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第28話 姫抱きは恥ずかしい


「セシリア、大丈夫? 痛くない?」

「そうね、少し痛いけど、多分今は興奮してるから……後から痛みが来そう……」


 倒した魔物のいる会場の中心で手当てをする私達は異様に映るかもしれない。けれど魔物を倒し切った以上、私たちのやる事は騎士への報告のみ。何故か騎士達が来ないというおかしな状況下で、私の腕の咬み傷の応急処置をする事は至っては自然である。と、主張させて頂きたい!

 

 だからそんな目で見ないでくださいませ!!


 魔物を倒し切ってから少しして、大分遅れてやって来た騎士達は、会場内の光景に唖然としていた。そんな中で私達が何事もなかったかのように話をしている状況は、何も知らない人間からしたら異様に映るかもしれない。けれど怪我をしているんだから手当てをする事自体におかしな点はない。

 本来ならこれは王宮に勤める騎士達がやるべき仕事であって私達は本来保護されるべき立場だ。一体なぜこんな騒ぎになっているのに騎士達は来なかったのか。それに、やけに魔物の統率が取れていたのも気になる。


 床一面に広がる魔物。かなりの数がいたし、倒しても減っている感覚がなかった。あの中級魔術を使ってグレートウルフ以外の魔物を倒すと、魔物の数は一気に減った。それにあの笛の音も気になる。ここは王宮だが、離宮に近い。笛の音を使う機会も人もいないはずだ。

 私はこちらに近付いて来た騎士達をよく見る。王宮の騎士達はひと通り覚えていたが、今の騎士達は知らない。そもそも覚えていたといっても顔だけだ。おそらく今ここで一番位の高いであろう騎士に向き合う。


「騎士の皆様、到着が遅れたことに関しては今は何も言いません。えぇ、今は。それで、わたくし以外に怪我人はいらっしゃって? そのくらいなら把握しておりますよね?」

「あ、はい。怪我人はおりません。まずは謝罪を、本来王宮の警備も魔物の討伐も騎士の仕事。ことが起こってすぐに駆けつけ、我々が対処すべきでした。怪我も……大変申し訳ございません」

「怪我人は無しですか。それは幸いですね、私もそこまで深い怪我ではありません。謝罪も受け入れましょう。わたくし達は一度屋敷へ戻りますので、お話があればまた後日お願いいたします」


 思っていたより話の通じる人だったようだ。私の顔など知らないだろうから、どこの家の令嬢かも知らないのに、しっかりと頭を下げて謝罪できる。自分の非を認められるのは素晴らしいことだ。後ろの一部の騎士達がこちらを見る目は明らかに舐めている顔だ。少なくとも、この場を取り仕切る者が優秀で良かった。


「……ひとつだけ、この魔物はどなたが倒されたのかお聞きしたい」


 言うべきか、言わざるべきか。騎士達に伝えれば確実に国王の耳にも入るだろう。そうなれば私だけでなく、ルクスも政争の道具として狙われる。私だけでは王家や政治争いからは逃れられない。

 あぁ、でも。今はお父様もお母様もいる。頼って良いと言われたんだった。これから先色々と壁はあるだろうけど、ルクスとなら大丈夫だと思える。お父様とお母様もいる。チラリとルクスを見れば、ニコリと私に笑みを返す。ルクスはとっくに分かっているんだ。


「それに関しては、僕とセシリアが倒しました。グレートウルフ以外の魔物のほとんどは、セシリアが魔術で、グレートウルフは僕が倒しました。これでよろしいですか、騎士様?」

「君達が……いや失礼。この度のご協力、感謝する」

「わたくし達はもう屋敷へ戻りますので、何かありましたらシェラード邸に知らせをお願いします」


 それでは、と歩き出そうとしたところで、ルクスが私の体を支えるように腕を回す。手を貸してくれるのかと思いきや私を横抱きにして抱き上げる。俗に言うお姫様抱っこというやつだ。

 流石に私も恥ずかしくて自分で歩きますと言ったが、ルクスは許してくれなかった。無茶をするからいけないと言われてしまった。確かにフェリスが襲われるかもしれないからと間に入ったのは無謀だったかもしれない。それでも咄嗟に魔術を使ったし、結果傷は浅い訳だし。


「セシリア、僕が怪我をするのは……嫌なんだよね? だったら僕だってセシリアに怪我をして欲しくはないんだよ?」

「ごめんなさい……」


 ルクス激怒である。ルクスは怒るとまずい。帰ったら説教確定だ。なんて事だ。いやだってあの状況で私は冷静に動けていた方ではあると思うんだが。魔術で腕を守った訳で、そもそも怪我人は私一人だし、結果的に良かったとは……私、一人だけ?

 あんなに魔物がいて、あんなに人がいた中で、怪我人が私一人、そんな事あり得るだろうか。そもそも前回はこんな事はなかったはずだ。こんな魔物の襲撃のような事件、私が知らないはずがない。つまり前回はこんな事はなかった。私が十歳に戻ってから起こした行動によって何かが変わった?


「ルクス、お説教は後で聞きます。それより、なぜ私しか怪我人がいないか、調べないといけないわ」

「!? ……分かった。今日は帰って休もう。調べるのは明日からだ、お父様にも手紙で知らせておこう」


 ルクスは私を横抱きにしたままパーティー会場を出る。そこには避難した令嬢令息達が集まっていた。待ってほしい。流石にこんなに人がいるなんて思っていない。きっと別の場所に避難したか、もう帰ったのかと思っていたのに、なんでここにいるの!?


「ルクス、やっぱり下ろしてください! 恥ずかしいです!!」

「ごめんセシリア、聞こえないなー」

「嘘おっしゃい!」


 結局、真っ赤な顔を隠しながら私はルクスに横抱きにされて馬車に乗り込んだ。恥ずかしぬ!

 

6月17日注目度ランキング96位ありがとうございます!

先日のランクイン通知機能にて気が付きました


もうひとつ、誤字報告ありがとうございました。何度確認しても誤字は出てくるもので、指摘していただけるのは大変有難いです!

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