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第38話 【ルクス視点】転生者


 セシリアがフェリス嬢とのお茶会に行った。僕は屋敷で素振りをしていた。


 半年くらい前に流行病にかかり、高熱に魘されていた。眠っていた時に見た夢は、全く見覚えのないはずなのに、どこか懐かしい光景。それが前世の記憶だと分かったのは、熱が下がった後のことだった。

 今までのルクスとして生きてきた記憶もある。けれど前世の記憶も思い出した。僕の婚約者が薬を持ってきて、僕に飲ませてくれた。特効薬と言っていたその薬を飲んだ数日後には熱が下がり、流行病は完治した。薬を無料で配ったそうで、流行病はすぐさま終息した。


 そうして僕は鏡の前に立ち、見覚えのある顔にハッとした。前世は地球に暮らす日本人だった。まだ学生で、本を読むのが好きだった。取り分けよく読んでいた小説が、この世界だった。

 ルクス・シェラード。物語の回想に登場する、いわゆる脇役である。シェラード家に養子として迎え入れられ、妹のセシリア・シェラードと共に学園に通っていたが、卒業間近にして冤罪をかけられ処刑された。

 冤罪によってシェラード家は崩壊していき、ただ一人残ったセシリアが復讐のため動きだす。ようは復讐劇だ。少し後味は悪い内容だったが、主人公のセシリアの葛藤や苦悩が絶妙に描かれた小説だった。


 そして今、僕が転生したのはそのルクス・シェラード。物語の回想にのみ出てくる、冤罪で処刑されるはずのキャラクターだ。それは困る。後一年もしないうちに学園に入学し、卒業できずに死ぬなんて絶対に嫌だ。どうにか回避しようと思いついたのが、原因である第一王子と関わらないこと。

 物語の中で主人公のセシリアにバカ王子と度々呼称されていた第一王子は、私利私欲のためにセシリアを利用し、王太子となった。その後は用済みとばかりにセシリアを捨て、セシリアを貶めようと画策したものの失敗。そこで目を付けたのが、セシリアの兄である僕だった。つまり第一王子との関わりさえなければ処刑は回避できるのではないかと、僕は進学先を学院に変更した。


 ただ、気になることもあった。セシリアと僕は兄妹というのが、物語の中の設定。けれど今の僕とセシリアの関係は兄妹ではなく婚約者だ。思い返せばセシリアが熱を出して寝込んだ後、異様に僕との婚約をしようとしていた。記憶のなかった僕自身も、セシリアのことはかなり好印象で、自分を変えてくれた恩人でもあった。好意もあり、セシリアは第一王子との婚約を蹴って僕と婚約した。

 

 正直あのパーティーでの出来事は思い返しても笑えてくる。あの時はわからなかったけど、前世の記憶が戻った今なら分かる。セシリアの第一王子への印象は最悪で、とにかく恥をかかせてやろうと裏からも手を回して笑い物にしようとしていた。あの時の少し悪い顔が忘れられない。

 嫉妬はしたが、今となっては良い思い出だ。第一王子は顔を真っ赤にして恥をかいたと化けの皮が剥がれていた。けれどその後のあの魔物達。あれは小説になかった内容だ。まだ記憶が戻ってなくて、正直良かったとも思う。前世の記憶がある今、あの時のように咄嗟に立ち向かえるか分からない。


 セシリアは怪我をして、王都に来た公爵が国王に説教をするかの如く迫っていたこともあった。けれどそれより、セシリアが国王の前で堂々と僕との婚約を宣言したことの方が面白い。明らかに第一王子との婚約を望んでいるであろう国王に対し、臆することなくはっきりとその婚約を断ったのだ。

 王妃様の助け舟もあって、僕たちの婚約は正式に成立した。他にも、セシリアと公爵、公爵夫人の関係がかなり良くなっていた。小説では、事務的な関係で、あまり親子としては過ごしていないと描かれていた。それに、流行病にかかったのは僕ではなく公爵夫人だ。その薬を開発したのは、小説ではセシリアではなく僕だった。


 小説とこの世界の齟齬が激しく、正直最初は戸惑った。けれど前世で読んだ物語の中にも、転生したけど前世の記憶と違う、なんて話は良くあった。もしかしたらセシリアも転生してるのかもと思ったが、そうではないらしい。

 さりげなく前世の記憶に関わりそうなことを聞いてみたが、特に反応しなかった。それにもし前世の記憶があるなら、確実に僕と同じ小説を読んだことになる。けれど、セシリアは特に前世の記憶があるような素振りは見せなかった。


 セシリアは転生者ではない。そう結論付けたところで、この世界と小説の世界の関係について考えた。そうして出した答えは、『ここは小説の世界に似た全く別の世界』というものだ。

 既に小説の内容からは大幅に外れている。ならばこの先何が起こるか分からない。それでも、セシリアのことは守りたいと思った。


 学院では、より実践に近い形で学べると聞いた。元々ただの学生だった僕には貴族平民の区別なんてあまり気にならない。できるだけセシリアを守れるよう、もっと強くなりたいと思った。

 ここが小説の世界かどうかは、正直あまり関係ない。僕がやるべきは……セシリアを守ることだ。

 

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