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第40話 家の象徴


「遅れてしまってごめんなさい」

「いいえ、来てくださってありがとうございます。ティア様」


 まさかここで会えるとは思っていなかった。ここで少しでも話ができれば良いのだけれど……私のこと分かるかしら? 私はブローチで分かったけど、私自身何か青い薔薇にまつわるものを身に付けているわけでもない。まぁ、話ができて顔を覚えてもらえれば御の字かな。

 ハワード公爵令嬢が席につくと、お茶会が始まった。さっきまでのは雑談にすぎなかった。通りで優しい話ばかりだったわけだ。私は紅茶を手に取り一口飲む。その瞬間、ピリッとした痛い視線が刺さった。視線の先はハワード公爵令嬢。


 何かしたかと思ったが、思い当たる節はない。強いて言えば紅茶を飲んだだけ。……そういえば、古い格式だと紅茶に手を付けるのは位の一番高い人が口を付けてからというものがあった。ハワード家は伝統を重んじる家でもある。きっとそれが引っかかったのだろう。

 となれば、私の顔は覚えていないと。ハワード公爵令嬢からすれば、この場で一番高い地位を持つのは自分だと思っているはず。けれど私と彼女の位はほぼ同じ……どちらかと言えば私の方が上だ。何も間違ってはいないのだが、ハワード公爵令嬢側からすれば、初対面の令嬢が礼を欠いた行為をしたと思われている可能性がある。


「初めて見る顔だと思いますが、お名前をお聞きしてもよろしくて?」

「……これは失礼いたしました、ハワード公爵令嬢。初めまして、わたくしはセシリア・シェラードと申します。あまりこういった場には慣れていないもので、失礼がありましたら都度謝罪いたします」

「まぁ……シェラード公爵令嬢でしたの。いいえ、これはわたくしが悪いですわね、失礼いたしました」


 心做しか場がピリピリとした空気になっている。まぁそれもそうか、四大公爵家の令嬢同士が睨み合っているも同然だ。まぁ、私は気にしていないから、勝手に周囲が緊張した空気にしているだけなのだけれど。


「いいえ、ハワード公爵令嬢。あなたは間違った行いはしておりませんわ。ハワード家は格式高い家柄……古い格式では、お茶会の場で最初に口をつける者は最も位の高い者とされております。きっとそのことについて提言しようとしたのでしょう? ならば、名乗らなかったわたくしにも非はあります。ですので、今回は痛み分けという事で!」

「感謝いたします、シェラード公爵令嬢」

「どうぞセシリアとお呼びくださいませ。皆様方も、この場ではどうぞ、わたくしのことはセシリアとお呼びください」


 にこやかにそう言うと、その場の緊張が霧散した。穏便に場を収めたことになるだろう。そもそも怒ってはいないのだから、気にする必要もないのだが。そうもいかないのが、ハワード家の令嬢らしい。格式を重んじるのは良いが、偶にどうしてかものすごく頭が固くなってしまうことがある。もう少し柔軟になれないものか。


「そうでしたわ! ティア様、先程家の象徴について、セシリア様にお話しいただいていたところですの。もしよろしければ、ティア様からもお話を聞かせてくださいませんか?」

「えぇ、勿論ですわ。そうだ、わたくしのこともこの場ではティアとお呼びくださいませ」

「では、この場では全員名前で呼ぶことにいたしましょう!」


 ある程度緊張も解けたところで、クライ嬢が話を変える。空気を変えるには良い動きだ。こういう所作言動ひとつひとつ気にしてしまうのも疲れる原因なのだろうけど、染み付いてしまったものはなかなか直せない。

 王太子妃教育でお茶会の作法や話術についても学んだからか、どうにもその辺が敏感になってしまった。敏感にならずとも良いはずなのに。気にせずゆっくりお茶が楽しめれば、少しはお茶会も楽しいものに感じたのかもしれない。もう手遅れだが。


「そうですわね、家の象徴があるのは王家と四大公爵家のみ。王家の象徴は太陽とライオン、わたくしのハワード家は本や書物、シェラード家は……」

「……シェラード家は青い薔薇、ウィンザー家は狼、サマセット家は鍵が、それぞれ象徴となっておりますわね」

「えぇ、これはわたくし達も存じておりますわ。皆の憧れですもの」

「では、象徴にはそれぞれ意味があることをご存知ですか?」


 その話、して良いのか。象徴についての意味はお父様に教えてもらった。けれど話して良いのか、それとも話さない方が良いのか分からなかった。前回はそんなこと聞ける仲でもなかった気がするし。一応、今度お父様に確認してみよう。

 王家の象徴については、調べればすぐに分かる。誰もが知る意味だ。太陽は生命力、繁栄、喜び、創造主。ライオンは力、勇気、勝利、誇り、寛大、そして太陽。ライオンの立て髪は太陽にも見えることから、ライオンは太陽という意味も持ち合わせている。まぁ、簡単に全て合わせれば繁栄する国家の王ということだ。なんとも王家らしい。


「他の四大公爵家にも、それぞれの象徴に意味がありますか……最近ではあまり伝えられなくなってきています」

「家を表すものではありますが、わたくしもあまり詳しく聞いたことはありませんね」

「お二人も知らないということは、本当に象徴の意味が失われてしまうのでは……」

「当主には伝えられているようですし、失われることはないと思いますわ」


 お父様は私に教えてくれた。青い薔薇は、奇跡、神の祝福、そして……夢が叶う。シェラード家は強い意志を持って夢を叶え奇跡を起こす家だと。

 

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