ハーミット・リスタート【入学編】28ページ目 これからと未来
ハイプリステスとの約束の日。
レオナは寮の前で彼女を待つのだが。
やって来たのは黒いスーツ姿の屈強な男性二人組だった。
カップアンドコイン学園の制服は五年前に刷新された。
それまでは魔術師らしい黒と茶の全身を覆うローブ。
しかし、ハイプリステスが理事長に就任し。
制服を一新。
ブレザーと呼ばれるビジネススーツ風のジャケットスタイルになり。
胸にはカップアンドコイン魔導学院の校章である。
金の盃と一枚の金貨のワッペンのついた。
白を基調とした青の差し色が入った上着で。
男子は白シャツに紺色のロングズボン。
女子は白シャツと紺色のロングスカート。
新しくなった制服は生徒達に人気を博した。
入学式前日の午前、レオナは自室で。
制服を着て姿見で有る大きな鏡の前に立ち。
笑顔を作ってみたり。
くるくるとその場で回ったりして。
制服の着心地を楽しみつつ。
午後にこの寮に訪れる制服の考案者であるハイプリステスを。
心弾ませながら待っていた。
「あんた好きねえ」
ルームメイトのシエルから珍しく声をかけられたこともあり。
レオナはウキウキと彼女に言葉を返した。
「シエルも着てみたら。一緒に並んでみない」
「いや、うちは遠慮しとくわ」
そんなやり取りもありつつ。
一ヶ月ほど前にハイプリステスから貰ったメモを。
ブレザーのポケットから取り出し。
掌の中のそれに視線を向けたりもしていた。
入学式前日にあなたの寮に立ち寄るわ。
午後の15:00を目処にするから。
ヘルシィからもらったPMAGウォッチを忘れないでね。
メモの内容を頭の中で反芻しつつ。
PMAGウォッチをつけ。
制服姿のまま昼食まで済ませると。
午前中と同様に。
浮かれながら約束の時間間際まで。
自室で過ごしていた。
(ハイプリステスさんの話ってなんだろうな)
一刻一刻と時間は過ぎていき。
十分前になると流石にレオナは。
落ち着きを持ち出し。
弾む心を抑えながら。
ハイプリステスが立ち寄るであろう。
寮のエントランスにある受付まで赴いた。
「どうしたのレオナさん。制服着ちゃって」
「今日私に会いにくる人がいるんです」
「へえ。でも、今日は特に訪問する人の話は聞いていないわねえ」
「あれ?」
アポなしで来るのだろうか。
別にこの寮を訪問するのに特段予約は必要でないのだが。
寮の所有者である学園の理事長が。
来るにも関わらず寮母であるエリーに話が伝わっていないのは。
レオナには奇妙であった。
(エリーさんや他の生徒をびっくりさせない為に敢えて伝えていないのかな)
疑問に思っていると。
すぐに約束の時間となるも。
ハイプリステスの姿は見えない。
(なんか会議とかで遅くなっているのかなあ)
更に疑問が増していくレオナだったが。
そんな時。
「ちょっと宜しいですか」
寮の入り口に二人組が現れた。
黒いパンツスタイルのビジネススーツに身を包み。
黒いオールバックの短髪で黒いサングラスをかけた。
怪しすぎる二人だ。
「レオナ・ストレングスさんですね、ちょっと我々とご同行お願いできますか」
二人組の一人がレオナに声をかけた。
低い屈強な男性の声にレオナは身がすくむも。
ハイプリステスとの約束があり。
勇気を振り絞り。
作り笑いながらも拒絶を示す。
「ごめんなさい。これから人と約束をしているんです」
これでどこかに行ってほしい。
レオナがそう思っていると。
声をかけてきた人物が彼女へと囁いてきた。
「レオナちゃん、私よ」
「えっ」
その声は今日待ち合わせをしていた約束の人であるハイプリステスであり。
ささやきと同時にレオナのPMAGウォッチに着信が届いた。
ハイプリステス:大声を出さずにこのまま私達についてきて
着信音を聞き、メッセージに目をやるとレオナは。
驚きをぐっと抑え。
一息吸った後に。
落ち着いた調子でエリーへと呼びかけた。
「この人達がどうも約束していた人です」
「あら、そうなの。じゃあ、夕飯はどうします」
「ええと、夕飯までには帰ります」
とにかく勢いで誤魔化そうと言ってみたものの。
特にPMAGウォッチにメッセージも。
ハイプリステスが囁いてもこないので。
これが正解なのだろうとレオナは思った。
「レオナさん、気をつけてね」
「はい」
エリーに見送られてレオナは。
ハイプリステス達と一緒に寮の外へ出た。
「あれ!?」
寮の外に出たレオナは正門の前に一台の白い魔導車が停まっているのに気づいた。
「あの車に乗るんですか。ハイプリステスさん」
「まあ、そうね」
「分かりました。ところであなたの隣にいらっしゃるもう一人の方は?」
小声で会話するレオナとハイプリステスに。
もう一人のスーツの人物も小さな声で会話に参加した。
「私よ。わ・た・し」
「ビーンズさん」
ハイプリステス同様に驚きを抑えこみ。
ビーンズへとレオナは返事をした。
「トランシープで会った以来ね」
数ヶ月前に自分を占いヘルシィの住まう地へと。
導いたマダム・エンプレことビーンズ・キャンディボウル。
なぜ彼女がハイプリステスと行動を共にしているか分からなかったが。
(とりあえずお二人についていけばわかるだろう)
大声を出すのを防ぐのも兼ねて。
レオナは一旦思考を放棄し。
流されるままに寮の正門前に停車していた魔導車へと。
乗り込むのであった。
(なんか狭いな)
正方形の車内で。
ハイプリステスが運転席。
ビーンズが助手席。
レオナが後部座席左に乗り。
「じゃっ、発進するからシートベルトをしてね」
車内にいる者達がシートベルトを締めたのを確認すると。
ハイプリステスはエンジンキーを回した。
それが魔法のトリガーであり。
寮にいた車は一瞬にして姿を消し。
車の中だと思っていたレオナは。
見慣れない場所に置かれた椅子に。
いつの間にか座っていた。
「どこ、ここ?」
そこは中央に大きなランタンが吊るされた。
広い円形のホールであり。
四方八方に扉があり。
一つを除きいずれも閉ざされていた。
開かれた扉はレオナの正面のものであり。
まるで図書館のようにズラリと多くの本棚が並んでいた。
「ごめんね、色々と急になって」
「ちょっと内容が内容なんで、ごめんね」
背後から声がし。
レオナが振り向くと。
白い三角帽やコートを着たハイプリステス。
くすんだ茶色のローブを着た素顔を露わにした黒い長髪のビーンズ。
先ほどまでのスーツではなく。
二人ともレオナの知っている姿だ。
彼女達は申し訳なさそうにレオナに謝ると。
ここに連れてきた理由を語り出した。
「あなたに渡す物があるけど、特殊でね」
「私の占いもちょっと関わってくるし、魔法で変装したり瞬間移動する必要があるの」
「渡す物?」
不思議がるレオナ。
そんな彼女の前に一人の男性が姿を現す。
「レオナくん。キミにはある魔導書を受け取ってもらう」
まるで図書館のような本棚が並ぶ空間の奥から。
コツコツと音を立てながら。
マーク・サイレントタワーがレオナ達へと近づいてきた。
「失礼、説明がまだだったね。ようこそブライトグラス書店の秘密書庫へ」
教科書を受け取りに行った日に。
その姿しか知らなかったマークから。
突然声をかけられレオナは硬直するが。
それに構わずマークは話を続けた。
「受け取ってもらう要の魔導書である『アルバステータス』だ」
マークの手には厚いカバーで綴じられた。
一冊の本が握られていた。
挿絵やタイトルもなく
シンプルな白い表装で。
古びているせいか所々茶色い小さなシミもある物で。
レオナは最初それが日記に見えていた。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
一段と寒くなってきてましたので。
心より読者の皆様の健康を祈っております。
さて、次回の更新は1/28の17:00となります。




