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第4話 仲良し作戦

 お兄様に結婚を迫り、お父様に呼び出しをされた数日後。医者からの許可もあり、私セシリア完全復活いたしました! とはいえ、山積みになっている問題は何ひとつ解決していないのだけれど。

 

 あの後何度も頭を捻らせ、あれこれ考えてはみたものの、私にとっては十年以上も前という事もあり、やはり何も思い出す事はできなかった。それどころか、もうひとつ重大なミスを犯した事に気が付いてしまった。


(気付かなければ良かった……気付かなければ…………!)


 この時期、私がお兄様の事をまだ名前で呼んでいたなんて!!


 日記をよく読むと、お兄様という単語はひとつも出てきていなかった。書かれていたのはルクスという名前。思い返して見れば、私は最初お兄様の事を名前で呼んでいたのだ。お父様から養子として迎え入れるとしか聞いていなかった。それに加えて、この時の私はまだお兄様と親しくなる前で、お兄様の年を知らなかった。つまり兄か弟か分からない状態でもあったのだ。


(お父様、婿養子に迎え入れる予定だったからといって、年くらいは教えてくれても良かったと思います。私が直接聞けば良かったのだけれど!)


 これからの事も考えれば、このままルクスと名前で呼ぶ方が私にとって都合が良い。一度はっきりお兄様と言ってしまったが、なんとか誤魔化そう。押し切ってでも名前呼びを継続する必要がある。


(これもお兄様との幸せな未来のため!)


 自室療養の数日間、時折外からお兄様が剣の稽古をしている音が聞こえていた。散歩がてら外に出て、私も剣の稽古をしてもらおう。過去に戻った今の私がどの程度動けるかも知りたいし。日記には、時々剣の稽古を受けていたような事も書かれていたし、剣の稽古をする事自体に問題はない。

 

 後数ヶ月なんて待っていられない。一刻も早くお兄様との距離を縮めて、私の婚約者になってもらわねば!お兄様の中で、一体何がきっかけとなったのかは分からないけど、覚えていないならきっと素の私の言動によるものかもしれない。


(普段通り、私は私でいれば良い)


 着替えを済ませて日笠も持ち、のんびり散歩する体で外へ出る。庭園は広くて、稽古場まで少し距離がある。私の部屋はどちらかというと稽古場に近く、お父様とお母様の部屋からは綺麗な庭園が見える。お父様は毎年、お母様が好きそうな花を選んでは植えるように庭師に頼んでいるらしい。

 

 近くで見ても綺麗に手入れされていることが分かる。流石シェラード家の庭師だ。そういえば、勉強が嫌でこっそり庭園に隠れていた事もあった。庭師はすぐに私を見つけてしまうから、逆に庭師を味方につけるようにしていた。


(手作りのお菓子とかを手渡してたなぁ)


 少しすれば、木剣を打ち合う鈍い音が聞こえてきた。稽古場が見えてきた。今日はお兄様とその相手の騎士だけのようだ。稀に、本当に稀に騎士団全員と稽古が被る日があって、その時は決まってたくさんの騎士達と一対一で打ち合いをさせてもらっていた。

 

 私とお兄様の稽古をつけてくれるのは、いつも決まってシェラード騎士団副団長だ。若く細身で力は弱いけれど、早さがある。正直、早さだけでいえばこの国でもトップクラスだろう。名前は忘れてしまったけれど。


(お兄様は早さも力もあったもの……そのうちすぐに打ち負かされてしまうわ)


 私は稽古場にいる二人の元へ駆け寄って行く。バカ王子との婚約が決まってから、段々と剣の稽古ができなくなっていったから、お兄様が剣を振っている様子はあまり見られていなかった。つまり、貴重なお兄様の稽古を目に焼き付けるチャンス!


「おっ……ルクス、副団長、ご機嫌よう」

「セシリア!?」

「お嬢様」


 危なかった。気が抜けてお兄様と呼びそうになったけれど、私は今ルクスと名前で呼ばなければいけない。今後のことも考えれば、お兄様ではなくルクスと呼ぶのに慣れないと!


「お疲れ様です。副団長、ルクスの剣はどうでしょう?」

「アットですよ、お嬢様。相変わらず名前を覚えてくださいませんね」

「ごめんなさい、名前を覚えるのは苦手なの」

「構いませんよ、お嬢様のそれにはもう慣れました。ルクス様の剣術でしたね。かなり筋は良いと思いますよ。まだ始めたばかりですが、鍛えれば私より強くなるかもしれません。もしかしたら、もうお嬢様に勝てるかもしれませんよ」


 気位の高い令嬢であれば怒られそうな口振りだが、私は、というか、シェラード家の者はあまり気にしない。使用人も皆、割と気軽に話せるような仲だ。軽口を叩いてふざけたり、夜にこっそりお父様が執事とお酒を飲んでいる事も知っている。お父様はバレていないと思っているらしいが、いつかお母様に怒られそうである。

 

 それに、お兄様の事を純粋に褒めているのは私にとっても嬉しい事だ。始めたばかりで副団長に褒められるとは、流石私のお兄様! 私はまだ鍛えてもないし力も弱いから、お兄様に負けてもおかしくはない。

 

 けれど私は剣術の家系シェラード家の長女。元々剣の才能があった。お兄様も才能があっだけれど、打ち合ったのはだったの一度だけ。


「では、ルクス。病み上がりで万全とはいきませんが、一度手合わせ願います」


(数ヶ月も待っていられない。さっさとお兄様……いや、ルクスとの距離を縮めましょう!)

 

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