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第22話 バーナード商会


 王都に着くと一度屋敷へ向かうことにした。流石に荷物を持ったまま商会には行けない。けれど屋敷の使用人達も優秀で、テキパキと部屋の案内や荷物整理を手伝ってくれた。予想外に早く終わった荷解きで、私とルクスは今日服を取りに行く事にした。

 使用人に頼んで馬車を出してもらい、王都最大の商会であるバーナード商会へ向かう。服や装飾品など身に付ける物を主に取り扱っている。王都は広いが、屋敷から商会へはそこまで距離がなく、割とすぐに到着した。馬車から降りて商会に入れば、お待ちしてましたとばかりに出迎える店員に急いで裏に走っていく店員が一人。もしかしてと思ったすぐ後、裏から見覚えのある人物が出てきた。


「セシリアお姉様! ようこそいらっしゃいました!!」

「お久しぶり、フェリス。頼んでいた物を受け取りに来たのだけど、良いかしら?」

「もちろんです! お姉様より優先されることなんてありませんわ!」

「いやもっと優先すべき事はあると思うわよ。そうだ、紹介するわこちらがルクス。ルクス、以前話した私の友人のフェリスよ」


 相変わらずフェリスは私の事となるとテンションが高い。お姉様呼びはもう諦めた。フェリスとルクスは初対面だからと私が紹介する。仲良くしてもらいたいものだ。


「初めまして、セシリアお姉様の友人のフェリス・バーナードと申します」

「こちらこそ初めまして、セシリアと婚約する予定のルクスと言います。どうぞよろしく」


 なんか、二人の間に火花が散っている気がする。てっきりフェリスあたりが嬉々としてルクスに興味を持つかと思ったのに、そうでもないようだ。え、仲良くしてくれるわよね?


「それではお姉様、ルクス様、こちらにどうぞ!」

「え、ええ。」


 気のせいだったのだろうか。フェリスはまた満面の笑みで私達を奥へと案内する。バーナード商会にある要人用の応接室だ。そんな要人用の部屋を貸し切ってまで案内しなくてもと思うのだが、フェリスはどうしてもと譲らないのだ。

 フェリスの案内で奥へと進んで行く途中、以前より商会が大きくなっているように感じた。フェリスの功績だろうか。私のいたシェラード領まで噂が届くくらいだから成功しているとは思っていたが、あれから更に拡張したようだ。

 

 シェラード領内にあるバーナード商会も品揃えは豊富だが、やはり王都にある本店は規模が違う。これだけ商品があると選ぶのも大変そうだ。宝石類もアクセサリーもたくさんあるし、服は壁に並べられた物以外にもカタログがたくさん置いてある。

 先にフェリスに頼んでおいて良かった。一から探すのは骨が折れる。私の体力も持たなかっただろう。これだけの商品があるというのに、フェリスは全てを頭に入れている。見る目もあるが、最も奇異なのはその記憶力だ。これだけの商品全てを記憶し、要望に沿った商品を瞬時に思い浮かべる。流石という他ない。


 こちらですと通された応接室はやはり以前より広くなっていた。観賞用の置物や絵も変わっている。華美ではないが値打ち物な事は分かる。少々お待ちくださいとフェリスはどこかへ行き、私とルクスは二人で部屋に残された。


「ルクス、フェリスとは仲良くできそう?」

「大丈夫じゃないですか?」


 できるとは言わないのね。一体何がどうして火花まで散らすような事になったのかしら。今日会ったばかりのはずなのに。

 ガチャリと扉が開き、何人かのデザイナーのような人とフェリスが私達用の服を持って入ってきた。お互いにブルーを基調とした服装で、私はシルバーのアクセント、ルクスは薄いエメラルドのようなグリーンとほんの少しのシルバー。

 明らかに対になるようなデザインの服。確かに私の要望にしっかりと応えているが、問題はそのデザインと色味。あつらえたように作られたブルーとグリーンの服は早々ない。ブルーとシルバーのドレスは珍しくもないが、デザインが明らかに店に並んでいた物を大きく違う。細部までこだわって作られている。まるで色に合わせてデザインを調整したかのよう。青色は私とルクスの瞳の色、シルバーはルクスの髪、薄いグリーンは私の髪の色だ。


「フェリス、私は今ある服の中からと頼んだと思うのだけれど……これは特注で作ったのではなくて?」

「当然です! お姉様の着るドレスに既存のドレスなど選べませんわ! うちのデザイナーと相談して作ってもらいましたの。セシリアお姉様のドレスは特に細かな装飾があっても派手にならないよう調節して、ルクス様の服もお姉様の緑の髪と同じような色にするためにとてもこだわりましたわ!」


 ため息混じりに頭を抱える。まさかここまでやってしまうとは。確かにこんな感じでと要望は出していたが、まさか特注で作ってしまうとは思わなかった。まぁ、好意ではあるのだから有り難く受け取っておこう。お父様からお代用にお金は貰っているから値段の心配もないだろう。

 流石にルクスも……いや、感心したように服を眺めていた。ルクスはファッションに興味があるのだろうか。私はそのあたりさっぱり分からない。流行を追えるほどファッションへの興味がないのだ。専らフェリスから情報をもらってばかりだ。


「なら、服はこれで良いわね。フェリス、装飾品の事なのだけど……」

「ご用意してありますわ!」


 もう何も言うまい。フェリスの持ってきた装飾品の中でお互いに合いそうな物を選ぶ。私は少し大人っぽいがルクスのタイピン、ルクスはピアス。タイピンにはエメラルド、ピアスにはダイヤが埋め込まれている。お互い考える事は同じようだ。

 フェリスにお礼を言って会計も済ませて店を出る。なんだかどっと疲れたような気がする。服を選んだわけでもないのに、フェリスの勢いに押されてしまったというか何というか。

 けれどフェリスには感謝しなくてはならない。特注で作られた物は確かに特別だ。見る人が見れば特注品だとすぐに分かる。これで対になる服は手に入れた。

 あとは王家のパーティーで王子に間抜けな顔をさせてやる。私とルクスはもう既に深い中なのだと集まった貴族全員に知らしめてやろう。


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