竜宮城
「うーん!やっぱり晴れた日の甲羅干しは最高だわ!」
「亀じゃないんだから…フフッ、でも確かに気持ちが良いけどね。」
マユミとアイは二人して、小さな湖の大きな岩の上で横になり、羊雲が浮かぶ真っ青な空を見上げていた。
辺りは丈の短な草が生え揃い、まるで手入れのされた公園のようでもある。澄んだ湖水には小さな何かの稚魚達が群れを作って泳いでいるのが見えた。
「私はたまに充電しとかないと、夜にパワーダウンしちゃいますからね!」
「うん、予備電源でも探そうか。昔の漫画で亀の甲羅を背負って修行している男の子がいたよ?もしかしたら、あれが予備電源なのかも知れない。」
「あっ!それ読んだことありますよ!結構面白かったな!」
「よし、大きな亀の甲羅を探す旅に出よう。」
「あははは!それも良いですね!何処にあるんだろう?やっぱり竜宮城ですかね?」
「流石にアイは博識だな。竜宮城ならば大抵の甲羅は手に入るに違いない。」
「隊長!それには先ずは海を見つけなければなりません…あれ?この前、海に行きませんでしたっけ?」
「あの階層には戻れる気がしないな。恐らくもう階層を逆行しても同じ所へとは繋がっていないだろう。そんな気がするよ?」
「こんな時のために良いアイテムがあるじゃないですか!…ちょっと怖いけど使ってみませんか?」
「……願いの指輪…か。これは危険だから滅多な事では使うな、と御父様が仰っていた。自分達の力量を超えるものを呼び寄せてしまうかも知れない、とも。」
「でも竜宮城…行ってみたくないですか?」
アイは右手の人差し指に嵌めているオレンジ色に輝く指輪を太陽に向けて掲げ、マユミに向かって楽しそうに笑い掛ける。
「ふん…」
マユミはツンとそっぽを向くと目を閉じる。
「……行こうか。」
マユミがそう呟いた途端、湖から特大の水柱が立ち昇る。
「実はもう使っちゃいました!えへへっ!」
津波の様な波紋が湖畔に押し寄せ、マユミとアイを飲み込もうと迫ったが、二人は咄嗟に空へと逃れた。
上空から湖を見下ろしてみると、ザッパーンと大きな音を立てて姿を現したのは、それはそれは大きなウミガメであった。
「やっぱりこの指輪は危険だわ。」
「でも隊長、大人しそうな亀さんですよ?亀さん!亀さんのお名前は何ていうの?」
「私の名前はアイ。むかしむかし、大きな甲羅を求めて竜宮城へ行き、大きな亀の甲羅をもらったの。でも竜宮城から帰ってきて、その甲羅を背負ってみると、こんな姿になってしまったのよ。」
「…そ…そんな…これが…わ…わたし…」
「アイ…アイ…」
「いやーー!!」
アイは絶叫と共に起き上がった頭をパコーンと叩かれ、再び眠りに落ちた。
「…煩いわよ。まったく、どんな夢見てるんだか。」
マユミは一つ伸びをすると、スタスタと木陰に移動して腰を下ろし、愛用の三味線を手にした。
それは夏の夜の夢、怖い怖い身の毛もよだつ怪談である。
「お昼寝の邪魔をされたお返しよ?」
何やら悶え苦しむアイを横目に、夏の夜の怪談はアイが湖にチャポンと転がり落ちるまで続いたのであった。
「隊長!!私もう絶対に願いの指輪は使わ無いわ!!」
「フフフッ。」
長い長い結びの回廊。ふんわりと柑橘の香りが漂う、ある夏の日の想い出であった。