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第45話 第二王子殿下


 私とルクスは一週間分の荷物をトランクに詰め込み馬車に乗る。学院が長期休暇に入ってすぐ、私とルクスはハワード領に行くことになった。シエルは一度シェラード領に帰って母親に会いに行くそうだ。

 何度かお父様からの手紙に書かれていたが、問題なく回復しているそうだ。完治も近いかもしれない。完治したら、一緒にシェラード家で働かないかと話をしているそうだ。これはエクスがいつ動くのかにもよるが、もう少し先だった気がするので、多分完治から少しはシェラード家の使用人として働くことになりそうだ。


 馬車に揺られながらハワード家に向かう。流石にシェラード家の馬車でハワード領内に入るわけにはいかない。今回はハワード家で一度全員合流して、ティアが用意してくれた馬車にそれぞれ乗って行くそうだ。

 王都にあるハワード家はシェラード家の屋敷から少し離れた場所にある。どこか重苦しい空気と、いつもより長く感じる時間。ルクスを見てみると、特にそんな様子はなく普段通りだった。


(私だけ……何か、嫌な予感がする…………)


 ルクスに話しておいた方が良いだろうか。けれど、ただ嫌な予感がするだけなら、無駄に警戒させて疲れさせてしまうのも申し訳ない。どうしてだろう。第一王子にはもう見切りを付けているのだから、第二王子と関わるのが正解のはず。なのに、どうしてか心がざわつく。まだ、一度も面と向かって会っていないのに。

 どちらにせよ、まずは会ってみないことには判断できない。食わず嫌いはいけないのと同じ、会ってもいないのに勝手に判断してはいけない。気のせいならそれで良い。前回も、第二王子は特に害がなかった。前回とは色々と変わっているとはいえ、第二王子の性格まで変わる程影響はしていないはずだ。


「セシリア、大丈夫? 顔色が悪いよ」

「えっ……悪い、かしら? ごめんなさい、なんだか嫌な予感がして……」

「セシリア、無理してない? 今からでも体調が悪いからって言えば間に合うよ」

「……いいえ、行くわ。嫌な予感はするけど、気のせいかもしれないし。何より、この先のことも考えたら、第二王子殿下とは一度会っておかないと」


 心配そうに私の顔を覗き込むルクス。体調は悪くないが、そんなに心配される程顔色が悪いのだろうか。これから一週間、不安は残るが、一人じゃない。多少無理をしてでも行かないと。


「ルクス、私はどうしても無理をしてしまうわ。だから、これ以上はダメだと思ったら、止めてくれる?」

「当たり前だ。けど、そんなことになる前に、僕に相談してね」

「そうね……」


 はっきりと肯定はしないまま、馬車はハワード家に到着した。既にティアとクライ嬢は到着していた。そして、クライ嬢の隣にいたのは、第二王子だった。私達に気付いた第二王子と目が合った。その瞬間、ほんの一瞬、全身の毛が逆立つような異様な感覚に襲われた気がした。

 けれどほんの一瞬のことで、本当にそう感じたのかも分からないくらいだった。頭の片隅に置いておくことにして、今は一度気にせずにいよう。ルクスに手を差し伸べられ、私は馬車から降りる。


「お待たせ致しました」

「いいえ、まだ早いくらいですわ。来てくださってありがとう、セシリア」

「お久しぶりです、セシリア様」

「ティア、クライ嬢。今日から少しの間よろしくお願いします」


 軽い挨拶を済ませて、私とルクスは第二王子に向き合う。自己紹介はしておかないとね。


「お初にお目に掛かります。セシリア・シェラードと申します。こちらはわたくしの婚約者ですわ」

「初めまして、ルクスと申します」

「初めまして、シェラード公爵令嬢、ルクス卿。グレウォ・ハールグレイと申します。以後、お見知り置きを」


 人当たりの良さそうな笑みを浮かべて、慣れたように自己紹介を済ませた。この貴族同士の挨拶って毎度毎度面倒で仕方がないがやらねばならないものはやるしかない。挨拶が終わったかと思えば、横から強い視線を感じた。目線を移せば、どこかキラキラとした目でこちらを見るティアとクライ嬢。


「セシリア様、そちらの方が……!」

「えぇ、そういえばまだ会ったことはなかったですね。紹介いたします。こちらがわたくしの婚約者のルクスです」

「初めまして、ハワード公爵令嬢、ポートレット公爵令嬢。セシリアの婚約者のルクスと申します。諸事情で今は家名を名乗れませんので、どうぞルクスとお呼びください」

「でしたら、私達も堅苦しい呼び方はやめましょう。これから一週間、我が領地で楽しく過ごして頂くんですもの。よろしいでしょうか?」


 ティアの提案に反対する声はなく、私達は乗ってきた馬車をシェラード家の屋敷へと戻らせた。ここからはティアが用意してくれたハワード家の馬車に乗ることになる。馬車は基本四人乗り。どう別れるのかと思ったが、ティアが用意してくれていた馬車はなんと六人乗りだった。流石に荷物は別で乗せているが、ひとつの馬車に全員乗り込むことができた。

 ハワード領までは少し距離があるからと、馬車では他愛のない話ばかりしていた。

 

 しばらく馬車に揺られ、そろそろ半分かといったところで、私の中でかなりの一大事が起こった。酔ったのだ。あまり長い時間馬車で移動することがないからか、私は馬車酔いになってしまった。あまり皆に迷惑をかけないように、黙っていようと思ったところで、ルクスが私の様子に気付いた。


「セシリア、大丈夫?」

「……ちょっと、酔ってしまって……」

「あら……大丈夫ですか、セシリア?」

「少し、寝ていた方が良いんじゃない?」


 ティアが心配して声をかけてくれたが、酔いは悪化していくばかり。前にシェラード領から王都に行く時も酔ったのよねぇ。困っていると、ルクスが私の肩を引き寄せ、自分に寄りかからせる。寝て良いよと言われた気がして、酔っていた私はティアやクライ嬢、第二王子までいるのをすっかり忘れて眠ってしまった。ルクスに寄りかかりながら。

 

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