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第17話 暇すぎます


 前略、暇である。


 来月の満月の夜、屋敷の裏にある森へ行く事にしたは良いが、それまで何もする事がない。一応体力作りのために走ったり剣術指南は受けているものの、それだけで毎日暇を潰す訳にはいかない。

 ルクスは最近家にある本を読みながら勉強しているらしい。残念な事に、私はこの家にある本は全て読み終わってしまっている。新しい本を買おうにも、ついこの間、少々お高い金額を支払ってしまった。神殿にだが……


 そう、シエルは私付きの執事とはいかないけれど、シェラード家の使用人として教育を受ける事になった。シエルの母親については、神殿への寄付金上乗せ分を私のお小遣いから引いて寄付する事になった。なのでしばらくは私の懐も狭くなるのだ。

 少年──帝国皇子については、お父様が一度国王陛下へ話を通した後、直接手紙でやり取りをする事になった。国王陛下へ丸投げである。事が事なだけに、返事はすぐに届き、少年の名がイリオスだと分かった。


 手紙によると、生まれてすぐに乳母だった女性によって拐われ、行方不明となっていたそうだ。混乱を避けるため、皇子は病弱で表に出る事ができないという噂を流したそう。

 けれど、生まれたばかりで誘拐され、ずっと行方不明だった皇子が突如見つかったというのは奇跡に違いない。そう、奇跡でも起きなければ有り得ない事だと思われているのだ。直接確かめるまで、本当の皇子であると認める事はできない。


 それに加えて、皇子誘拐という大層な事を、乳母一人で行える訳がない。内部犯がいるかもしれないとの事で、しばらくはシェラード家で預かる事になったのだ。定期的にお父様へ手紙が送られ、お父様もまた定期的に手紙を出している。

 イリオスはというと、今までまともな教育を受けていなかった事から、シェラード家にいる間、少しでも貴族としての振る舞いを覚えてもらうべく日々勉強中だ。偶に逃げたりもしているようだが、その割に覚えは良いらしい。


 だがしかし。そうなるとやる事がないのは私だけになってしまう。エクスに関してはまだ動く訳にはいかない。ただの小娘がどうやって彼の探し人を見つけたのかと問い詰められれば終わりだ。しかもまだエクスが人探しをしている事は噂になっていない。頭の回る彼の事だ、ボロを出せば根掘り葉掘りと全て話す羽目になるだろう。

 せめてエクスが人探しをしているという噂が広まるまで待つしかない。彼がこちら側の味方になれば、怖いものなしだ。そういえば、私はシエルと、ルクスはイリオスと同い年だ。年の近い子との関わりはあまりないが、彼らを参考にしてはいけない気がする。


「暇だ……」


 本当なら、フェリスに教えてもらったドレスでも買いに行こうかとも思っていたのだが、生憎今の私は懐が寒い。お小遣いが減らされてしまった。これはまぁ仕方がない事なので良しとする。問題なのはドレスを買いに行くという予定がなくなった事。そして、私が今現在外出禁止である事だ。

 最近少々おいたが過ぎたようで、お父様から2週間は家から出ないようにと言われてしまった。あまりそう言った事はされた事がなかったが、これまで続けて説教を受けてきたのだし、このくらいなら妥当だろう。

 

 ただし反省するつもりはない!


 ある程度結果を見据えての行動だったし、結果的に良い方向にしか向いていない。何も恥じる事などないのだ。怒られたから、謹慎を命じられたから、次からはやりません? そんな事はしない。結果が分かるのであれば私はやる。


 できれば本を読みたかったけれど、私が読みたいものはこの家にはもうない。何度も繰り返し楽しめる人もいるようだが、残念な事に私は内容が分かっているなら読む必要性をあまり感じないタイプだ。私の方が少数派か。


「刺繍でもしておくかぁ」


 ため息混じりに仕方がなく刺繍を始める。これだけは、お母様から直接教えてもらった。才能はないが、人並みにはできるようになっている。練習したのもあるが、お母様の教え方が上手かった。

 最初は失敗ばかりで歪んでしまって、動物か植物か、果ては文字なのかすら理解できないほど酷かった。ようやく人並みに刺繍ができるようになってからは、お母様が部屋から出なくなってしまっていた。


 前まではお母様に贈るための刺繍ばかりしていたけれど、今回は違う。ルクス用のハンカチに刺繍をしている。ルクスの好きな物は今の私はまだ聞いていないから、名前だけを刺繍する。小さく青い薔薇のような刺繍もしようかと思っているが、私の技術が追いついてなさそうなのでやるかどうか迷っている。


 どうすべきかと悩んでいれば、コンコンッと扉から音が聞こえてくる。今日は誰とも会う約束はしていないはずなんだが。はーいと間延びした返事の後、私は部屋の扉を開けた。


「セシリア、少し出かけないか?」

「……お父様?」


 そこには、いつもは仕事をしているはずのお父様がいた。また何かお説教かと一瞬身構えたものの、出かけないかという申し出に安堵する。そろそろ窮屈になってきていたから、外出はありがたい。そういえば、謹慎も今日までだった。


「行きます!」

 

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