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第47話 買い物


 シーグラスはグレオ殿下以外、全員ひとつずつ拾って持って帰ることにした。グレオ殿下はクライ嬢と浜辺を歩いてはいたが、シーグラスは拾わなかったらしい。まぁ、一国の王子が下手に拾ったものを持ち帰ることもできないものね。


 別荘に戻ると既に昼過ぎ。王都を出発したのが朝だったのもあり、そろそろお腹が空いてきた。ただ、この別荘には一人も使用人や護衛の騎士を連れてきていない。あくまで休暇中の遊びなのだ。

 しかしそうなると、食事は自分達で用意することになる。私とルクスは偶にだが料理をすることもある。私は二年前からお菓子作りの練習をしている。ルクスにあげたレモンケーキがあまりにも歪だったから少しでも上手くなれるようにと屋敷の料理人に教えてもらっている。もちろん、料理とお菓子作りは違うが。


 残念ながらこのメンバーでは軽々しく店に行くことも難しい。私とルクスもそうだが、なんと言っても第二王子がいるのだから。けれどそうなると、全員料理ができないと困る。

 料理は料理人や使用人の仕事。貴族がやることではない。するとしたらせいぜい野営で焼くだけ、塩味のみの料理くらいかもしれない。


「そろそろお腹が空いてきましたわね……」

「確かにそうですわね。それじゃあ、買い物をする人と準備をしておく人で別れましょう。皆さん、料理はできますか?」

「わたくしはやったことがありませんわね」

「私もありません」


 グレオ殿下は想定通りだが、クライ嬢も料理はしたことがないらしい。反応から見て、ティアもあまり得意ではなさそうだ。

 貴族にとって食事は料理人が作った物が当たり前。自分自身で作ろうとした時、何も知らなければ普段食卓で出される凝った料理を想像する。初心者がそんな料理作れるわけがないのに、簡単な料理を知らないから作れないのだ。


「簡単なもので良ければ、僕とセシリアは作れますよ」

「本当ですか! それなら、わたくし達は食材を買いに行きましょうか。お二人にはここで料理の準備をして頂きません?」

「少し待ってくださいませ!」


 そこで私はストップをかけた。不思議そうな顔をする三人と、私の考えを察してくれたルクス。ここにいるのは貴族だけ。私達にも言えることではあるが、温室育ちのお坊ちゃんとお嬢様だ。対して食材を買いに行くとなれば市井育ちの人から買うことになる。

 無知のまま放り出せばぼったくられる様子が目に見えている。それに、食材もないのに何を準備すると言うのだ。包丁? まな板? 鍋? そんなものは食材が揃って何を作るか決めてから用意するものだ。


 何も決まっていない、何もない今の状態では私達が料理をするとしてもやる事がない。この様子だと、食材もあれこれ沢山買ってきそうだ。それも統一感も考えもなく。あれを作るにはこれだけ足りない、この食材は何に使えるか分からない、なんてことが起こりかねない。

 なんでそんな事が分かるかといえば、シエルのおかげだ。元は貴族だが、スラムで過ごした時間の方が圧倒的に長い。そんなシエルの話を聞けば、世の中善人ばかりではない事が良くわかる。過剰に代金を取ろうとする人、粗悪品や偽物を渡す人なんてそこら中にいる。


「何を作るかも決めていませんし、全員で行きましょう!」

「失礼かもしれませんが、食材もあまり買ったことがないのではないでしょうか? 僕達も一緒に行った方が良いと思いますよ」

「そうでしょうか……それでは、全員で行きましょうか」


 私とルクスはお互いの顔を見合わせて安心する。それから、女子組と男子組に別れてそれぞれ買い物に行った。案の定というか、野菜を買おうとしたところで倍以上の値段を言われた。


「この玉ねぎと、トマト……あとこのキノコと……これとこれもください」

「はいよ、全部で銀貨十二枚だが……十枚にしといてやるよ!」

「あら、よろしいんですの?」

「いいえ、ティア。ものはしっかりと正当な価格で買うべきです。おじさん、十枚は流石にぼったくり過ぎです。銀貨二枚が妥当だわ!」


 私は騙されそうになっているティアを止め、売り場のおじさまに値下げを交渉する。何が十枚だ。せいぜい銀貨五枚が妥当なところだ。

 

「なっ……! いや、じゃあ九枚で」

「二枚と言ってます!」

「なら六枚だ!」

「三枚!」

「五!!」

「四!」

「……分かった。銀貨四枚だ」

「交渉成立ですわね!」


 困惑するティアとクライ嬢を置いて、私は代金の銀貨四枚を渡す。一枚分安く済んだ。貴族だからって、簡単に騙されてはあげないわ!


「お嬢ちゃん、てっきり貴族のボンボンかと思ってたが……しっかり価値が分かってんじゃないか」

「当然よ。貴族だからって、甘く見ない方が良いわ!」


 おじさまに品物をもらい、私達はルクス達との合流地点まで歩く。別荘から街まですぐだったから歩いて来たが、向こうは上手くやれているだろうか。ルクス達にはチーズと牛乳を頼んであるが、女性が売っていたように見えたから多分大丈夫だろう。


「あの、セシリア様。さっきのは一体……」

「値引きですわ。市井では良くあることですが……今回は代金があまりにも高く上乗せされておりましたから、しっかり正当な価格で売っていただきました。お二人も、貴族というだけで世間知らずだからと代金を上乗せする方はいますから、気を付けてくださいませ。貴族か平民かなんて、身なりですぐに分かりますから」

「そんなことが……! 気を付けますわ」

「セシリアに着いてきてもらって正解でしたね。わたくし達だけではきっと気付きませんでしたわ」


 合流地点の噴水の前の椅子に座りながら話す。二人は何も気付いていないようだったし、やはり着いてきて良かった。貴族だからって、物の価値くらいは知っておくべきだ。


「お待たせしました」

「すみません、遅れてしまいましたか?」

「……いいえ、無事に買えたようで何よりです」

 

 そろそろルクス達も来る頃かと待っていると、顔が隠れる程の紙袋を持った二人が現れた。もしやと思ったが、ルクスとグレオ殿下だった。それもそう、二人の顔の良さは貴族の間でもかなりのものだ。市井のおばさま方が魅了されるのも当然だ。

 市井での買い物はこういうこともある。顔の良さに惚れた女性が値引きどころか品物を増やして渡してくることがある。まぁ、それを想定した上で二人を行かせたのだが……


「多過ぎるわね」

「牛乳を多く貰い過ぎてね。チーズはそこまでじゃないんだけど……」

「こんなことあるのか。市井での買い物は初めてだが……まさか頼んだ量より増やされるとは思わなかった。それに、値段も安くしてもらったんだが……良かったのか?」

「こういうこともありますわ、グレオ殿下。当たり前とは思わない方が良いでしょうか、こういうこともあると頭の片隅に置いておくくらいで良いと思います」


 疑問を口にするグレオ殿下に、私はそう言った。貴族ではあまりないが、市井は個人や夫婦、家族で店を持っていることがある。そういう店は、今回のようなことが度々起こる。当たり前ではないが、市井では良くあることでもあるのだ。


「全く……分かっていて僕達二人で買いに行かせただろ」

「流石ルクスね! でもルクスだって私が交渉できると分かっていて送り出したでしょう?」

「当たり前だろう」

「なら、お互い様よ。おかげで安く済んだわ。夜はシチューかグラタンね」


 大量の牛乳の消費を考えながら、私達は全員別荘へと戻った。ちなみに、昼はチーズリゾット、夜はグラタンを作って食べた。美味しかったが、いまだに牛乳が残っている。誰か飲みます?


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