第53話 七飾り祭り
ルクスとお茶をした後、すぐにお父様に手紙を書いて送った。お父様も今回の手紙の内容は少し予想と外れていたようで返事はすぐに返ってきた。
かなり事態を重く見ているらしい。それもそう、この国の後継者候補は二人だけ。その二人とも信用ならないというのなら、一体今後どうするのが正解なのか、この国の行末はどうなるのか。まさにお先真っ暗という状況だ。
ぐちぐちと不安や不満を口にしようとすればいくらでも出てくるが、そんなことをしている時間はない。ただ私もそろそろ学園の入学準備をしなければならない。学園には王子二人も通う事になる。
お父様は一度学園の入学準備に集中して、学園生活に支障が出ない程度に王子二人の事を報告するようにと手紙に書かれていた。お父様にも何か考えがあるのだろう。
そういうわけで、私達は一度王子二人の事は置いておく事にした。そして今、私達はお忍びで街を歩いていた。何故か、ルクスとお茶をしてから一週間程、今日から王都では七飾り祭りが始まっているのだ。
私達は二人でお祭りに来ているのだ。いつもとは違う街の雰囲気は、浮き立っていて、どこか華やかなものだった。街のどこかにある七つの球を探し、見つけたらそれぞれ決められた飾りをひとつ結ぶ。七つ目に一番シンプルな飾りを結ぶのが一般的なのだそう。
縦長の紙は五色あり、それぞれの紙の色に意味があるらしく、願いを書くのであれば願いに合った紙の色を選ぶ。願いではなく名前を書いたり、何も書かないとしても、自身の願いに合った紙を結ぶと良いのだとか。
まぁ、私はあまり願い事とかを信じるような人間ではない。つまらないと言われればそれまでだが、叶えたい事は自分の力で叶える、自分だけで無理なら多少他人の力を借りるかもしれないが、自らの手で掴み取りたい。
というわけで、私は七飾り祭りというより、お祭りのお店巡りの方に期待していた。ただ、ルクスとなら飾りを探すのも良いかもしれない。願い事に期待する事はないけれど、過程も楽しむものだとお父様からの手紙に書いてあった。きっと私が純粋に願い事なんてしないし、飾りを探す事を楽しむなんてしないと分かっていたのだろう。
「セシリア、何か買おうか?」
「そうね、ちょっと見てまわりましょう」
ルクスと手を繋いで歩き出す。人が多いから逸れないようにとルクスは言っていた。確かに人が多くて少しでもルクスが視界から外れれば逸れてしまいそうだ。
お祭りという事もあり、今日ばかりは貴族もお忍びで平民に混じっている。今日、このお祭りだけは、貴族も平民も関係ない。ちらほらと見覚えのある顔も見えるが、皆挨拶もなく他人のように通り過ぎる。貴族社会では許されない事だが、今日は許されるのだ。
お祭りに出でいる店は決して多くはないが、ポツポツと歩きながらでも食べられるような軽食や花なんかが売っている。お忍び中の貴族がいる事も分かっているのか、平民では買えないようなアセサリーなんかも売っていたりする。買った瞬間格好の餌とばかりにあれこれ売り込まれそうだ。
私は切ってある果物、ルクスは歩きながらでも食べられるような小さなパンを買った。普段であれば歩きながら何かを食べるなんて行儀が悪い事だが、お祭りではむしろ歩きながら食べるのが一般的だ。
ちなみに、七つの飾りは自分で用意したり、特定の場所で配られている物を貰うかする。私とルクスはわざわざ取りに行くのも面倒だと用意してきた。どうやら極東の文化から影響を受けているらしい。紙を折ったり切ったりして形を作るのだ。
これがまた難しい。ルクスは昔やった事があるそうで、私よりずっと簡単そうに作り終えていた。私はといえば指示通りに折ったり切ったりするというのがよく分からず結局自分で作った飾りはボロボロ。ルクスに手伝って貰って全て作り直す事になった。解せぬ。
「セシリア、あれ。あそこに浮かんでるのがそうじゃない?」
「そう……なのかしら。とりあえず行ってみましょう。私は初めてだから、行ってみない事には分からないわ」
「それもそうだね。人集りができてるし、逸れないようにね」
ルクスの指し示した先には魔術で浮かべられているであろう白い球。どうやら極東では呼び名があるようだが、残念ながらこちらまで伝わる間に呼び名は分からなくなってしまったらしい。どれだけ調べてもこの国の書物には分からないとしか書かれていないのだ。
そもそも極東の文化とはいえ、元は何なのかもよく分かっていないのだ。お祭りなのか、神聖視されているのか、伝統なのか。極東の国はとにかく閉鎖的だ。昔はそうでもなかったらしいが、今はもうどこの国とも交流しない。全てを国内で完結させているのだ。小さな国とはいえ、貿易も交流も行わないという変わった国。謎が多く、今では国名も分からなくなってしまっている。
そんな国からどうやって伝わったのか、何故この国でお祭りなんてものをやるようになったのか。謎の多い祭りと伝承。少し疑問を抱きながらも昔の出来事であればそれもあるかと流してルクスと共に球の方向へ向かって行った。




