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紅い月夜の人狼 後編

私は何か罪を犯したのだろう。

そうで無ければこの様に群れを追われ、命を狙われる訳が無い。

追っ手である五人の兄妹の内四人は返討にしたが、紅い月の力を取り込んだ長兄にだけは後れを取ってしまった。

草原を抜けた所で左足の腱を斬られ、もう立ち上がる事も出来ない。

感情の無い命の奪い合いは、どうやら私の負けらしい。


『…母様?』


不意に懐かしく優しい香りに包まれて、もう見えない目を開ける。


「助ける。喋るな」


酷く冷たく響いたその言葉とは裏腹に、赤子の様に優しく抱き上げられると私は意識を手離した。


−−−−−−−−−−−−−−−


「気が付いたか。これを飲みなさい。」


ドロドロとして鼻を突く匂いのする薬湯も體が欲しているのだろう、すんなりと喉を通っていく。

幾夜かの看病を受け、何とか意識を保てる様になった。命が繋がったのはこの人間達のお陰である。

蒼い月の加護を持つ黒く長い髪の女と、太陽の加護を持つ陽炎を纏った女。

何故か瀕死の私を助けた二人は、共に柔らかく暖かい匂いを纏っていた。


『……と…、あり…が…とう』


「気紛れで助けた。礼など不要だ。」


「もう、隊長ったら。…フフフッ。大丈夫、照れてるだけなのよ。心配は要らないから、まだ無理しないで休みなさい。」


優しく気遣う言葉であったが、私は焚火に掛けられた鍋の匂いにどうしようもない空腹を覚えてしまう。


『…おなか、すいた…』


「あら!食欲あるなんて流石ね!」


「フッ……粥にするから待っていろ。」


月の女の黒い瞳が焚火の光に照らされると、その奥に桜色の輝きを秘めているのが分かる。


『…きれい…』


思わず口にした呟きに、月の女は初めて微笑みを浮かべる。


「私はマユミ。」


「アイよ!宜しくね!」


『…りん…と言います』


「さあ、お食べ」


少しずつ體をずらし上体を起こしてみると、むず痒い痛みが襲ってくるが動かせない程でも無い。急所は外してはいたものの、細かく斬られた神経が生えて来るまで戦闘は出来そうになかった。


「ほら、食べさせてあげるわ。」


手を開いたり閉じたりして上手く動かせない指を確認していると、アイが後ろから抱く様にして食べさせてくれた。


空腹が満たされると途端に贖えない眠気が襲って来る。そのままアイに抱かれて意識を手離した。


「………」


マユミは、そんなりんを複雑な気持ちで見ていた。咄嗟に助けたは良いが、これからの関わり方を決めかねていたのだった。

マユミの施術と人狼の生命力をもってしても、満足に動けるには半年は必要だろう。特に急ぐ旅路では無いものの、それ程深く関わりを持つということに抵抗があった。


「フフフッ。隊長?この子の子守唄にお願いしたいわ。」


そんなマユミの心情を察して、アイがいつものおねだりをする。


静かに始まるその唄は、恵みの大地の神々の物語。


出会い、共に喜び共に悲しみ、争い、別れ…


「……そうか、これが出会いか。…私達もまた、神話の中を生きているんだな。」


いつの日か、今日この時も語り継がれる物語の一つとなるかも知れない。そんな事を考えると、自然と気持ちが晴れていくマユミであった。

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