」
「すいません」
高圧的とまではいかないが。
マークの厳格な態度にレオナは。
苦手意識があったが。
嫌悪感から自分にその様な態度をしているわけでもなさそうなので。
椅子に座り直し彼女はマークの話を聞くのだった。
「この本には製作者の擬似人格、意思と言うべきか残留思念が宿っている」
それを皮切りにマークは己が手にしている魔導書『アルバステータス』を。
語っていった。
「この魔導書は持ち主を選ぶ」
「情報を取り込む際は白紙のページを開いた状態で呪文を詠唱する」
「同じく、魔導書を扱う際は基本的に詠唱となる」
「能力として取り込んだ情報をベースに魔導書に宿った意思が状況に応じた指示をしてくる」
「そして、この魔導書は蓄積された情報や使い手によって成長していく」
「使用者によって全く異なる効果を持ち、危険性も孕んでいる」
「なお、この魔導書を使うには使用者としての認証が必要となる」
「これから『アルバステータス』がキミを持ち主として相応しいか見極めてくる」
語られていく説明は。
情報のなだれ。
一切れの紙にびっしりと文字が詰め込まれた説明書を。
そのまま口に出して読み上げているのかと。
錯覚してしまうほど。
マークの魔導書の解説を。
聞けば聞くほどレオナの頭は。
ぐるぐるとその場で回り始めた。
だからこそ、はっきりとわかったことといえば。
前の持ち主がヘルシィであったという箇所ぐらい。
「よろしいかな」
「は、はい」
なんとか返事をするので精一杯。
レオナは声を振り絞ったが。
そんな彼女の様子を。
理解していたのか。
ハイプリステスがビーンズを手招きして。
自分の隣に並ばせると。
優しくレオナに声をかけた。
「具体的な使い方は今後マークに聞いてちょうだい」
「はい……分かりました」
「ふふ、レオナちゃん、お疲れっぽいわね」
「そんなことないですよ。それよりマークさん一個質問いいですか」
「何かね」
「ヘルシィさんは何も書かなかったとのことですが、その、アル、バス、『アルバステータス』には今何かの情報が載っているのですか」
情報が蓄積されるのなら。
ヘルシィよりも前の所有者の情報も載っているはず。
むしろヘルシィ以前の所有者にレオナは興味があった。
しかし、その希望はすぐに打ち砕かれた。
「いや、ない。全て空白だ。うちの店にヘルシィが預けに来た際、ワシに全ページの情報を消すよう頼んできた」
「マークさん、魔導書の中身を消すことができるんですか!」
「まあな。しかしながら、『アルバステータス』に宿った意思までは消せなかったがね」
「すごい」
「そもそもこの部屋は古い魔導書の中身を消すか封印するためにうちの初代店長が設けた空間だ」
「そうだったんですか」
魔導書を廃棄するには。
基本的に魔道具などの処分を専門とする業者の。
ブレーカーズ任せ。
忘却魔法や魔導書に記された内容と相殺する魔法をぶつけるなど。
一般的に流通している物ならば。
業者でなくとも内容次第では家庭で処分する人々も中にはいるが。
手間がかかる上に。
処分中に魔法の相殺に失敗して大怪我を負うリスクもある。
特に所出がわからない魔導書は。
どんな事故が起きるか分からないため。
魔導院が危険と認知した或いは認知外の書については。
メロディアスの国家資格が必要となってくる。
「ワシは表向きこの書店の店長だが、裏で処分困難な魔導書の処分や保管を担っている」
「もちろんマークは国家資格持ちで階位は最上級の“マエストロ”だから」
「二級や一級みたいな数字じゃなくて称号なのよね、サイレントタワーさんは」
「すごい」
決して自慢話とは感じず。
どんどん話のスケールが大きくなっていく毎に。
レオナは『アルバステータス』の解説による頭の重さが。
軽くなっていった。
だからこそ、そのタイミングを見計らい。
満を持してビーンズがレオナにとって。
一番の本題を切り出し始めた。
「ねえ、レオナちゃん。その魔導書に私の占いの結果を取り込んでみない」
「それはどういう意味ですか」
「ええと、これから起きる出来事や出会う人が分かるかもしれない、予知書になる。この認識で合ってますよね、サイレントタワーさん」
マークは声の代わりにビーンズに対し小さく頷いた。
そのやり取りを見聞きしていたレオナは。
ビーンズの言葉がマークによる『アルバステータス』の解説以上に。
シンプルで分かりやすく。
それでいて衝撃的な内容だった。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
今回の話でブライトグラス書店に。
直接瞬間移動で到達しましたが。
通常は結界が張ってあり。
移動系の魔法では行き来ができなくなっています。
マーク店長がレオナのために。
特別に一日だけ結界を緩めていたのです。
さて次回の更新は2/4の17:00になります。
ぜひご覧ください。




