第20話 月の花
お父様とのお出掛けからひと月経ち、今日は満月。私はこれから屋敷の裏の森へと向かう。森は魔物がほとんどいない安全な場所であるはずだ。お父様とのお出掛け以来、お父様と話をする機会が増えていた。
それもあって、私は思い切って森へ向かう事を話した。この屋敷の裏の森に、月の花があるかもしれない。満月にだけ咲く月の花を探しに行きたい。かなり渋られはしたが、護衛付きという条件で森へ行く事を許可された。ルクスも付いて行きたかったようだが、明日は早いから行けないと残念そうにしていた。
「さて、行きましょうか。副団長殿!」
「そうですね、私の名前はアットですので、良い加減名前で呼んで頂きたいです」
副団長の言葉を一部無視して私は屋敷から歩き出した。森へ行くのに馬車を使うわけにもいかず、とにかく歩きだ。前より体力がついたとはいえ、流石に道のない森を歩き続けるのはキツイ。
この森は騎士団が定期的に巡回するそうだが、湖は見た事がないそうだ。けれど私は逆に考えた。騎士達が立ち入らないような場所に湖があるのではないか。歩きながら騎士達に道を聞き、それとは別の方向へと進む。
騎士の中にマッピングをしてくれる人がいたので帰り道も安心だ。道なき道をひたすら進み続けるが、それでも湖はなかなか見つからない。流石に疲れた私を気遣ってか、副団長が一度休憩しようと提案した。
「お嬢様、一度休憩しましょう。まだしばらく月は出ていますから、少し休んでからまた探しましょう」
「あ、ありがとう。副団長殿」
「アットです」
どうしてそこまで意地を張って名前を覚えてもらおうとするのかは知らないが、とにかく今は一度休憩だ。息を整えて、少しでも体力を回復させないと、月の花を探すどころではなくなってしまう。
内心焦りもあったものの、頭は冷静な判断をしてくれる。大丈夫、今回がダメでもまた来月くれば良い。病が流行るまでまだもう少し時間がある。それまでに月の花を見つければ良いのだ。それでも、早く見つけなければという思いも先走る。副団長の助言あり、何とかそれを押しとどめる。
息を整え、再び歩き出す。月の花を見つけたのは一体誰だったか、もう忘れてしまった。けれどこの森で見つけた事は確かなのだから、極論探し続ければいつか見つかる。けれどいつかではダメなのだ。なるべく早く、流行病が流行する前に見つける必要がある。
定期的に休憩を入れ、歩いては休み、歩いては休みを繰り返す。騎士達はほとんど息を切らしていない。流石、シェラード家の騎士だ。未だ短期戦しかできない私と違い、しっかりと体力がある。
もうすぐ夜が明けてしまう。月が隠れれば今日はもう探索できない。ため息混じりに空を見上げれば、綺麗な満月がキラキラと星の道を作るように下を照らす。
あれ、よく見れば、光がおかしな方向に差してないかしら。月も太陽も変わらないが、普通は地上全体を照らすものだ。なのに一ヶ所に向かって光が伸びているのはおかしい。
「副団長!」
「アットです」
「ではアット、あちらの方向に向かいます。月の光が不自然に照らしている場所がありそうです」
「え? えっ? お嬢様今なんて……あぁもう! 分かりました行きますよ!!」
夜の森はいくら満月だろうと暗く、足元が覚束ない。だから慌てて走ることはせず、慎重に歩きながら進んでいく。段々と先が明るくなっていく。森を抜けるように進むと、そこは月明かりに照らされてキラキラと光っていた。
湖が鏡の役割を果たして月明かりを反射している。月から光が差しているのではなく、湖が反射して光が見えていたようだ。どうりで不自然なはずだ。そしてこれは、周りが暗く月の明かりが最も強い満月の日でなければ見つけるのは難しい。月の花の名前の由来はここからか。
騎士達と湖に近付いていく。湖自体はそこまで深くはない。中を除けば確かに白い花が咲いている。間違いない、あれが月の花だ。何とか見つける事ができた。
「副団長、あの花を取ることはできますか? できれば二、三本程」
「お嬢様さっき名前呼んでくださったのに……!? まぁ、このくらいの浅さなら生き物もほとんどいないでしょうし、取れると思いますよ。もしかしてあれが探していたやつですか?」
そういえば、副団長達はお父様に何と言われていたのだろうか。私の探している植物が何かは言っていないのかもしれない。でもまぁ、副団長達ならバレても問題ない。なんせ前回でも最後の最後まで私に着いてきてくれた。
「そう、あれが私が探していたもの。月の花と言えば分かるかしら」
「は? あれが!? 月の花っていえば万病に効くって言われてる幻の植物じゃないですか!」
「万病かどうかは分からないけれど、月の花の謂れは見れば分かるでしょう。水の中にあるなんて、誰も予想しないわ」
月の花と聞き、副団長は慎重に丁寧に花を取っていた。特性さえ知っていれば珍しい植物ではない。そこまで丁重に採取する必要性は感じないが、この花が栽培できなければまたここへ来なければいけない。それに、今の希少性からして丁重な扱いもおかしくはないか。
花を取った副団長が戻ると、私は持ってきていた透明な円柱状の容器に湖の水を入れてそれぞれ一本ずつ花を入れる。
「さぁ、もう夜が明けてしまうわ。帰りましょう」
ここまで来られたのは彼らのおかげだ。私一人で森へ行けば、ここまで辿り着けなかったはずだ。下手をすれば何ヶ月も見つからなかったかもしれない。遠征や探索に慣れた騎士達のおかげだ。
「ありがとうございます、アット」
「お、お嬢様!」
「さて、私はこれから月の花を栽培しなければいけないので、副団長達は先にお父様へ報告をお願いしますね」
なんで名前呼んでくれないんですかやっぱりわざとですよねと叫ぶ声も聞こえるが全て無視しながら屋敷へと戻った。疲れたからその日は丸一日ぐっすりと眠ってしまった。




