ハーミット・リスタート【入学編】19ページ目 フルスロットル
事象の再現。
過去に起きた出来事を再現する際。
当事の状況、即ちーー。
時間帯、場所、人物、道具など。
揃えるべきものは多いだろうが。
人の心、その時の精神状態やその時の感覚が最も重要ではないだろうか。
私は無意識という人間の可能性を探る上で。
記録を残し、演算と出力が可能な。
MAG端末は物体に心を保存できる器だと考えている。
『眠りし可能性に探求する器』著者 スロットル・デスブランクサイズ
教科書を受け取りに来ただけなのに。
怖い雰囲気の男とぶつかり。
レオナは気が気でならなかった。
浮かれていた分。
反動も大きく。
ジェシカとの再会を喜ぶよりも。
この場の気まずさに。
レオナは固まっていた。
どうしよう。
その思いで立ちすくむ彼女の横で。
ダグは男にペコリと頭を下げた。
「すいません。友達が不注意でぶつかってしまい」
「ああ、いや。ダグは悪くないから。謝らなくていいから」
爬虫類革の服を着た男はジっと二人を見つめ。
手にしたレオナのカードキーに。
チラリと目をやると。
そのまま彼女に向けた。
「もう落とすんじゃないぞ」
「は、はい。ありがとうございます」
怯えながらも差し出されたカードキーを。
レオナは受け取り。
改めて彼女は男へとお礼を言って頭を下げた。
(良かった。なにも起きなくて)
緊張から解き放たれレオナがホっとしていると。
男の隣にいたジェシカが彼女に呼びかけた。
「大丈夫。レオナちゃん」
「はい、私はなんともありません。ご心配なく」
「もうそんなに畏まらなくても。ほら、グラ……」
ジェシカが名前を言い終えぬ内に。
男は彼女の口の前を左掌で遮った。
「行くぜ、俺らも依頼人を待たせるわけにはいかないだろ」
「……それもそうね」
「じゃ、気をつけな。用が済んだら友達と一緒に早めに帰りなよ」
「ふふ、レオナちゃん。また今度ね」
そう言いつつ。
男はレオナとダグの前から去り。
ジェシカも男を追って。
二人の前からいなくなった。
「知り合い?」
「うん、女の人はね。男の人はちょっと知らない」
「へえ、でも、まっ。怖そうだけど良い人でよかったね」
「だね、カードキーもちゃんと返してくれたし」
ちょっと浮かれすぎていたかも。
気持ちを落ち着かせ。
男から返してもらった寮のカードキーを鞄に入れ。
レオナとダグはブライトグラス書店へ向かった。
男とジェシカとの遭遇から程なくして。
二人は書店に辿り着いた。
二階建ての木造で。
屋根には黒いレンガ。
通行人が目を引くのは。
二階に掲げられた書店の看板。
赤や青に黄に緑。
色とりどりのステンドグラスで。
『ブライトグラス』の名が
美しく看板に煌めいている。
しかしながら、今日は更に通行人の目を引く存在があった。
『スロットル・デスブランクサイズのサイン会』
書店の前でサイン会が開かれていたのだ。
現在は誰も列をなしていないが。
店の入り口の傍には机が置かれ。
一人の青年がいた。
二十代前半だろうか。
紅茶色の濃い赤髪で。
ギラついた目つきの灰色の瞳を持った。
白シャツに黒いロングパンツの。
ラフなシャツスタイルの男だ。
「おいおいおいおい、そのランタンのついた杖は」
「あ、あああ」
青年はガタンと椅子を鳴らして。
立ち上がると。
サイン会の持ち場を忘れて。
ダグの下へと駆け寄ってきた。
(なに、なんなの。誰なのこの人)
急に自分達のもとに走り込んできた男に。
レオナは困惑せずにはいられなかった。
「まさか、こんな所で出会うなんて」
パアっと嬉しそうに笑う青年に。
ダグは困り気味に微笑んだ。
「スロットルくん、一応僕お忍びなーー」
「ヘルシィさあああああああああん。ちわっーーーーす」
「ちょっ、スロットルくん」
大声で自分の本名を叫ぶ青年は。
スロットル・デスブランクサイズ。
ネクストリー国に本社を構える。
MAG端末企業の一つ。
ドルフィンキックフロンティア社のエンジニアだ。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
さて、今更ながらですが。
最近出番の少ないレイシは。
実は自分の過去作の登場人物をベースにして出来上がったキャラです。
こちらもネットにアップするつもりはないので。
期待されていましたら申し訳ございません。
では、次回の更新は11/26の17:00になります。




