ハーミット・リスタート【入学編】15ページ目 アウロラでのティータイム・後編
来年度より新設されるMAG課のクラス委員長を。
引き受けたレオナ。
これによりハイプリステスの用件はなくなってしまった。
話題を探す彼女にレオナは。
かつてのヘルシィがどんな人物であったか尋ねてみた。
もはや入学のための面接という事実は。
ハイプリステス本人から否定されたも当然であり。
二ヶ月ほど前にマダム・エンプレが。
自分のために占いをしてくれた時以上に。
レオナの中の緊張はなくなっていた。
しかしながら、困惑はあり。
今後の自分が世話になるであろう。
学び舎の責任者ということもあり。
ヘルシィとの会話並みに。
レオナはハイプリステスに対し。
気さくにもなれなかった。
「一応、私から口をつけたほうがいいわね」
二人が向かい合うテーブル席には。
マロンバナナの紅茶と。
ブラウニーケーキが二人分。
レオナとハイプリステスの分まであり。
まずはこの店を訪れた、客でもある。
ハイプリステスから紅茶を喫した。
栗のコクとバナナのクリーミーさを併せ持った甘い香りが。
芳醇に紅茶から漂い。
一口喫した彼女もまた満足する逸品。
その甘さゆえに。
この店ではティーポッドでは出さず。
カップ一杯しか提供しないのは。
値段の高さからも物語っている。
「いい紅茶ね。淹れてくれた人に後で私の代わりにお礼を言ってくれるかしら」
「はい。きっとホースダムさんも喜んでくれます」
ハキハキとしてはいないものの。
ハイプリステスの入店直後とは比べ物にならないほど。
明るい調子でレオナは彼女に返事をした。
だいぶ、本来の調子が戻ってきたからこそ。
レオナはハイプリステスに。
気遣いが一つ欠けていた点を自覚した。
「すいません。コートや帽子をお預かりしていませんでしたね」
面接ではもはやなくなっているものの。
ハイプリステスの衣服を汚すわけにもいかない。
特に真っ白な衣装に身を包む彼女からすれば。
紅茶やブラウニーのシミや食べかすは悪目立ちしてしまう。
せめて、客人の為の食事用のエプロンでも用意してあげないと。
そう思いレオナは席を立ち上がると。
ハイプリステスはレオナをなだめた。
「服が汚れるのを心配してくれているのなら安心しなさい」
そう言うやハイプリステスの。
ティーカップから紅茶が一雫こぼれた。
それは彼女の毛皮のコートに触れた瞬間。
ジュっと、音を立てて蒸発した。
「はしたなかったわね。でも、ご心配ならいらないわ」
「は、はい」
どんな魔法があの服にがかかっているんだろう。
考察してもしょうがないが。
少なくとも安易にハイプリステスに触れるのはよそうとレオナは警戒した。
一方でハイプリステスは笑顔を崩さず。
まるで旅行に誘ってくる友人の感覚で。
彼女はレオナに推薦の件を呼びかけてきた。
「さて、早速だけどあなたさえ良ければこの春から私の学校に通ってみない」
「も、もちろんです」
こう反応するしかない。
それほどまでに丁寧な言葉選びすらできない。
優雅なティータイムではあるものの。
会話の主導権もペースも完全にハイプリステス側にあり。
レオナは肯定せざるを得ない状況だった。
「じゃあ、来年度から新設するMAG課のクラスのクラス委員長にもなってもらうけど、よろしいかしら」
「は、はい。喜んで」
「良かった。話がサクサク進んで。これで面接というか私にとっての用事は済んだし、後は何を話そうかしら」
「って、ええ。これで入学の件は終わったんですか」
「まあ、私としてはあなたがMAG課のクラス委員長を承諾してくれるのが推薦の条件みたいなものだからね」
「こんなに軽く済ませていいのかな」
あまりにも話がスムーズに完結し。
反論にも似た疑問がレオナは言葉にしてしまうが。
ハイプリステスはそれすら気にせず。
笑いながら掌を一振りした。
「やあね。この後の書類手続きも難しいものじゃないし、レオナちゃんも心配しなくていいのよ」
「なんだか、真面目に受験している人達に申し訳ない気がします」
ちょうど今くらいの時期に。
筆記や魔法の実技などで入試を受けている人々を想うと。
どうしてもレオナは申し訳なくなってきた。
そんな彼女の様子にハイプリステスは。
笑うのをやめ。
しみじみとした哀愁のある表情で。
過去を懐かしみ始めた。
「似たようなことを昔ヘルシィも言っていたわ」
「えっ」
「そうね、やっぱり彼について短いながらも話した方がいいわね」
「思い返せば、あの人について私何も知らないな。というか自分の事全然あの人話さないし」
「彼も秘密主義者じゃないんだけどねえ。……やっぱり彼の昔話をしておこうかしら」
「ぜひ、お願いします」
速攻で終了した体をなしていない面接よりも。
重要な本題が二人のティータイムで。
ハイプリステスからレオナへと。
語られようとしていた。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
次回が終編となりますが。
レオナの回想が終わると。
モナの現状やレオナ達が教科書を買いに行く日など。
入学前の掘り下げを行います。
そのため、やはり二十話を越えるかもしれません。
だからこそ、それでも今作を追い続けてくださる読者の方々に。
感謝のメッセージを今一度送りたいです。
ありがとうございます。
少々くどい気もしますが。
次回の更新は10/29の17:00になります。




