第44話 ルクスとお茶
「お帰りなさい、ルクス」
「ただいま、セシリア」
「珍しいですね、セシリア様が屋敷から出迎えなんて」
確かに最近出迎えはしていなかった。ルクスが帰ってきてからお帰りと言いに行くくらいだ。少しは出迎えもしようかな。
「帰ったばかりで悪いのだけれど、ルクスと二人で話がしたいの。大丈夫かしら?」
「構わないよ。着替えてくるから、少し待っていて」
「それじゃあ僕はこれで……」
一度部屋に戻ったルクスとシエル。私は使用人に頼んでお茶とお菓子を用意してもらう。今日は私の部屋ではなく、庭が見える部屋にしようと思った。壁がガラス張りになっていて外がよく見える、この屋敷にひとつだけの部屋。
ルクスは青い薔薇について聞いた事があるだろうか。お父様の手紙、ティアの領地、第二王子との関わり方、私の剣、ついでに青い薔薇──シェラード家の象徴についても話したい。
コンコンと私の部屋をノックする音。入ってきたルクスに私は一階の部屋に連れて行く。あまり入らない部屋だが、部屋から見る景色はかなり綺麗だ。最初は何故使われていないのかと不思議に思ったが、すぐに理由は分かった、日が差さないのだ。
一日の中で日が差し込む時間が極端に少ない。庭の木、上の部屋のベランダ、日が差し込む方向、何故かそれらが計算されたかのように組み合わさり、部屋に日が差し込まない。代わりにシャンデリアが付けられているが、わざわざ普段使いする部屋でもない。だが、こういう偶のお茶会には合っている。
「私はあまり紅茶にこだわりがないけど、ルクスは何か好きな紅茶はある?」
「僕もあんまり分からないからなぁ。セシリアといつも飲んでいる紅茶が一番だよ」
「じゃあ、今日もアールグレイね」
私は使用人に用意してもらった紅茶を淹れる。毎回色々な茶葉を置いておいてくれるけど、いつも同じ茶葉しか使わないのよね。今日はルクスの好きなレモンケーキを用意してあった。私が昔作ったケーキより断然綺麗で美味しいと思う。
「ルクス、本題に入る前にひとつ聞いておきたい事があるの。家の象徴について、何かお父様から聞いている?」
「……特に聞いてないかな。それぞれの家の象徴くらいは覚えてるけど、そのくらいかも……」
「なら、今度一緒にお父様に聞きましょう。何か意味があるみたいだから」
ふと思った事があった。シェラード家の象徴である青い薔薇には、奇跡や夢を叶えるという意味の他に、神の祝福という意味もある。もしかしたら、私の逆行に何か関係があるかもしれない。ルクスは割と信仰心が強い方だが、私はさっぱりだ。あの日、ティアとお茶会で話すまで何も気付かなかった。
過去に戻ってやり直すなんて、魔術でできるはずがない。禁術でも、例え失われた魔法でも。それこそ神の力でもない限り不可能だ。過去に戻ってきたことを話すことはできない。今までは何故、なんて考える余裕もなかった。けれど気になるものは気になる。全部夢でした、なんてことにならないなんて保証はどこにもない。
「それじゃあ、本題の方。前にティアからの手紙については話したでしょう? お父様から許可が出たから、ルクスの予定に合わせて返事を出しておくわ」
「お父様、許可したんだ。少し意外だったな……僕は来月から長期休暇だし、特にやることもない。来月になればいつでも行けると思うよ」
「なら、来月にお願いしたいと言っておくわ。それで、問題は第二王子殿下のことよ。お父様は好きにして良いと言っていたけど、第二王子殿下がどういう人か見て欲しいとも言われたわ」
そう、私もお父様に止められると思っていた。やんわりと気に触らないような断り方を考えていたくらいだ。けれど予想外にお父様は良いと言った。なら考えるべきは第二王子と会った時の関わり方。確実とは言えないが、第二王子も一緒に来る可能性の方が高い。
見極めて来いと言われてもはい分かりましたで簡単に分かるものでもない。私が分かるのはその人の才能。それも少なくとも一度、才能がある何かをしているところを見ないと無理だ。
「少なくとも、ある程度友好的な関係でいないといけないのかな」
「お父様ってば、無茶言わないでもらいたいわ……」
「セシリアのことを信頼してるんだと思うよ。僕もそうだ」
「あら、私だってルクスのことは信用も信頼もしているわ」
軽口のようにスラスラと言葉が出てくるが、お互い気持ちがこもっていることは伝わる。こういう雰囲気が私は好きだ。お茶会とは言っているが、要はただお互いに面と向かって話せる時間を取っているだけ。
「僕はセシリアの直感に任せるよ。セシリアが思ったことを教えてくれれば良い。関わらない方法も、関わる方法もいくらでもある」
「それもそうね。でも、ルクスの印象も聞きたいわ。ルクスだけの感じ方もあるでしょう?」
「なら、ハワード領の一週間は毎日二人だけで話す時間を作ろうか」
お茶会とは違うが、話し合いは大事だ。お互いの意見の擦り合わせをしておいた方がいい。幸い、私達は二人でいても怪しまれることはないだろう。後は手紙を出して、来月に向けて準備をするだけ……
「そうだ。ルクス、ひとつ相談があるの。私、やっぱり剣が振れないから、軽めの剣はないかと思って……学院で何か聞いたりしてない?」
「剣か……学院にある剣も大体同じ量産型のやつだからなぁ……あっ、魔術付与用の剣はどうかな?」
「魔術付与用って……切れるの?」
「一応ね。でも、あるってことは特注になるかもしれないけど、頼めば切れ味が高い軽い剣を打ってくれる人もいるんじゃないかな? 明日、学院で調べてみるよ」
魔術付与用は基本魔術が使えない人が魔術を放つために使う剣だ。剣の形をしているが、基本魔術を放つだけのもので、攻撃や偶に魔術を相殺するのに使われたりする。よく考えてみれば、あれも剣なんだ。付与用ではなく、私のように量産型の剣が持てない人用の剣として応用もできるわけだ。
「ありがとうルクス、お願いするわ」
何故か普通の剣は振れないけれど、これなら何とかなるかもしれない。私は紅茶の最後のひと口を飲み干した。目の前にレモンケーキを美味しそうに食べるルクスがいるだけで眼福である。
[日間]異世界転生/転移(恋愛)-連載中233位
[週間]異世界転生/転移(恋愛)-連載中184位
[月間]異世界転生/転移(恋愛)-連載中270位
ありがとうございます!
細々と低いランキングではありますが、ほぼ毎日ランクインしており大変嬉しく思います!今は忙しいのと書き溜めがゼロになっているためできませんが、今後内容見直しなどできればと思っております。




