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第6話 ごめんなさい、名前は覚えられないの


「それで、一体どういう事か説明してくれるかい、セシリア?」

「ルクスと手っ取り早く仲良くなりたかったので打ち合いをしました。とても楽しかったので後悔も反省もしておりません。以上!」

「以上じゃないんだが!?」

「あはは……」


 本日二度目の説教である。というのも、唐突に始まったルクスとの打ち合いを見たお父様が慌てて呼びに来たのだが、既に決着のついた後だった。ルクスの事情を知っているだろうお父様は何をしているのだと私を叱りに来た訳だ。


 だがしかし、私は特に悪い事はしていない。むしろルクスとの壁を少しは取り払えたのだから、良くやったと言われても良いものである。今日ルクスが稽古をしている事は知っていたはずだから、私にやめろとひと言言えば良かったのだ。そうすれば私だってやらなかった。


 乾いた笑いでこちらを見ているルクスは、やはりさっきよりも遥かに良い表情だ。私としても非常に満足のいく結果である。


「ルクスは剣の才があります。伸ばせばきっとこの国一の剣の使い手になるでしょう。とても楽しめる打ち合いでした。ルクスの顔を見てください、さっきまでとは違って自然な表情になっているでしょう?」

「私に説教をされているお前を見て呆れているように見えるが?」

「そのくらい自然な方が良いではありませんか。」

「何を言っても無駄か……。ルクス、後で良いから、私の執務室に来なさい。」

「は、はい。」


 頭を抱えてしまったお父様は、げっそりとした顔付きで執務室へ戻って行った。このまま説教をしていても無駄だと分かったのだろう。私が反省していない時点で察していた。今日は満足したから、部屋に戻ってゆっくりしよう。


「なぁ、セシリア。聞きたい事があるんだけど……」


 と、思った瞬間にそう言われる。


「なんでしょうか?」

「前、僕の事をお兄様って呼んでたけど、さっきから名前で呼んでるから、なんでかなって……」


 思わず目を逸らしたくなる。ま、突っ込まれて当然だろう。お兄様と呼ばれたと思いきや、名前呼びに戻っていたのだから。ルクスからすれば、縮まったかと思っていた距離が遠のいたように感じてもおかしくない。


「兄妹では、結婚できないでしょう?」

「けっ……!?」

「前に言ったはずです、私は真剣ですのよ。家のため、領地や領民のため。そして何より私のために、ルクスとの

結婚はとても望ましいです。」


 顔を真っ赤にしたルクスに私はそう言う。何も恥ずかしがる事はないだろうに。元々そのつもりでお父様が連れて来ていたはずだが、もしかしたらルクスは知らないのかもしれない。なら、私から言ったらまたお父様のお説教が始まってしまう。


「セシリアは……僕の事、好きなの……?」


 恥ずかしそうに、自信なさげに言ったルクスは、俯いていて私の目を見ていない。前を向けと言ったはずなのに。


「えぇ、もちろん。でなければこんな事言いませんわ。それより、しっかり背筋を伸ばして、まっすぐ前を向いて堂々としてくださいませ。私と結婚……その前に婚約ですね。それは、ルクスの意思に任せます。どちらにせよ、あなたはシェラード家を継ぐ事になるのです。縮こまっていてどうするのですか。」


 ここで縮こまっていては困る。シェラード家はこの国の四大公爵家のひとつ。その家を継ぐのなら、しっかり自信を持って堂々と相応しい態度をしてもらわなければ。


「そうか……セシリア、後で一緒にお茶でもどうかな? お父様から呼ばれているから、その後になるけど。」

「! もちろんです、断る理由はありませんわ! お待ちしております。」


 ルクスからのお茶のお誘い。前回と同じ流れだ。やはり私の選択は間違いではなかった。ルクスとの距離が近付いたのは、この勝負のおかげだったというわけだ。

 きっかけは作れた。ここからは前回の記憶に頼れない。私自身で、ルクスと良好な関係を築いていかないといけない。


(好き、か。確かにそうだけれど、どこか気恥ずかしさもあったような……)


 もしかしたら、この感情は本当に恋愛対象として向ける感情なのかもしれない。執務室へと急いで走り去っていくルクスの背中を見ながら、どうにか平常心でいなくてはと自身に言い聞かせる。

 自覚するとどうにも恥ずかしさが先に出る。顔に熱が集まっているのが分かる。ルクスとお茶をするまでになんとかしなくては……!


「とりあえず着替えないと……」

「そうですねー。ところで、俺はいつまでここにいなくちゃいけないんです?」


 すっかり忘れていた副団長。申し訳ないがここにいてくれと頼んだ覚えはない。

 

「あら副団長、お好きにすればよろしいのでは? 私はひと言もここにとどまれとは言っておりませんわ。人の恋愛事情を眺めている時間がお有りでして?」

「あーそうですねー。じゃあ俺はこれで失礼しますよ。それよりお嬢様、俺の名前はアットです。良い加減覚えてください。」

「名前を覚えるのは苦手なのよ。」


 こうなったら意地でも覚えてやらないわ。


書き溜めなくなったので明日の更新はないかもです。

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