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第26話 今度こそ


 バカ王子とのダンスは無事に終わった。ルクスとフェリスには感謝しなくてはいけない。三曲目のダンスは当然だがルクスと踊るつもりだ。けれどこのままだと他の男性に捕まりそうだったので二曲目のダンスが終わってすぐに近くへ来てくれていたルクスの元へ急いだ。


「お待たせいたしました、ルクス」

「待っていませんよ、大丈夫でしたか?」

「えぇ」


 ルクスは私を気遣うように手を差し出す。私はルクスの手を取って中央から少しずつ離れていく。どうしたのかしら、中央から離れていけばダンスが踊れない。会場の端でダンスを踊る人はほとんどいない。見られてはいけないような関係の二人が踊ることは稀にあるそうだが。

 いわゆる禁断の恋というやつだ。言い方を変えているが、家同士の仲の悪さや親によって引き離された恋人なんて物語のようなものはほとんどいない。大抵は所謂浮気だ。


 私たちはもう隠れる必要がないのだから、わざわざ会場の端まで行く必要はないはずなのに。ルクスが進む方向はだんだんと会場中央から離れていき、進む先を見ればバルコニーがあった。

 ひっそりと目立たないよう二階までの階段を登り、バルコニーへと出る。もうすぐ三曲目の音楽が演奏されるはずだ。バルコニーは基本外の空気を吸いたい場合などに出る場所。もしかして、人酔いしてしまったのかしら。あまり大勢が集まる場所に行ったことがないルクスが人酔いしてしまったという可能性は十分にあり得る。でも、それなら私に言ってくれるはずだ。


 バカ王子とのやり取りに何か問題があった? それとも単に私を心配してくれて? フェリスに色々と頼んでいた事を伝えていなかったから嫉妬した? どれもあまりしっくりこない。

 ルクスはずっと黙ったままバルコニーへ向かっている。私の歩幅に合わせてくれているが、こちらを見てはくれない。怒っているのかとも思ったが、ルクスの顔を見るにそうではなさそうだ。


 バルコニーに出た瞬間、隣にいたルクスが消えたように見えた。勢いよく膝をついたルクスにやはり体調が悪いのかと心配して名前を呼ぶ。けれど私の顔を見るように上を向いたルクスの顔は、まっすぐに私を見ていた。

 

「セシリア、ごめん。僕は……セシリアが僕以外と踊っている姿が、どうしても耐えられなかった。セシリアがちゃんと言ってくれていなのに……嫉妬でどうにかなりそうだった」

「ルクス?」

「急に連れ出してごめん、セシリア。改めて、僕と婚約してくれませんか?」


 ルクスからの告白は二度目だ。それでも、前回と今回では意味合いが違う。前回は婚約したいという希望になってしまったけれど、今、ルクスから差し出された手を取れば、婚約の話は現実的になる。

 お父様の許可は取れていたけれど、王家が持ち込んだ縁談によって阻まれていた。さっきの第一王子とのダンスは、それを断ち切ることができたと思う。なら、私の選択はひとつ。


「喜んで。よろしくお願いします、ルクス」

「よろしく、セシリア」


 会場内から音楽が聞こえてくる。三曲目のダンスだ。もう会場に戻って踊るには少し遅い。月が反射した光で夜を照らす。ルクスの髪が月明かりで光の粒が舞ったように見えた。


「セシリア、僕と踊ってくれますか?」

「もちろん!」


 誰もいないバルコニーで、私達は二人でダンスを踊る。他人の目を気にすることなく踊れる。完璧でなくても良い、気楽なダンス。屋敷での練習とも、会場での完璧なダンスとも違う。自由で楽しい、私達だけのダンス。

 もうすぐ曲が終わる。楽しい時間はあっという間に過ぎていってしまう。それでも、きっとこの時間を忘れることはないだろう。


「今日はもう帰りましょうか」

「そうだね、セシリアも疲れただろう?」

「あの王子ってばしつこいんだもの!」


 笑い合いながらバルコニーを出る。相変わらず煌びやかな会場から外へ向かう。一度フェリスにだけは挨拶していきたい。ルクスも少しだけ拗ねていたけれど、フェリスにはお世話になったからとフェリスを一緒に探してくれることになった。

 フェリスは令嬢達の中心にいて、近づくのは骨が折れそうだった。今回パートナーとして一緒に来たのはお兄様のようだったけれど、ダンスは踊らないらしい。フェリスは体を動かすことが苦手で、ダンスも例外なく苦手なようだ。絶対ダンスは踊らないと言い切っていた。


 令嬢達は流行や恋愛、噂に敏感だ。そういった話が自然と集まる商会という場所にいるフェリスは話の中心になれる。きっと令嬢達と話をしてフェリスへのダンスを申し込もうとする男性達を無意識に遠ざけているのだろう。策士である。

 ルクスと二人でフェリスの元へ行こうとしたその瞬間、どこかから笛の音のようなものが聞こえてくる。かなり高い音だ。一体誰が……?


 ガシャン!!


『キャー!』


 会場ないから響く悲鳴。ガラスが割れた大きな音。嫌な予感がしてまだ階段を降りていなかった私達は身を乗り出して下を見る。


「魔物の……群れ…………」


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