ハーミット・リスタート【入学編】27ページ目 アーツマグロイド
MAG2、アーツマグロイドが画期的である理由だ。
社内でのコードネームはブリッツハート。
イオンが魔法を発動する際に発せられる青白い雷光が由来だ。
スロットルがイオンの管理を行うようだが……。
現在調整中のイオンの姉妹機“ティオ”の管理はどうしたものか。
彼女もスロットルに預けるべきか。
それとも私が管理すべきか迷うところだ。
ドルフィンキックフロンティア社、技術部最高責任者アプリコットディスクの某日の業務日誌。
寮の談話室にて。
エリーに許可をもらい。
レオナ、ダグ、スロットル、ルーレッツ。
四人はイオンについて話し合っていた。
「ハイプリステスさんから聞いたよ。確かレオナさんがMAG課のクラス長だってね」
「はい。だから、イオンでしたっけ。彼女?が私のクラスに入るのは予想外でした」
「彼女でいいよ、人格は女性としてプログラムしているからね」
「ルーレッツさん、レオナちゃんにアーツマグロイドの説明をしても良いですか」
「構わないよ」
朗らかなルーレッツに対し。
スロットルはこれまでレオナ達に見せていた豪快さが。
嘘のように静かに丁寧な態度だった。
それはルーレッツに会話の主導権を。
渡してもらった後も。
喋り方以外は落ち着いていた点からも。
スロットルがルーレッツへの敬意や礼節を。
とても持っているとレオナはうかがえた。
(この人がこんなに改まるなんてルーレッツさんて何者)
大企業の社長でもあるが。
同時になにか底知れなさを朗らかな表情のルーレッツから。
レオナは感じていたが。
「どうしたのレオナちゃん」
「すいません。ちょっと話がどんどん進んでいくものなので」
「だよね。ちょっといきなりすぎるもんね」
そっと呼びかけてきたスロットルの言葉にレオナは。
その警戒心じみた緊張を解いた。
「まずはアーツマグロイドについて話そう」
「新型のゴーレムなんですよね」
数ヶ月前、ヘルシィのいるフルート山に赴いた際に。
命令に忠実に動く自立したMAILの新型ゴーレムに。
モナという、姿形を自在に変え感情豊かなゴーレムなど。
これまでの常識を覆す技術を目の当たりにしてきたからこそ。
それらとも違う“イオン”という存在が。
より一層レオナにとっては異質だった。
「まず従来のゴーレムと違い、ネクストリー国の機械や工業技術をもとに組み立てられた」
「あれ、この国のゴーレムにも機械部品は使われてますよね」
「よくぞ言ってくれた。アーツマグロイドはネクストリー国の魔法を用いない完全マシンテクノロジーのロボットと呼ばれる機械人形の技術を用いているんだ」
「それじゃあ、イオンもロボットの一種なんですか」
「ふふ、本当に欲しい疑問ばかり言ってくれるな、レオナちゃんは」
「ありがとうございます」
(褒められているのかな)
そう思いつつ、とりあえずレオナが笑っていると。
スロットルは自身のPMAGウォッチの機能を用い。
談話室の床に画像を投影した。
「近年この国のゴーレムは搭載されたMAG端末を用いて命令に従っているが、アーツマグロイドはMAG端末とネクストリー国のコンピュータと呼ばれる演算記憶装置の技術を用いている」
「レオナ、コンピュータっていうのは昔僕の所にやってきたXの住んでいた世界の技術だよ」
「異世界の技術なんだ」
「うん、とてもじゃないけどメロディアスで再現不可能だったんで、ざっくりとした知識と理論だけ教えてもらったんだ」
「でも、なんでそれがネクストリー国に?」
「五、六年前にMAGのプレゼンがあって、僕がネクストリーに赴いてね、色々な企業家や研究者にXの技術をその時に伝えたんだ」
「そうなんだ」
「ええと、二人とも話を戻していいかな」
「ごめんなさい」
スロットルに呼びかけられ。
レオナは彼の顔を見た後に。
床に映し出された画像に目をやった。
そこにはイオンであろう人型のシルエットがあり。
頭部にMAG/CPと書かれ。
心臓部にはMAG2と記されたハート状の図形が記されていた。
「イオンの記憶と記録装置にはMAG端末とコンピュータの二つが搭載されていて、人間で言う右脳と左脳みたいなもんだよ」
「この二つの装置に情報が蓄積されていくからイオンはどんどん人らしい行動をとるようになるのですか」
「その通りだよ。そのためにMAG課に入学させるんだ」
「なるほど」
「にしてもレオナちゃん冴えているねえ」
「どうも、ありがとうございます。ところでこのMAG2というものは?」
ヘルシィ、ダグと一緒にいる内に。
MAGや機械に対する理解が深まって入っている自分に。
レオナは素直に喜んでいいか分からなかったが。
画像を見て浮かび上がった疑問を。
スロットルへと投げかけてみた。
するとスロットルは。
落ち着きはそのままに。
無邪気に笑い出した。
「そのMAG2というのはイオン単体で魔法を使用できるための動力炉さ」
「魔法ですか」
「そう、従来のゴーレムとの決定的な違いはまさにそこ。アーツマグロイドは魔術師同様に単体で魔法が使えるのさ」
「それについては僕から補足しよう」
疑問符が頭の上にどんどん浮上するレオナに。
熱のこもり始めたスロットルに代わり。
ダグが解説を始めた。
「モナは形状が変化できるけど、あれは魔法を使っているんじゃなくて、コアを中心にパーツを組み替えているだけなんだ」
「うん、うん」
「他にもMAILのゴーレムも武装に組み込まれた魔道具やMAG端末を使っていて、自力で魔法を発生させているんじゃないんだ」
「うん」
もはやレオナは解説に対し。
首を縦に振るしかなかったが。
イオンにはすごい技術が使われているんだろうなあという。
認識は彼女の中で強まっていった。
きっとお店や図書館で自分を。
案内してくれるような。
言われたことを事務的に処理する。
情報端末で終わるんじゃないだろうな。
すごい技術なんだな。
それがレオナの思考の限界だった。
「ヘルシィさんよぉ、それくらいにしときな。俺もちょい熱が入りすぎた」
スロットルは苦笑して。
自分のPMAGウォッチの投影機能を切ると。
解説を締めくくる一言を発した。
「とにかく、イオンと一緒にいればそのうち分かるさ」
「はい。頑張ってあの子を理解します」
「うむ、勤勉な子で良かった」
ルーレッツの頷きがこの会話の終わりの一声。
談話室を後にし。
四人はそれぞれエントランスへと向かうのであった。
すごく疲れた。
顔には出せないがレオナは疲労感に苛まれていた。
途中、エントランスでエリーから入寮の説明を受けているイオンを。
彼女は目にしたが。
(人形っぽさはあるけど、普通の人と変わらないな)
姿勢正しくきちんとエリーの説明を聞き。
首を縦に振ったり、頷くイオンは。
遠目から見れば人間と同じだった。
そうして、レオナ達は寮の正門前へと着くと。
ドルフィンキックフロンティアのトラックとは別に。
一台の黒い魔導車が停車していた。
「健闘を祈るよ諸君」
「それじゃあ元気でね、ルーレッツさん」
「おう、任せてください」
魔導車に乗り込み。
窓越しにレオナ達へルーレッツは別れの言葉をかけるが。
ダグが残るのは当然として。
なぜかスロットルがここに残っていることが。
レオナには不思議だった。
「あの、スロットルさんは行かないんですか?」
きっと後片付けがあるんだろう、トラックもまだいるし。
そんな予想をレオナはしてみるものの。
スロットルの返答は完全に彼女の想定外だった。
「俺イオンのメンテナンスとかのために残るよ。それこそ今日からこの寮の教職員用の部屋に住むから」
「えええ!!」
「あのトラックん中にゃ俺の荷物も入ってんだ」
ルーレッツがいなくなり。
いつもの破天荒な調子で話し出すスロットルに。
レオナはアーツマグロイドの説明を受けている時以上に。
困惑してしまうのだった。
レオナとダグを寮の中へともどらせ。
黙々とトラックの中で入居のために。
荷物を運ぼうと。
積まれている木箱にスロットルが手をかけようとした時。
彼は自分のPMAGウォッチの着信に気づいた。
差出人はルーレッツから。
タイミングとしてはレオナ達の見送りから十分以上後だ。
『このメッセージを見たらすぐに返信したまえ』
スロットルは簡潔に『今は周囲に誰もいません』と返事を出すと。
すぐにルーレッツからの返信文が届いた。
『キミへの潜入任務の再確認だ』
『予め書店で仕組んでいたヘルシィ氏との接触後についての動きを再確認させてもらう』
『最優先は、メロディアスの聖騎士団が開発中の人工精霊のデータ。それをイオンに学習させたまえ』
『そのためならイオンを学園内の私闘に参加させて構わない』
『レイ・ムーンシェイドの息子が恐らく人工精霊を持っているに違いない』
『レイの息子とイオンが私闘をするように裏で動くのだ』
『あるいは学期末に行われるトライクロスクエストで対峙するよう仕組んではどうかな』
ルーレッツの連投にスロットルは。
豪快さを潜めて淡々と『了解』とだけ。
返信するのだった。
ここまでお読みくださってありがとうございます。
先に次回の更新から。
次回は1/21の17:00を予定しています。
それでは話題変わりまして。
前回の後書きの補足になりますが。
イオンの元ネタが登場する。
私の過去作の思い出について一言で表すと。
友人からの酷評でした。
全く面白くなかったと言わしめるほどで。
キャラクターとは、ストーリーとは、構成や文章の読みやすさとは。
様々なことを考えさせられるきっかけになりました。
なお、前書きで触れられている“ティオ“もまた。
その作品の登場人物です。
時が経ち現在。
『小説家になろう』で。
新しい形でイオンやティオと再開できるなんて。
当時の自分は思いもしていないだろうな。
だからこそ、昔を振り返ってみて。
あの頃の自分は、あの場所にいて、あの人と一緒にいて。
一日をどんな風に過ごしていたか。
過去作がかつての自分を思い起こさせてくれます。
さて、長くなりましたが。
改めていつも通り締めくくります。
ここまでお読みくださりありがとうございます。
また物語でお会いしましょう。




