第24話 ファーストダンス
第一王子が会場に入った瞬間から、令嬢達の視線は一気に釘付けとなった。外面だけは良いが、中身は最悪。しかもなかなかにバカである。学園の成績はリストに載らず、本来なら生徒会長としてまとめるはずが、その生徒会にすら入れない。どうにか自分を誇示しようと平民をいじめ見下し、私に対する態度もどんどん悪くなる。王妃教育で忙しい私と、授業をサボってガラの悪い友人を作って遊んでいた。
今回はそんなことにならないと良いが、多分あのバカ王子の性格は変わらないだろうな。私が婚約をしなければ、他の誰かが犠牲になる。なら、できる限り婚約者の手助けをした方が良いかもしれない。
それと、王位継承権の問題もある。前回は私が第一王子の婚約者になった事で、シェラード家は第一王子派の筆頭となり、シェラード家の権利によって第一王子が王太子になった。けれど血統主義のこの国では、側妃の子である第一王子よりも正妃の子である第二王子の方が継承権は上だ。
本来なら第二王子が王太子になるはずだった。だが、国王は側妃の方を溺愛していて、その息子である第一王子を王太子にしたがっていた。私との婚約も第一王子を王太子にしようとする意図があったのだろう。けど今回はそうはさせない。
無能な王より有能な王。常に学年一位の座を私と競い合っていた第二王子の方が王になるべきだ。頭もよく成績も良い、バカ王子の代わりに生徒会長として学園を先導し、貴族平民関係なく意見を聞こうとする柔軟な思考のできる人格者。もし国王がまた無理に第一王子を王太子にしようとするなら、私がお父様を説得してシェラード家を第二王子派にするだけだ。
どこか挙動不審なバカ王子の目的はきっと私だろう。シェラード家の令嬢を探しているのだ。けれど残念、私はお前とファーストダンスを踊るつもりはない。すると会場に楽器の音が鳴り響く。時間だ。私とルクスは立ち上がり、ファーストダンスを踊るため中央へと向かう。
「セシリア、私と踊っていただけますか?」
「もちろん、喜んで!」
ルクスに手を引かれ、会場中央へと進む。ようやく影から出てきた私を見つけた第一王子がこちらを見ていたが、私は見向きもせずルクスに手を引かれるまま歩いていく。流石にこの雰囲気で割り込む程バカではないはずだ。
第一王子から一点、私達にも注目が集まる。音楽に合わせてステップを踏む。普通ならそれぞれ別々にダンスを練習し、当日合わせるのがほとんど。けれど私とルクスは数ヶ月ずっと一緒に生活してきた。お互いに婚約を望んでいる以上、一緒にダンスの練習をしても何の問題もない。
お互いの動きを良く理解しているからこその余裕のある動きができる。足の踏み出し、動く方向、音楽を聴きながら音に合わせて自然と体が動く。ピッタリと息の合ったダンスは周囲の目を引く。チラリと見えたバカ王子は別の侯爵令嬢とダンスを踊っていた。ご令嬢が凄く踊りにくそうにしていますよ。
若い令嬢令息を集めたからか、ダンスはかなり踊りやすい簡単な曲だった。踊りにくそうにしていたり、あまりダンスが得意ではなさそうな人も、何とか形になるように踊っていた。けれど会場の視線から察するに、私達が一番目立っていたようだ。元々一緒に練習をしていたのだから、息が合っている方が普通、むしろこれでバラバラのダンスなんてしようものなら相性が悪すぎるとしか言いようがない。
音楽が止み、ファーストダンスが終わった。お互いに感謝の意味を込めてルクスは背筋を伸ばしたまま軽く腰を曲げ、私はドレスの裾を少し掴んでカーテシーをする。まだダンスを覚えたてだと忘れがちだが、正式な場でダンスを終えた時に必ず礼を欠かしてはならない。
ダンスの練習の時、ダンスのお誘いから終わりまで通しで練習しておいて良かった。ルクスも私も自然な流れでダンスを終えることができた。私はそのままルクスの顔を見る。このまま次の曲もルクスと踊るつもりだ。けれど、きっとそうはさせないだろう。
「失礼、シェラード公爵令嬢とお見受けします。初めまして、トリスタン・ハールグレイと申します。以後お見知りおきいただければ」
「初めまして、トリスタン第一王子殿下。セシリア・シェラードと申します。こちらはわたくしのパートナーのルクスといいます」
「初めまして、トリスタン第一王子殿下。セシリアのパートナーのルクスと申します。少々込み入った事情がございまして、家名を名乗らない非礼をお許しください」
人好きする笑みを浮かべる第一王子。きっと誰もその腹の底を知らないのだろう。私を見つけた以上、絶対に話しかけて来ると思っていた。国王陛下にでも言われていたのでしょう? 私と仲を深めてこいと。でなければ王太子になるのは難しいもの。
「先程のお二人のダンス、とても素晴らしいものでした。まるで双子のように息の合った素晴らしいダンスを見せていただきました」
「まぁ、お褒めいただき光栄ですわ」
誰が双子だ、わざと言ってるだろ。ルクスが表向きシェラード家の養子として迎え入れられたことも把握済みか。わざわざ兄弟とは言わず双子というあたり性格が悪い。ルクスが私と婚約できなければ、私達の関係は兄妹になる。
こんな皮肉伝わらないと思っているのだろう。全くの見当違いご苦労様。昔からこういう皮肉にだけは頭が回る。けれどやはりまだ子供。権利争いに揉まれてきた私の敵ではない!
「えぇ、素晴らしいダンスに思わず見惚れてしまいました。ルクス殿、シェラード公爵令嬢を一時、お借りしたいのですが、よろしいでしょうか?」
「……もちろんです。セシリアも殿下とのダンスを踊れるなんてこれほど良い経験はないでしょうから」
事前に話していた通り、ルクスは私と王子のダンスを快く承諾したように振る舞う。笑みを浮かべてはいるけれど、凄く嫌そうなのが伝わってくる。ごめんなさい、すぐ終わらせるから。それに、敬称付きの殿下と、様もつけない名前呼びのルクス。関係性は明らかだ。
「それでは、シェラード公爵令嬢。私と踊ってくださいませんか?」
「お受けいたします」
喜んでなんて言ってやらない。このダンスこそ私の狙いだ。まだお子ちゃまなバカ王子にひと泡吹かせようじゃないか。




