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小さな魔女の物語

深い深い森の中。


僅かに射し込む陽の光が、地面に突き刺さる光の矢のようにその場所の草花を育んでいる。


その薄暗いなだらかな傾斜を作っている獣道を、小さな影が何かを引き摺る様に下っていた。


『よいしょ、よいしょ…』

 

それは、白いワンピースに皮のブーツ、白いとんがり帽子をかぶった小さな白い魔女であった。


マユミとアイは突然現れてその小さな白い魔女を驚かせては申し訳ないと、少し離れた所に姿を現して声を掛けることにした。


案の定、此方を見付けて警戒するように立ち止まる白い魔女。


「ごきげんよう。白い魔女さん。」


「こんにちは。私達は旅の者よ。」


笑顔で話し掛けると、野党の類では無いと思ってくれたのか白い魔女の緊張も解けたようだ。


『こんにちは、旅のお方。』


「随分重たい荷物を引いているようだが、それは一体何なんだい?」


マユミは麻のような布で包まれた、大人が一抱えする程の大きさの荷物に興味を惹かれたようだ。


『フフフッ。気になる?そうよね!』


白い魔女は空の様に青い瞳の可愛らしい少女であった。クリクリとした長い巻き毛の髪を優雅な仕草で後に払うと、右手の人差し指をピンと立て、


『そうでしょう、そうでしょう。では賢者の森の白の魔女、このマーヤが教えて差し上げましょう。』


「フフフッ。是非お願いするよ、マーヤ。私はマユミ。」


「私はアイよ。よろしくね!」


マーヤはニコニコしながら頷くと、手にしていたロープをポイと手放し、荷を解き始める。


チラチラとマユミとアイの反応を伺いながな、マーヤはゆっくりと包んでいる布をめくっていく。そして、チラリと中身が見えた所で手を止めた。


『さあさあ、もっと近くで見ても良いのよ?』


マユミとアイはそのマーヤの言い回しが可笑しくて、顔を見合せくすりと笑う。


そしてマーヤは最後の布を優しくめくった。


『…見て、凄いでしょう?』


「うわ〜…こんなの見たことないわ…」


「…これは…卵か?…だが、凄く大きいな…」


「恐竜か何かの卵かしら?」


「大きさもそうだが、この模様も奇抜だな。」


マーヤは二人の顔を観察しながら、ニマニマと頬を緩めている。


『貴女方は非常に良い反応をしてくれたから、特別に教えて差し上げましょう!良いですか?特別ですよ!』


マーヤは突き出した人差し指を、チッチッと左右に振ると、偉そうに腰に手を当てて語り始めた。


『…それは、ある激しい雨が降る夜の事です……』


マーヤは森の外れの小さな家の窓から、ここ数日降り続く激しい雨を眺めていた。

穏やかな春の日差しも好きであるが、この様に激しく暴力的な天候も、自然の感情が爆発している様で大好きであった。


時より視界を奪うほどの稲妻が走り、間を置かずに轟が響き渡る。その様の何と心躍る光景だろう。


『ああ、素晴らしいわ!あの力に触れてみたい…でも私など一瞬で燃え尽きてしまう事でしょうね…』


屋根に叩きつける大粒の雨の音を聴きながら、マーヤは眠りに就いた。


そしてとてもとても長い夢を見た。

マーヤは双子の妹と共に、聖なる大地の神様に会うための長い旅を続けていた。

白の魔女マーヤ、黒の魔女マーサ。二人の美しい姉妹の旅にはもう一人の仲間がいた。

それは禍々しい気を放つ一柱の龍である。


雷の力を纏ったその龍をマーヤは龍神様と呼び、恋慕った。だが所詮は人と龍、共に生きる時は儚く短い。


道半ばで袂を分かつ龍神様を想いながら、マーヤはその生を終えたのであった。


そんな不思議な夢を見た翌日、あの激しく降り続いていた雨が嘘であったかの様に穏やかな朝であった。


清々しい朝日を浴びながら、ふと賢者の森の方に目をやると、何やらピカリと光る物が目に入った。


それが気になって仕方が無いマーヤは森に入り、清らかな泉の側にあったこの大きな卵を見付けたのである。


『これは雷龍の卵よ。触ってみて。』


マユミとアイがその大きな卵に触れてみると、トクントクンと命の脈動を感じることが出来た。


「凄いな…今にも生まれそうだ。」


途轍(とてつ)もない力を感じるわ。」


マーヤは満足そうに頷いている。


『うんうん。それで相談なんだけど、この卵は私には少し重くって…私の家まで運ぶのを手伝ってもらえないかしら?』


「そうだね、マーヤ。良い話を聞かせてもらったお礼にお手伝いさせてもらうよ。」


マユミは指で印を結ぶと何やら呟き、卵に手をかざす。すると、卵はフワリと浮かび上がった。


『うわ~その魔法便利ね!ねえ!私の家に泊まっていかない?その魔法を教えてもらいたいわ!』


「フフフッ。勿論良いよ?私も白の魔女の魔法が知りたいと思っていたんだ。」


「隊長とマーヤは凄く相性が良さそうですね!隊長に友達が出来るなんて、私も感激です!」


「……」


マユミは迂闊にも返す言葉を思い付けなかったので、チラリとアイに目線を送るとスルーする事にしたようだ。


『さあさあ、私の家は向こうだよ?』


ご機嫌なマーヤの後を追い、森を抜ける獣道を歩き出す。


マユミは先程聞いたマーヤの夢の話を思い返していた。

恐らくそれは、マーヤの前世の記憶。

彼女は今世でもその想い人を導き、探し出したのであろう。

そして、それは幾度も幾度も繰り返されているに違いない。

人と龍、異なる時の流れを生きる者のその恋は、決して悲恋等では無いようだ。


「今夜は素敵な物語を唄えそうだ…」


そんなマユミの呟きが聞こえたかのようにチラリと振り返ったマーヤの笑顔は、射し込む陽の光に照らされて、まだあどけなさの残る少女には似つかわしくない慈母の様な優しい笑顔であった。


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