第21話 王都へ出立
月の花を見つけてから早数ヶ月。花は順調に育ち、種からまた新しく月の花を増やすこともできそうな段階になっている。私はもうすぐ十一歳、ルクスは既に十一歳になり、もちろん誕生日は私を主導として盛大に祝った。ルクスとの仲はもちろん、お父様とも少しずつ距離が縮まっている。嬉しい事に、最近は時々お母様も私に会ってくれる。
調子の良い日だけみたいだが、部屋に入れてくれる事が増えた。柄にもなく子供のようにはしゃいでしまう。今日は何をした、ルクスと出掛けた、お父様とこんな話をしたとお母様に話すのだ。お母様は以前より笑いかけてくれて、穏やかな表情で私の話を聞いてくれる。どうやら子供っぽい私の方が、お母様は好きなようだ。
そのおかげか、今までにない程充実した生活が送れている。剣術は変わらず続けていて、最近は少しなら普通の剣も持てるようになってきた。ルクスには相変わらず勝てていない。
ルクスやお父様とお茶をする事もある。三人で一緒に話をする事も多い。ほとんどないが、本当に偶に、お母様が来る事もある。調子が良い日が増えて来たようだ。特に嬉しかったのは、一度だけお母様と四人で出掛けたこと。
前にお父様に連れて来てもらった花畑に、ルクスも含め四人で出掛けたのだ。お母様はあまり動かなかったけれど、その日は私もルクスも、何も気にすることなくはしゃぎ回った。
「お母様、花冠の作り方を教えてください。前にお父様に作った事があると聞きましたわ!」
「あ、僕も教えてください!」
「あらあら、ふふっ。良いわよ。まだ少し咲き切る前の花を選んで、茎に絡めて……時々別の花を入れると可愛くなるわよ」
お母様の作る花冠はとても綺麗だった。次に上手く作れたのはルクス。少し歪なところはあるが、しっかりまとまっていた。私はといえば、なかなか形にならず結局輪になる前にバラバラと落ちてしまった。少し悔しかった。
そんなこんなでもうすぐ秋。シエルは順調に執事としての仕事を覚え、イリオスはある程度礼儀作法や言葉使いを覚えたところで帝国へ行く事になった。勿論皇帝陛下と皇后陛下がいらっしゃって直接イリオスを確認して行った。これ以上ない程綺麗な紫色の瞳と、二人にそっくりなイリオスの顔に泣きながら再会を喜んでいた。
ちなみにイリオスの誘拐を手助けした者は捕まったそうだ。聞けばイリオスの叔父、皇帝の弟にあたる人物だったそう。既に捕まって牢獄行きだ。息子を次の皇帝にしたかったそうだが、甥は王位に微塵も興味がなく、婚約者もいて家を継ぐための勉強をしていたそう。余計な事をしなければ良かったのに。
さて、全てが順調に進んでいるところで、数日前に手紙が届いた。王家が主催するパーティーの招待状が、遂に届いたのだ。招待状は形式的なものだが、今となってはよく分かる。これは王子の婚約者選びのためのパーティーだ。
まだ社交界にほぼ出たことのない幼い子供ばかりを招待するなんて、それ以外考えられない。一応男子も何人か招待していたが、圧倒的に女性の方が多く招待されていた。フェリス情報である。
ここが勝負の時。このためにフェリスにわざわざ相手を伏せたまま私の婚約話について噂を流してもらったのだ。言及されないようここ数ヶ月はシェラード領から出ていない。誰からの誘いも受けないようにしているのだ。
けれど、このパーティーで全てが決まる。誰との婚約か分からないようにしたのは王家の反感を買わないため。けれどパーティー会場に、私とルクスが婚約しましたとばかりに分かりやすい登場をしたら? 王家も流石に手は出せない。なんせ大勢の貴族達が見ているのだから。
これからパーティーの準備のため、王都の屋敷へと向かう。シェラード家の人間はあまり王都へは行かないが、王家からの招待があったとなれば行かない訳にもいかない。王都の屋敷に住むフェリスに頼んで、到着次第私とルクス用のドレスとアクセサリーを頼んである。
流石にパーティーまでに特注するのは間に合わないが、フェリスなら私の要望に沿った服を用意できるはずだ。お父様とお母様はシェラード領にいるそうだ。本当なら着いて行きたかったらしいが、何やらシェラード領で魔物の目撃情報があったとかで、今は屋敷を離れられないそうだ。そういえば、前回もこの時期に魔物の動きが活発になった事があったが、いつの間にか終息していた。お父様の手腕だったのかもしれない。
「それでは、行って参ります」
「行ってきます」
「セシリアァ……やっぱり私も……」
「こらあなた、セシリアを困らせないでください。行ってらっしゃい、セシリア、ルクス」
王都へ行くその日、お父様だけでなくお母様も一緒にお見送りに来てくれた。気のせいかもしれないが、段々とお母様の顔色も良くなっているように見える。名残惜しそうなお父様に、笑顔で送り出してくれるお母様。前回は見送りなんてなかったけれど、今はお父様とお母様が来てくれた。
馬車に乗り込み、ルクスと二人、シェラード領を出発した。ガラガラと車輪の回る音に、ほんの少し揺れる馬車。どこか名残惜しそうに外を眺めるルクスに、クスッと笑いが溢れる。
「王都でのパーティーが終わったら、すぐに戻ってこられるわ」
「そうだね、なんだかもうすっかりここが僕の居場所みたいになってて……ちょっと名残惜しかったんだ」
「何を言ってるのかしら、もうとっくにここはルクスの居場所なのよ」
ここ数ヶ月で、ルクスとはこうして軽口で話せる程仲良くなった。二人でいる時間も、退屈な馬車の旅も、ルクスとなら楽しめそうだ。王都に着いたら、フェリスに揶揄われてしまうかもしれない。ゾッコンじゃないとか言われそうだ。
私もルクスが好きだし、ルクスも私のことが好きだと信じてる。だから特に心配はしていない。今回のパーティーさえ乗り切れば、私もルクスもお互いなんの心配もせずに過ごすことができる。
「ルクス、今回のパーティーについて、何か聞いてる?」
「王家主催のパーティーとしか聞いていないよ」
「そう。なら先に説明しておくわ。王都にいる友人に聞いておいたのだけれど、今回のパーティーに招待されたのは私達とあまり年の変わらない子供ばかり。しかも圧倒的に女性が多い。私に招待状が来ていたけど、ルクスには来ていなかったでしょう? これは、建前はこれからこの国を支えていく者同士の交流になっているけれど、本当は王子の婚約者探しが目的だと思うわ」
第一王子ことあのバカ王子は、ルクスと同じ十一歳。私とルクスは少しずれた誕生日で学園での学年が一つ違うが、私とバカ王子はほぼ丸一年程誕生日が離れている。今回集められたのは十歳から十五歳程の令嬢ばかり。ただの子供なら気付かないでしょうけど、その親はきっと気付いている。
娘を王子の婚約者にと思う親も多いだろうが、私はこれが出来レースのようなものだと知っている。王家は事前にシェラード家に手紙を送っていた。返事が了承ではなかったから今回のパーティーを計画したのだろう。つまり狙いは私だ。なんと面倒な!
「王都に着いたら、フェリス……友人に頼んで私とルクス、揃いの服を用意してもらっているから、それを受け取りに行くわ。パーティーで私達はただの友人ではないと示して、早く王家との婚約なんて放棄しましょう」
「そうだね、早く王家との縁談なんて断って帰って来よう。僕達には王都よりきっとシェラード領の方が合ってるよ」
これからの事を考えているのに、以前のような不安はない。ルクスとならきっと乗り越えられる。さぁ、あのバカ王子の間抜けな顔でも拝んでやろう!




